【ハイディ、マリア視点】逃げる者と探す者

 ハイディ・バーミンガクは逃げていた。

 ウィンフィールドに蹴とばされたこと、お腹はまだじんじんと痛むけれど、自分が彼によって逃がされたことは深く理解している。

 

「ノースラディ家の別荘に近づかないで! モンスターの襲来よ! ギルド職員に連絡して! 下位のギルドは駄目ですわ! 上位ギルドの職員をッ!」


 ホーエルン魔法学園領に莫大なお金を出資しているノースラディ家の別荘。


 ノースラディ家の関係者は、その資本を湯水のように使い、このホーエルン魔法学園において確固たる地位を築いている。

 その財力は、ノースラデイのみの関係者で運営される冒険者ギルドがある程だ。


「ノースラディ家に近づいては駄目ですわ!」


 あのモンスターはノースラディ家の関係者であるギルド職員を騙り、ハイディを別荘に招待した。まさかこのホーエルン魔法学園で、ノースラディ家の関係者を騙る者がいると思わなかった。


 並木通りを下りながら、ハイディは道行く人に、この閑静な住宅街に危機が迫っていることを伝え続ける。

 モンスター襲来が頻繁に起きていたのは過去の話だ。ギルド職員が街に滞在するようになってからは久しく無くなった。嘘であれば、ハイディは厳しく罰せられることになるが、事実なので彼女に躊躇いはなかった。


「……あれは!」


 そして、坂道を上がってくる見知った顔を見つける。

 存在感を強く感じる、男女。

 ハイディは、二人のことをよく知っていた。ついさっき、水の洞窟で同じ道を選択し、争ったばかりだからだ。



 あの二人とは友好的な関係にあるとは思わない。


 水の洞窟では、全力を掛けて争ったし、勝利をもぎ取るために卑怯な手を使ってもいる。


 それが依頼を掛けて争う冒険者の生き方であるが、二年生になったばかりの彼らが理解しているとも思えない。勝利に意地汚い先輩と思われていても可笑しくないのだ。少し俯き加減になりながら、ハイディはやり過ごそうとするが。


 すれ違いざまに、驚くべき二人の言葉を聞いてしまう。

 

 マリアとズレータの二人は——ノースラディ家の別荘に向かっている。 

 だから、ハイディはマリアの肩を掴んだ。





 マリア・ニュートラルは、ハイディ・バーミンガクの言葉を聞いても怖気づくことは無かった。


「馬鹿言わないで! マリア! 本気よ! 本気でこの先は危ないの!」

「私が何をしようと——貴方には、関係がないと思いますけど」


 マリア・ニュートラルはウィンフィールドの行方を探して、ここまでやってきた。

 この学園でちょっとした有名人になりつつある彼を見たという学生らの証言を纏めると、ノースラディ家の別荘に行きついたのだ。


「お、おいマリア。ハイディ先輩の様子が可笑しいって。やっぱり、止めたほうがいいんじゃねえの?」

「ズレータ。別に着いてきてなんて頼んでないよ」

「いや、そうだけどよお……俺はお前のパーティメンバーとしてだな……」


 傍目から見ると、ズレータと呼ばれる職業『侍』の少年が、清楚な美少女であるマリアにお熱なのは火を見るよりも明らかだ。

 気付いていないと思っているのは当事者ぐらいのもの。

 

「私、ウィンフィールドに避けられている気がする」

「いや、マリアお前なあ……自分があいつに何していたのかまだ分かってないのかよ……割と一年生の頃からあいつは嫌がってたけどな。お前に絡まれて嫌がれるのはあいつのぐらいのもんだったけど……」


 誰もかれも、自分の行動が周りからどう思われているか無頓着なもの。

 マリアもその一人。自分を客観的に見れない代表格だった。


「こんな場所で時間を潰す気は無いから。私は行くよ」

「だからーー! 何で、分からないのんですの!? ノースラディ家の別荘にとんでもないモンスターがいるって何度言ったら分かるんですの!?」


 マリアが知るウィンフィールドの性格と、学園で出会った彼の性格は昔と大きくかけ離れていて、最初は戸惑ったものだ。


 だけどマリアは彼の性格の変化を悪霊に取りつかれていると判断した。

 

「ハイディ先輩。邪魔です」

「聖女見習い、マリア・ニュートラルがこれだけ石頭なんて知りませんでしたわ!」

 

 マリアが聖女を目指している理由も、家を出て名前を捨て、高等教育を受けた理由も。全てが過去、ウィンフィールドと知り合って、過ごした数日間に理由を持つ。


 マリアの人生を一変させた相手。

 ウィンフィールド本人も知らないだろう。彼が『厄病神ゴースト』という隠れ職業を持っていることをマリアが知っているなんて。そして、当然。ウィンフィールドに纏わりつく『厄病神ゴースト』を浄化するために、彼女が聖女を目指していることも。


「——おいおい、お前ら。まだ喧嘩しているのか? ちょうどいい。お前ら、ノースラディ家の別荘を知らないか? 何やらモンスターが現れたそうなんだが……あいつらの邸宅は数が多すぎて分からねえんだ」


 12番の冒険者ギルドに勤務する有名人。

 ホーエルン魔法学園が誇る守護者が、呆れた顔で三人を見つめた。




――――——―――――――————————

エアロ「ミサキちゃん……何か良いことあった? 何だか前より明るく見えるわね」

ミサキ「そう?」

エアロ「ええ。全然、違うわ」

ミサキ「へへへ、そっかあ……」



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