レベル1.有望な一年生をスカウトしよう

第5話 救国の英雄。見る影なし

 大賢者に進化した翌日。

 俺たち新二年生は朝から大講堂にぎゅうぎゅうづめに押し込められて、この学園のお偉いないさんの話をひたすら聞いていた。

 午前中ずっと、このホーエルン魔法学園が設立された目的とか、冒険者となって明記を潜ることが上級職業への進化で最も効率が良い話とか、誰もが知っている話を改めて強調して教えられたって感じかな。


 俺は椅子に座りながら半分以上寝て過ごしていたけどいたけどそこは問題ないだろう。 


 なにせ、俺はこのゲーム『聖女様って、呼ばないで!』のユーザーだったからそこ辺はバッチリだ。 


 簡単に言えば二年生になったら、友達を集めてパーティーを作って迷宮に潜りましょうってこと。


 そして、俺の方針は決まっている。

 二年生のパーティーには入れない。入りたくても、入れない。

 既にホーエルン魔法学園の二年生において、奴隷所有者ウィンフィールドの評判は最悪だから。

 

 じゃあ、どうするか?

 そんなの簡単だ。簡単すぎる。

 何も知らない有望な新入生をスカウトするんだよ!


 ●


 ベンチに座って大通りの生徒の往来を眺めていた。

 人間が十人は横に歩いても余裕で歩けそうな広い通路だ。足元は石のブロックがきれいに積み重なり、道の両脇には花壇や建物が並んでいる。

 通称青春通りと呼ばれる学園の中心で俺は脚を組み、偉そうに新入生の様子を観察中だ。

 いきなり、ガンガン俺とパーティー組まない? ってアタックしてもドンびかれるだけだからな。


 ちょうどあそこに俺と同じ考えで、新入生を吟味している二年生の姿が見えた。


「――二年生になったんだからさぁ、すぐに迷宮に潜ろうよ! 記念すべき一回目はどこにする!」


「焦るなって! 俺たちみたいな弱小パーティーは、徹底した準備が大事だろ! 迷宮解禁初日に潜るなんて、学年の最上位パーティーだけの特権だろうが!」


 彼らの様子を見ながら、頭の中で恋愛ゲーム、聖マリの情報を整理する。


 聖マリの世界では、大きく分けてパートが4つに分けられる。


 一年生:主人公であるマリアを鍛える。

 二年生:パーティメンバを鍛える。パーティメンバの中から、聖女マリアのメインパートナを確定させる。

 三年生:学園の外に出て、冒険に出る。

 卒業後:好きに生きろ。ただし、絶対に大魔王は倒せ、大魔王討伐がホーエルン魔法学園卒業生の義務だ。


 そして、今日は二年生始まりの日。


 今日という日に、俺は賭けていた。


「やっぱり回復だろ! 神官職を探そう!」


神官プリーストって魔法使いの進化先の一つで、条件もとっても難しいのよ? 神官を雇おうと思ったらどれだけお金が掛かるか分かってるの? そこはアイテムで何とかするって決めたじゃない!」

 

 聖マリの世界では、職業が何よりも重要視される。

 この世界では職業と言うものが、その人間の価値を図る一つの指標となっている。

 職場を知れば、そいつの強さが大体分かるんだよ。(たまに隠蔽している人もいる、そういう奴は決まって強キャラだ)


 聖マリのプレーヤーは、まず大多数の学生を一人一人ステータス画面で確認することから始まる。

 職業や能力を見ながら、どいつを聖女マリアの冒険者パーティーに入れるかを考えるのだ。

 職業に関しても将来性があるかとか、自分のパーティーにかけている人材、とか、幅広い面でパーティー構成を考える必要がある。


「ウェルカム一年生ー! お前らの中で神官職に就いている天才はいないか?」


「ちょっとやめなさいって! 驚いてるでしょ! それに一年生で神官職になってる子なんて、有望すぎて私たちなんか相手にしてくれないわよ!」


 学園のいたる所では一年生らしき初々しい学生たちがパンフレットを持って、学園の施設を巡り歩いている光景が見える。


 そしてその周りでは二年生が、情報交換に勤しんでいた。

 一年生で学んできた全てが二年生からの迷宮探索に必要なことなのだ。


 二年生になった頃にはもう職業『常人ノーマル』の人間なんて誰もいない。

 誰もが『常人ノーマル』からステップアップして、戦闘職についている。

 才能がめちゃくちゃある人間は上級職になっているものもいるのだ。


 迷宮探索のための冒険者パーティー作り。

 そのために二年生の連中があちらこちらで情報交換に勤しんでいる。

 特殊な力を持った奴はいないかとか、迷宮に関する情報を売ってくれないかとか。


「一年生〜これから食堂案内するからついてこい! はぐれるなよ! この学園は広いから年に数人は行方不明な奴が出てくるからなあ!」


 しかし、懐かしいなぁの姿。

 一年生たちがキャッキャッしながら、引率の先生についていく。

 心が希望で満ち溢れているからか、彼ら全員顔が明るかった。

 この魔法学園の入学試験は倍率がエグくて、非常に難解なことでも有名だ。この学園に入学出来たとそういう事実だけで故郷ではさぞやちやほやされていただろ。


 俺にもあんな時代があっただろうか。


 ウィンフィール・ピクミンは、本来、控えめな男であった。

 隠れ職業『疫病神ゴースト』という、人に迷惑を掛ける性質を持っていたためか、人付き合いを恐れ、必要最低限のコミュニケーションしか取らない。

 その意思は、生者である俺にも色濃く受け継がれている。人並みの幸せがあれば十分、ウィンに英雄願望もない。

 ウィンフィールは自分の身の丈をわかっている人間と言えるだろう。


 ゲームの中では大賢者という素質があることを知りながら、一途にミサキを愛し破滅した馬鹿野郎だが。



 さて、この魔法学園が存在する巨大帝国にはあまり知られていないが、俺の故郷は非常にのどかな場所で、大魔王との戦争の影響も受けていない。


 転生者である俺はこのホーエルン魔法学園に来ることで面倒に巻き込まれる事はよくわかっていた。

 聖マリの主人公であるマリアと俺の相性は最悪だからな。

 じゃあなんで俺がこの学園にやってきたかと言うと、理由はたった一つ。


 俺は故郷ピクミンで、ウィンの才能を駆使し、やらかしすぎてしまったからだ。


「うわ! あそこに無口スケルトンがいる! まさかあいつも、新入生をスカウトする気か! 正気かよ!」


 この学園の奴らは知らないだろうが。

 大陸辺境の国ピクミンでは、『常人ノーマル』ウィンフィールドに転生した俺は国の歴史に残る、救国の英雄として扱われていた。


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