第12話 反撃の刃文
静まり返った部屋の中、私は一人驚いていた、私の腰に蝕月の刀があったからだ、鞘は黒く光すら反射しないほどだ、その上に六角形の小さな“鏡”が付いていて周りを取り囲むように銀の縁取りがされている、まるで太陽だ、柄は黒と赤を基調とした力強い物だった
「蝕月きこえる?」
ここは変異的な世界、ダメ元でやってみたがやらないとわからないこともある、そしてここまで心強いか“仲間”がいることは
「ああ聞こえるぞ」
私は今までのことを蝕月に話した、顔のない女性が高確率で妖刀だという予想、そしてあの花畑はあの人の大事な場所だということを
「なるほどな」
そして蝕月からも教えてもらった私たちの世界の今を、相手も私と触れた瞬間に動かなくなった、そして私はかなり衰弱していること、それを風さんと紫狐さんでなんとか繋ぎ止めている事を、私達はその場から立ち上がり真っ先に彼女を探し始めた、私は念でしか話せない、この長所をどうにか使えないか、
「念は何処まで届く?」
蝕月のその質問で私はその場に座り瞑想を再び始めた、念を精一杯薄く広く広げた、そして私達の場所を割り出したその時、私たちの後ろに彼女はいた、
「蝕月私の後ろ!」
大きなあの太刀が私の首を切り取ろうとしていたが余裕で蝕月が防ぎ、太刀を受け流して足首を切った
「やはり強い」
そう言って消えていった、蝕月は私に駆け寄って驚いていた、そう私は気づかないうちに刀になっていたのだ、鞘には牙の模様が連なっていてその間を黒い線が這うようにして細く濃く描かれている、鐔は
「神酒、今度は俺がお前を守る」
蝕月は私を腰に帯刀して再び走り始めた
* * * * *
刀になれたことを実感できずに“ぼーっと“している私とは対照的に、蝕月は必死に走っている、
「刀の中は本人の力を回復させる、安心して休め」
刀の中はその人の気持ちに反応して部屋が作られる、私の部屋はいったって普通の部屋だ、だがどこか“見覚え”がある、そのせいかとても居心地が良くて癒される、外の声は頭に直接聞こえてくる片方から、誰にも見られない安心だ
「そこでさっきの念を飛ばせるか?」
蝕月は妖刀を感知できるそれと私の力を合わせるとすぐに見つかるだろう、地下は広い、そしてさっき襲ってきた彼女はまだ見つからない
「やってみる」
私はその場で座禅を組み瞑想を始めた、呼吸に集中して自分本体と空間の区別がつかなくなって行く、そして頭の中に先ほどいた空間の匂い、明るさ、蝕月の足音全てが呼吸をする毎に朦朧としていた物がだんだんとはっきりになって行く、目を瞑ったまま返事をする、返事をすると感覚が鈍くなって頭にある図が薄れていく
「難しいね」
蝕月は今も走り続けている、地下室にはたくさんの部屋があった、まさに地獄のような赤い空間に岩だらけの部屋、奥行きがないただの床なのにまるで落ちると錯覚する部屋、全て恐怖を煽る部屋だった、そして等々最後の部屋にたどり着いた
「ようやくきましたね」
そこは彼女一人が立っていた、私が最初に見た姿とは違って、現実の世界で見た服装に変わっている、明かりは彼女と私たちの間にある鉄の支えに入れられている松明一本だけだった、
「あなたは何故ここにいる?」
蝕月は構えもせずに話を聞き始めた、妖刀は蝕月の同族だが仲間とは限らない、蝕月は彼女を“信じた”のだ
「私は弱い、選ぶことを諦めてしまったからな」
彼女は刀を抜き始めた、火はもう少しで消えそうで、か弱い炎をチリチリと灯している、しかし蝕月は質問を続けた
「なぜ再び選ばない」
蝕月はとうとう鞘に右手を添えて腰を落とし、鐔を親指で押し上げ、刀身が少し顔を出して小さな火を映し出しているそして左足を後ろに下げて踵を上げ床からは埃が舞い上がった
「もちろん楽だからですよ」
彼女は再び刀を納めた、力を再び込めるかのように
「そうか」
蝕月も気配が変わった、さらに腰を下ろして手で柄を力づよく握り刃からは黒い煙が出ていた、例えるのならそれは呼吸だった
「私の名は“妖刀我呪”」
「俺の名前は“妖刀蝕月”」
その瞬間に火が消えた、暗くて見えない中二人の刀身がぶつかる音だけが聞こえる、私は蝕月の腰にいたが暗すぎてまともに見えなかった、だが念では感じることができた、力量は彼女の方が上だ
「力が違いすぎます」
蝕月は我呪の強力な攻撃を防いで暗闇に飲まれてしまった、私の刀の空間も不安定だ
「。。。」
蝕月は何も言わずに壁に叩きつけられた、脳震盪を起こしていて立ち上がろうとしても足に力が入らず壁を頼りに立ち上がっての繰り返しだった、蝕月はわからないになりにできないなりにあがいて戦っている
「神酒すまん、俺は俺のやり方で生きたい、だから俺を止めないでくれ、」
そう言って立ち上がり再び刀を交えた、すると段々と動きが鋭くなって、先ほどまで受けていた攻撃を避け反撃をし始めた
「強さとは弱さだ、驕り、慢心、怠惰、俺はそれを自分の力で力に変える」
我呪は力強く太刀を振り下ろした、空間が破裂しそうになるくらい大きな音が出る
「お前に何がわかる!」
蝕月はいとも容易く刀で受け止めて言った
「俺の呪いは“侵食”、己の弱さを侵食し強さに塗り替えることができる、弱さとは強さだ」
それを言い切る頃には我呪は動けないくらい衰弱していた、息を切らし、肩を上下に動かして最後には倒れてしまった、暗かった部屋には再び火が灯されていた
「それがただの妖刀か、」
彼女は座り込こみ刀を鞘にしまって自分の側に置いて正座をした、蝕月も刀を納め目の前に胡座をかく
「お前は自分の刀で自分を傷つけるかもしれないと怯えているだろう?」
蝕月は戦いの中で感じていた、彼も本気を出していなかった事を、何かに触れる事が怖くて、それを言い訳にして戦うことにすら全力を出していなかったのだ
「そうだったのか」
我呪は感覚的に何かに気づいた、自分に足りなかった物を
「あの花は、私が殺した生き物の数だ」
私たちが見たのは綺麗な花だったがそこには、計り知れない物が埋められていた
「蝕月、この人」
蝕月はすかさず言い放った、そして私たちは一人だと実感した、
「俺たちと旅をしないか、お前が力を出し切れるように手伝う、」
我呪は正座をやめ、立ち上がり自分の刀を再び持ち上げ私たちの目の前へ力強く床を踏みしめてきた、蝕月と我呪は固く握手を交わし、私たちの目の前は明るくなった
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