チェリーツインズ
夢を見ていた
第1話
チェリーツインズ
この国の名はスプリン国、別名 春の国。この国は 毎日春の気候なのだ、だから、この名がついた。他国との戦争はやっていない、いたって平和である。とても良い所だ。そして、オレはこの国に生まれた。
――そしてその国のちょっとした林の奥。そこは気候が穏やかなところで、とても背の高い木が何千本もあった。空は植物の葉で途切れていて、青さが見えない。そして、地面には植物が埋め尽くされていた。そこにオレはそっと寝転がり、一息つく。オレはある少女のことで頭がいっぱいだった。
その時カサカサ葉の音がした――と思えばある少女が目の前にいた。
その少女は橙色の髪で、目は黄色 11才ぐらいだった。声のトーンは高め。顔つきがオレに似ている少女だった。服装は動きやすそうなスカートズボン、上は長袖の服だった。この少女がオレの頭をのっとっている、オレは驚きを隠せなかった。
「キィ!もうっ。病人に心配させないで!」
そして、今にも泣き出しそうだった。
「メル!お前、どうして…」
メルという少女は、オレに最後まで言わせず、キィと呼んだ。今度は少し怒っている。
「あなたお城から出て何時間たったと思うの!」
「…一時間?」
「五時間よ!三つ 四つ 五つの五つ!」
メルは手を出して、五を示した。
「でも、どうしてメルが…」
「双子よ?私たち。何でもわかるわ。キィの事…」
「そうじゃなくて、病気……外に出てはいけないのだろう?」
メルは何も言わずうつむいていた。大丈夫と、つぶやきながら。
「……帰りましょう。母様が待ってらっしゃる。」
メルが足を踏み出した瞬間、倒れ込んだ。
「メル!」
オレはメルを受け止め、そっと地面に座らせた。メルはただ黙っていた。少し息づかいがつらそうになる。オレは口を開き
「母様には内緒で来たのだろう?こんな状態のメルを外に出すはずないからな。」
と言った。メルは図星をさされ、とまどった。
「オレだってメルの事なら分かる。だって…双子だから。」
「…キィには敵わないわ」
メルは苦笑した。
「オレだってメルには敵わないよ。」
オレもつられて苦笑する。やっぱり双子だな、とオレは言った。
オレはその後メルをおぶって城へと向かった。そして、歩いている際ふと思い出す。あの日の出来事を――。
メルはここ最近、息づかいが荒くなる。それが頻繁に起こるようになり、医者に相談した時の事だ…そして、ありえない事を聞いてしまった。オレは絶対にあって欲しくなかった。けど、しょうがない話だった。
メルは原因不明の病気で、治療しようがないという。長くもつかも分からない状況だ。それからというもの、メルは部屋にこもり、毎日色々な医者が診察する日々が続いていた。
「キィ、何か考えているでしょう。」
「まぁね。」
「教えなさい、あなたの口で教えなさい。」
それは、まるで何を考えているか知っているような口調だった。
「やだよ。どうしてメルに言う必要がある。」
「キィのつんつるテンテン!バカバカ。」
「落としてほしいの?」
オレは、メルの足を支えていた手を パッと離した。すると、メルは少し落ちかけ、瞬間にぎゅっと手に力を込め
「どんな事があっても、絶対離れないから!この、土色髪。紫色の目のくせに。」
と、言い放った。
「あぁ、そうですか。……やっぱり落として欲しいのか。」
オレはそれをじっと見ていた。そして、メルは落ちかけながら そっとつぶやく。
「キィは私が何者かしらないのかなぁ。」
「メルはメルだろ。」
すると、メルは悔しそうにこっちを見る。
「……!ぶぅ、ちょっとどうして、一番言って欲しい事をさらっと言うのかなぁ?〝病人〟って言うかと思ったのに。言ったら、噛み付いてやろうと思ったのに……もぅっ、分かった。キィさん、様様ですな!感謝、そして反省!」
メルは怒りながらも、その声に怒りは感じられなかった。
「それでよろしい。」
オレは少しえばった声で言う。同時にメルの足に手を回す。そして、二人で笑った。メルと話すのは久々だった。メルはずっと、部屋にこもっていたからだ。だからこそか、とても、幸せに感じられた。
そうそう、オレとメルは王族の子だ。父様は今違う国にいる。オレ達は家がお城だ。国民にも信頼されている。
そして、城に着いた。母様は、随分心配していた様子でオレの方に近寄ってきた。母様は、黒髪で目は灰色 とても綺麗だ。声のトーンは少し低い。年は子供にも明かさない。名前はタミ。黒い長めのドレスを着ている。
そして、メルはメイドのノイに自分の部屋へと連れていかれた。オレはそれをそっと見つめていた。母様は言う
「あの子は、本当に怪盗のように部屋を抜け出すの。しっぽも捕まえられないの、怪盗になったら 警察の人はお手上げね。」
オレはぷっと吹き出した。母様もそれを見て、つられて笑った。
そして、オレも自分の部屋に戻った。太陽が赤く染まりっていた。
――一日がたった。また、メルの部屋に医者が入っていく。七三分けの医者で胡散臭かった。白衣をまとい、黒のシャツを下に着ていた。ズボンはタレタレ。中年オヤジだった。(ヒゲが中途半端な長さになっていた。)
また 無理です……。 とぼやくのだろうと、オレは見つめていた。すると、医者は口を開き、
「あるものがあればこの子は大丈夫ですよ。」
