【朗報】体型に自信のなかったこの俺が、筋トレしたらチート級の筋肉になった! ちょっと魔王倒してくる!【ラノベ】

ネコ飼いたい丸

第一話 始まりの朝


「オリバ! 朝だよ! 今日はギルドに行く大事な日でしょ!!」


 かあさんの声が俺の部屋まで聞こえてきた。


 ついにこの日がやって来た。


 俺の住んでいる『プロタン王国』では今年十五歳になる若者で冒険者になりたい者は今日、『冒険者の日』にギルドへ行くことになっている。

 冒険者の登録をして、冒険者一人ひとりに適した職業と最初のスキルを授かるためだ。

 十五歳で学校を卒業してからはみんなそれぞれの職業を選び、生活しないといけない。


 子どものころから病弱でガリガリだった。

 そのせいで学校の同級生からやりたくない作業を押し付けられることも多かった。


 そんなやつらを見返せる、何でも打ち砕ける戦士や強力な攻撃魔法を放つ魔法使いになりたい。

 A級モンスターを倒して、上級冒険者になってあいつらを見返してやるんだ。

 そんなことを思いながらギルトへ向かった。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 ギルドは大きな平屋建ての建物だった。

 息を吸い込み、その大きな扉を開く。


 ギルドは今年十五歳になる若者で溢れかえっていた。

 知り合いがいないか周りを見渡す。


 同級生のアレックスとヤンが何やら遠くで盛り上がっているのが目についた。

 アレックスは赤髪でガタイの良いワイルドイケメン。

 ヤンは黒髪、色白細身のメガネクールガイだ。


「どうだった?」


 ふたりに話しかける。


「俺は武闘家だったぜ! スキルは『鉄の拳』。レベルが上がればすべてを砕けるってよ!」


 アレックスはでかい声で答えた。

 ほんとっ、ガタイの良いアレックスらしい。

 将来はきっと上級冒険者になるんだろう。


「ボクは魔法使いだったよ。防御メインのね。スキルは『氷の盾』。レベルが上がればどんな攻撃も通さないと言われたよ」


 これまたクールでいつも冷静沈着なヤンらしい職業とスキル。


 冒険者一人ひとりの個性・能力を最大限発揮できる職業を授かるという噂は本当のようだ。


 子供の頃から病弱だったことを思いだし、戦士や攻撃系魔法使いになれるか不安になってきた。


「そんなに心配すんなって! お前にあった最高の職業を神官様が授けてくれるって!」


 俺の表情が曇っていることに気づき、アレックスが励ましてくれた。


 ほんといいやつだな、お前。


「そうですよ。ボクとアレックスは一緒にパーティーを組む予定なんです。オリバ君が戦士か魔法使いだったら一緒にパーティーを組みましょう」


 お前もいいやつだな、ヤン。

 さらっと加入条件を付けてくるとこが冷静沈着なお前らしいよ。


「将来のパーティーメンバー候補だからさ、お前が職業を授かるとこ見届けてやるよ!」


 アレックスはそう言い、ヤンは静かに頷いた。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 俺たちは神官様のいる聖堂に移動した。


 職業とスキルを今まさに授かる者たちが神官様の前で長蛇の列をなしている。

 神官様はなんかすごい感じの白髭を生やした老人だった。

 フサフサの白髪が足元まで伸びている。

 白髭でひとり流しそうめんができるレベルだ。


 列に並んでいる冒険者たちは無言で落ち着かないようすだ。

 これで冒険者としての運命が決まるんだから当然だ。


 そんなことを考えていたらこっちまで緊張してきた……。

 アレックスとヤンが一緒にいてくれるのは嬉しいけど、緊張するものはする。

 職業とスキルを与える儀式は時間がかからないみたいで、どんどん前のほうへ進んでいく。


「次の者、前へ!」


 神官様の声が聖堂に響く。


 ついに俺の番だ。

 これで俺の人生が決まる……。


 短く空気を吸い、息を止めて一歩を踏みだした。


「オリバ・ラインハルトよ。我らの神ハルム様よりご神託を受け、そなたに冒険者としての職業とスキルを授けん。そなたの職業とスキルは……」


 俺の職業とスキルは……?

 緊張で息が止まる。

 次の言葉を待つ。


 …………


「……ボディビルダー? っと、 無限プロテイン……」


 ん?


 んんん?


 んんんんー??


 なんか今、変な声が聞こえた気がした。

 ボディビルダーとか無限プロテインとか聞こえた気がした。

 そうかアレか、思春期特有のアレか。

 ちょっと非現実を求めてしまうお年頃だから、勝手に現実を歪めてしまったに違いない。


 ありえないでしょ、そんな職業とスキル。聞いたことないもん。

 何かの間違いに違いない。


「オリバ・ラインハルトよ! 我らの神ハルム様より授かりし職業『ボディビルダー』とスキル『無限プロテイン』をもって、世界の平和を守られよ!」


 はい! 今しっかり、

『ボディビルダー』

『無限プロテイン』

 って言った!


