第7話 『聖マリ』主人公のステータス
職業『大賢者』に至った人間は大体が伝説を残している。
異常気象の原因を見抜いて世界を救ったり。
英雄になる人間に的確なアドバイスを与えて成長を促したり。
災いをもたらす黒ドラゴンを可愛らしいペットに手懐けたり。
そういうことか。
大賢者になることで手に入れた特殊補正の力、ステータスで――俺は、これまでの大賢者の偉業がどうやって為されたのか、ある程度納得することが出来た。
この力は、最強だ。
同時に、勇者や大魔王といったステータス特化の最強職業とは、その力は一線を期している。能力特性が明らかに異なっている。
だけど、これぐらいが大賢者の能力の全てとは到底思えない。
レベルが上がれば、もっと大賢者の力を理解出来るんだろう。
レベル――上げたい。
今の俺は大賢者レベル1、まだ特殊補正の力のみを手に入れたに過ぎないんだ。例えば職業『魔法使い』だったら、レベルが上がるごとに新しい魔法を覚えることが出来るけど、大賢者だったら何が起こるんだろう。
よし、十分ステータスの力は楽しんだから、そろそろ行動開始するか。
まずは――友達を作ろう。それがレベルアップの秘訣だって、俺の奴隷『大神官』ミサキは言っていた。
俺が立ち上がろうとすると、視界に黒い影。
目の前に、誰かがやってきたようだった。
「こ、ここにいたのね! 最低の奴隷所有者!」
女の子だ。
声を震わせて俺を見ていた。急いでやってきたのか、肩で息をしていた。
外見を一言で表現するなら、可憐だろうか。ミサキ程じゃないけれど、肩幅が狭くて小さくて、深い蒼色の長髪。白を基調とするホーエルン魔法学園の制服をアレンジすることなく、しっかりと着こなして、
この青春通りを歩いていれば、誰もが振り返り二度見してしまうような華を持っている女の子だった。
「昨日のことは聞いたわ! わ、わ、私のことを、告げ口卑怯者とかいったらしいじゃない! だ、誰が告げ口よ! 私はただ……貴方が奴隷を所有していることが如何にこの先進都市ホーエルンの名誉を傷つけているかを伝えに行っただけ!」
シミの一つもない、白い肌を真っ赤にした女の子。
彼女は『魔法使い』系の職業に就いている証の長杖を俺に突き付けて、今にも魔法をぶっ放そうとしているのが、聖マリの主人公マリアであった。
主要人物中の主要人物。
大人気恋愛ゲーム、『聖女様って呼ばないで!』の主人公。
「卑怯なのは、どっちよ! 奴隷を所有している方が、よっぽど不名誉でしょ! あの可愛らしい子を奴隷にして、一体何してるのよ!」
俺の人生は恐らく、この女からどうやって逃げるかということにかかっている。
いつもなら、マリアの口上を無視してその場を逃げ出すんだけど、今日は違った。
俺はもう反射的に、マリアをステータスで確認してしまった。
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名前:マリア・ニュートラル
性別:女
種族:人間(聖女見習い)
レベル:3
ジョブ:『常人』『魔法使い』『神官』『聖女見習い』
隠れ職業;『聖女』※特殊補正のみ。ステータス値に『聖女』反映はされません。
HP:137/137
MP:10800/10800
攻撃力:56
防御力: 170
俊敏力: 310
魔力:71000
知力: 1200
幸運: 55
悩み :睡眠不足。ウィンフィールドが可愛らしい奴隷を所有していることが悩みで、それを考え出すと夜眠れません。ウィンフィールドがあんなボロ家に住んでいるも許せないし、あの人には私だけがいればいいと思ってます。
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「は……?」
俺は、聖女マリアのステータスを見て、目を疑った。
相変わらずぶっとんだステータスだ。二年生になったばかりなのに、職業『魔法使い』も職業『神官』も達成済みだし、希少な神官から、さらに珍しい職業『聖女見習い』に進化している。
強い。ただ、ただ、強力だ。
でも、マリアがぶっ飛んだ強さを誇っているのは、このホーエルン魔法学園に通う誰もが知っている。
そこじゃない。俺が注目したのは、ステータスよりも下の欄だ。
大賢者となったことで見えるようになったそこに、書かれていた文字に着目していた。間違いじゃないか? 目をゴシゴシとこすって、もう一度確認する。
「な、なによ! 今更、私の美貌に驚いたっていうの! この奴隷所有者!」
違う。そうじゃないんだマリア。
俺はもう、聖女マリアの姿なんて見慣れている。こいつに限っては、見惚れているなんてこと、あるわけない。俺はこいつのせいで、最悪な目にあっているんだから。
マリアのステータス、悩みの欄。状態に、睡眠不足と。
そして、そこから先には俺が理解できないものが写っていたのである。
悩み :睡眠不足。ウィンフィールドが可愛らしい奴隷を所有していることが悩みで、それを考え出すと夜眠れません。ウィンフィールドがあんなボロ家に住んでいるも許せないし、あの人には私だけがいればいいと思ってます。
じょ、冗談だろ……。これは一体、どういうことだ。
「うぃ、ウィンフィールド! 忙しい私があなたを探したのは、理由があるから! 心を綺麗にして、聞きなさい!」
聖女マリアは何かと俺に絡んでくる。
授業でも二人組作って~なんて最悪イベントが発生するときは、あいつは率先して俺とペアを組もうとするんだ。
マリアは学園の有名人だ。一年生の頃から、先輩に誘われて冒険者パーティに加入し、迷宮に潜っている。二年生の中では一番経験を積んでいるし、在学中に『聖女見習い』を卒業して、『聖女』に到達するだろうって考えられている。
このホーエルン魔法学園が誇る、最強エリートの一人。
そんなマリアが授業中は何かと絡んでくるんだから、マリアとお近づきになりたい奴らから俺は嫌われている。
マリアがどうして俺とペアを組もうとするのかだけど、あいつは奴隷が大嫌いだから、俺にミサキを解放しろって毎回、訴えかけてくるんだ。
「あなたが、奴隷を解放するって言うのなら、私のパーティに入れてあげてもいいのよ!」
そんなマリアからのパーティへの誘いに――絶句した。
俺だけじゃなかった。青春通りを歩いていた一年生は気付いていないようだけど、彼女は非常に有名人。ホーエルン魔法学園に入学してたった一年で、職業『魔法使い』と職業『神官』を達成した天才児、マリア・ニュートラル。
二年生以上の生徒は足を止め、目を見開いて、俺たちを見ていた。
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