第44話 奇麗な迷宮は観光するもの

 ヨアハに呼び集められる。

 集まったのは三人。この場にいるパーティリーダ達だ。


「……何でいるの? この依頼は冒険者ランクが16じゃ受けられない筈」


 深い蒼色の長髪。

 白を基調とするホーエルン魔法学園の制服を着て、如何にもな優等生のマリア様が俺を睨んでいる。


「マリア。何でそれをお前に言わないといけないんだよ」


「は! もしかして私がこの依頼を受けることを知っていて付けてきたの!」


 止めろ。長杖をこちらに向けるなって。 


「はあ!? そんなの有るわけないだろ! それに俺の方が先にいただろ!」


「——おい。マリアにウィンフィールド。私語は慎め」


 そこからもマリアがちらちらと隣の俺の顔を見ている。

 滅茶苦茶何か言いたげだなあ。まあ、俺はマリアがこの依頼を受けることを予想していた。マリア達にとっても二年生になって、念願のパーティとして最初の依頼。

 

 水の洞窟。パーティメンバに改めてリーダーの実力を示すのにこれほどうってつけの依頼は無いだろうからさ。この依頼を見事、成功に導いたら、マリアらは名実共に二年生としては頭一つ抜け出したパーティになる。


 マリア・ニュートラルが率いるパーティメンバーは曲者ばかりだ。

 彼らを率いるためにも、今のマリアが受けられる最高難度のパーティを受けて成功に導く必要がある。


「さて。パーティリーダであるお前たちは既にパーティメンバーに今回の依頼がどういうものか伝えているか? ああ、ハイディ。お前たちは二回目だから、言うまでもないと思うが。さすがに前回のような愚かな真似はしないことを願っているぞ」

  

「何度も何度も嫌な過去を思い出してくれますわね……このエセ守護神! でも当たり前ですわ。前回のような恥はさらしませんから!」


「ならばいいが。さて、この水の洞窟は選ぶ道によって、道の長さと、水中から飛び出してくるモンスターの強さが大きく異なる。最も優しく小さい道を選び続ければ数時間は掛かるが、最も難しく大きな道を選び続ければ数十分も掛からない。さて、どの道を選ぶかはお前たちパーティリーダの選択次第だ。それじゃあ、地図を渡す」


 俺たちの顔を見て、ヨアハは迷宮の地図を渡す。

 水の洞窟はホーエルン管理下にある迷宮だ。定期的にギルド職員が潜っていて、地図を更新している。


 この依頼を受けたパーティは、ドームと繋がっている道の最奥からアイテムを取ってきて、その速さを競うものである。


「まさか新人が二組もいるなんて思ってもいませんでしたけど、手加減するつもりなんかありませんことよ? 聖女見習いのマリア!」


「私たちだって先輩から手加減される程、弱くありません! ハイディ先輩!」


 既に俺は蚊帳の外である。ハイディ先輩は、マリアのパーティしか興味ないようだ。


 勿体ないなぁ。こんな綺麗な光景には一切目を向けないなんて。

 俺からすれば、この迷宮は訓練に使うよりもデート用にしたほうがいいと思うんだけど。

 

「分かっていると思うが、時間との勝負だ——行け!」


 ヨアハの言葉に、ハイディがまず行動を開始。


「皆さん! 計画通りに左の道を行きますわ! あら二年生のマリア! 貴方達も私と一緒の道を選ぶのかしら?」


「ハイディ先輩こそ、一年生の頃は最難の道を選択して、引率のギルド職員に助けられたって聞きました!」


「下級生にまで舐められるなんて……屈辱ですわ!」


 俺たちがいるドーム、端っこに水中へ続く結界に守られた3つの道が見える。

 それぞれ、目に見えて大きさの違う道。

 進めば進むほど、3つと言わず10や100にも道が分かれていく。


 道が分かれる度にパーティーリーダーは選択しないといけないのである。

 パーティメンバの状況を見ながら、どの道をいくかってさ。


 だからパーティリーダとパーティメンバの意思疎通が何よりも重要で、水の洞窟は仲間との絆を試す依頼とか影では言われている。


「マリア! 有望とか色々言われているようですけど、私たちと同じルートを行くつもりなら後悔しますわよ!」


「私たちだって負けるつもりはありませんよ!? ハイディ先輩! じゃあズレータ! 手筈道りいこう! 私たちは後ろから巻き返す! 先頭は先輩らに譲るよ!」


 マリアとハイディは最も難易度が低いけれど、長い道を進むようだ。


 この水の洞窟、さっきヨアハから地図を渡されたわけだけど、実は裏の流通では地図が売られていたりする。ハイディやマリアが即座に動き出すことが出来たのは、情報を手にれ手予めどのルートで進むか検討をつけていたからだろう。

 しかもハイディに至っては二回目らしいし。




 さて。あの二組が消えたら、この水の洞窟出発点は急に静かになった。

 これでやっと、この絶景を楽しめるってもんだよ。


「……ウィンフィールド。お前たちはいかないのか? すっかり出遅れてしまったようだが」


 随行のギルド職員、ヨアハが呆れた顔で、残された俺たちを見ていた。


 そんなギルド職員に俺は答える。


「負けるつもりもないですけど……観光デート



―――――――――――————————

マリア「……ウィンに良い所を見せる。ウィンに良い所を見せる」

ズレータ「何だマリア。さっきから一人でぶつぶつ呟いて……うお! さっそくモンスターが出てきたぞ!」


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