 絶対に世界守れないよ!


 さっきは自信なさげに職業とスキルを告げたのに、今はもう完全に開き直ってやがる。


「神官様!! 待ってください! 職業がボディビルダーなんて聞いたことありせん! 何かの間違いではないでしょうか!?」


 俺は大声で叫んだ。


 周りも『ボディビルダー』という単語にザワザワし始める。


「はぅっ! ……お、オリバよ……これは私が決めたのではない。我らの神ハルム様がそなたにお与えになられた職業とスキルであるぞ……。そのことをよく考えられよ!」


「どのことですか!!」


 俺は叫ぶ。


「ボディビルダーはただの人間です! 戦士や魔法使いのような神の加護による特別な力がなければ魔物一匹倒せません!」


「ひゃうっ! ……そ、そういうでない。冒険者の能力を最大限発揮できるように職業とスキルは与えられておる……。その意味をもう一度よく考えられよ!!」


「どの意味ですか!!」


 俺はもう一度叫んだ。


 「……い、いい、色んな意味でじゃ! むしろもうすべてじゃ!! じ、自分の胸に手を当ててよく考えるがよいっ! ……さあ、オリバよ! 色んな意味で世界を救うのじゃ!!」


 神官の目が泳いでいる。


 こいつ何かミスったな!


 そう思ってさらに喋ろうとした瞬間――


「これ以上は神官様への冒涜ぼうとくとみなすぞ!」


 屈強な聖騎士ふたりが一瞬で俺の体を両サイドからはさんだ。


「ですが……」


 こうなってはもう何もできない。神官への冒頭は重罪だ。


 俺は怒りとやりきれなさで一杯になりながら、聖騎士ふたりに引きずられて聖堂を追い出される。


「夏までに痩せようと思ってたからじゃろうか……」


 神官がボソっと呟いた言葉が今でも耳に残っている。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 聖堂から追い出されると、アレックスとヤンが俺を待ってくれていた。

 ふたりとも下を向いて気まずそうにしている。


「お前、大変だったな……その……ボディー……なんとかっていう職業……」


 いつもの『!』はどうした、アレックス!

 そんなふうに言われると逆にこっちがツライ。

 そんな、喉にちっさいスライム詰まらせたような話しかたしないでくれよ……。

 いつものでかい声でその小さいスライムを吐き飛ばしてくれよ……。


「ボクもボディビルダーと無限プロテインは聞いたことないですねっ! 凄くレアな能力かもしれませんよ!!」


 お前の『!』はいらないよ、ヤン。

 無理してるのがヒシヒシと伝わってくる。


 こんなに取り乱したヤンを見るのは小学校以来だ。

 ブルーベリーと間違ってちっさいスライムをヤンに食べさせてしまったのだ。


 ふたりとも俺になんて声をかけていいのかわからないみたいで、下を向いてソワソワしている。

 一番やりきれないのは俺のほうだ。

 でも、ずっと憧れていた戦士や魔法使いになる夢が砕け散った反動で、もうどうでもよくなっていた。


 それでも一応、こんな俺でもパーティーのメンバーになれるかダメもとで聞いてみるか……。

 こいつらなら、もしかして受け入れてくれるかもしれない。


「なあ、さっき言ってたパ――」


「パーマいいですよね! ボクも今からパーマかけに行こうと思ってたんです!」


 ヤンが俺の言葉を遮る。


 お前、黒髪さらさらストレートヘアーだろ。それにパーマの話なんてさっき言ってねーよ。


 アレックスが口を開いた。


「オリバが言いたかったのはさ、パ――」


「パームクーヘンですよね!! わかります! この近くに美味しいパームクーヘン屋さんができましたよね!!」


 ヤンがまたしても俺の言葉を遮る。


 うん。それ、バームクーヘンな。

 それにないよ、この近くにバームクーヘン屋さん。


 ヤンの取り乱しようを見ていたら、自然と諦めがついた。


 冒険者は危険な仕事だ。

 ひとりの失敗でパーティーが全滅することもある。

 メンバー選びは生死を左右するほど重要なのだ。


 最初に『戦士や魔法使いだったら』パーティーに入れてくれるって言ってたしな。


「そうなんだ! 俺はこれから大事な用事があるから、お前らふたりでそのおいしいパームクーヘン食べに行ってくれ」


 俺は無理して明るくそう言った。


 ふたりは一瞬ホッとしたような表情をみせた。


 この優しさ。さすが友達思いな俺だ。

 我ながら惚れなおす。


 ふたりと別れるとき、友達思いな俺は爽やかにこう言った。


「じゃあまたな! ヤン、パーマ楽しみにしてるぜ!!」


 こうして俺の冒険者(職業『ボディビルダー』)としての第一歩が始まった。



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