そう言った。低い変わった声だった。オレはしばらくボケッとしていた。実感がわかなかった。そして、時間をかけて理解した。でも、冗談だろうと思った。そうとしか思えなかった。
メイド達は、真剣にあるものとは?と、口々に聞く。
「『真の樹液』です。それを薬にすれば、もう安心でしょう。」
ここまでしっかり言われると、オレも少しずつ信じてきた。
「どうして分かるのですか?」
これは、メルだ。落ち着いた口調だった。
「え、えっと ま、まぁ、長年医者ですから…。でも、それがどこにあるかは知りません。」
医者はたじろいだ。その行動はとても怪しかった。メルは睨んだ。
「……私の考えでは、『純白の塔』にあると……」
それを聞いて人々は、恐怖を声に出す。この国の中心地にある塔の事だ。あまり、人が寄らない恐怖の場所と言われている。
「そこの男の子さん。行ってくれないか」
それは、オレのことだった。
「!キィ……駄目、駄目よ!キィは私の側にいて……!」
メルは言葉に詰まらせた。ノイも必死で止める。
「純白の塔は構造が狭いと聞いた事がある。だから子供の方が良い。それに君には体術もあると聞いたよ。仕掛けも解いていけるだろう。」
オレは医者を見た。何かを企んでいる様に見えた。キィ様やめて下さいと、兵士達までも混ざっていた。
「母様に任せる。」
医者は睨んだ。オレは軽く無視した。
「……キィ、樹液もだけど、あなたが生きて帰るのが一番よ」
母様は言った。女王様!?と、口々に聞こえる。メルはただ、うつむいて黙っていた。ほほに涙を流して――。
「はい。」
そして、オレは泣いているメルを背に、動きやすい服装に着替え、オレの武器(ステッキ)を持ち、城を出た。オレは純白の塔へと、向かった。
――行ってしまった。私の大事な人……私はその背中を見ることで精一杯だった。〝いってらっしゃい〟の言葉も言えず……そっと私の前から姿を消す。
私は弱かった。ただ涙が溢れた。止まらない、止まって欲しかったのに……ここで泣かずにいられたら、私はキィの帰りをそっと待つことができたのに。私は我慢することも笑うこともできなかった、弱い私。
ノイの友達サトも心配してこちらを見る。
「メル様…キィ様はきっと大丈夫ですよ!体術も優れていますし、大人にも負けないぐらいですよ?少々の傷で帰ってきますよ。」
そっとノイは言う。サトもうなずき。
「もしかすると、傷ひとつなく帰ってくるかもしれませんね。」
サトは微笑む。でも、私は笑う事ができなかった。
そして、間をあけて、母様が首をかしげて聞く。
「あなたはどうして泣くの。一番辛いのはきっとキィでしょうに。」
私は顔を上げ
「私の為に傷ついて欲しくなかったからです。大事な人が……行ってしまう位なら 私は……このままでも良かったのに――。」
言葉を発した、その途中何度も息がしにくくなった。ノイがこっちをそれでも、母様の言葉を待った。母様はそっと微笑み、
「確かに無傷で帰ってこられる所ではないのは承知しています。でも、どんなに止めても耳を傾けるような性格ではない。メルあなたもよく分かっているでしょう。」
それを聞いて 確かにそうだ、と思いうなずいた。
「なら、願いましょう…少年を、キィを信じて――。」
「…はい。」
私はほほに滴る涙を強引に拭いた。
「静かにしやがれ!」
誰かが怒鳴る。とたんに辺りは静かになる。その誰かを私は目にした――。
そして、気づいた。忍び寄る影に……
オレはたった今、純白の塔に着いた。塔はけっこう高く、純白なだけに濁ってもいない、まっさらな白だった。それがタイル状に積み重ねられていた。
そして、オレは入り口らしき門を開けた。
そこは、壁も床もガラス状で宝石のようだった。歩く音も雨をはじくように聞こえる。でも、天井は狭く 大人では入りづらい事に気が付いた。しばらく進むとはしごがあり、オレはそれを上っていった。
すると、床がガラスから氷に変わっていることに気が付いた。そこには、大きな門があり、遠くから見ると鏡に見える。そして、その前に長く白い衣を羽織った少女がこちらをずっと見ていた。髪は白で目は青かった。顔立ちは綺麗だ。そして、若く高い声で
「愚かなる侵入者よ」
と言った、がオレはすぐさま
「オレは愚かでない。しっかりとした使命がある。」
と、答えた。
「…!そうか。ならばなおさら!」
少女は手を広げる。すると、吹雪になった。立っていられないぐらいの強さだ。そして、氷の床からつるがでてきた。つるには痛々しいトゲが生えている。
「さぁ、侵入者よ 名を示せ。我はスリサズ、門番だ。戦おう、正々堂々。後ろにある『はじまりの門』に辿り着き、通り過ぎればそちらの勝ち。足が着けば我の勝ち。我が勝てばお主は死ぬ運命にあるのだ。」
「オレはキィだ。何が何でも勝つつもりだ、死なんて恐れていない。待ち人がいるから。」
「ふっ。キィか…お主はきっと我に歯向かった事を後悔するだろう。さぁ、始まりだ。」
―そして、戦いは始まった。吹雪と茨の戦いが…
オレはまず武器を手に取った。ステッキのような形だ。木でできている。
「そんな物、壊してやろう。」
すかさず茨のトゲが空中を散らばる。手で操っているので、トゲや吹雪を動かすたび衣が舞う。オレは体の前にステッキを持っていき、バトンのように回した。その回転のお陰でトゲは体に触れることなく、床に落ちていく。あちらも負けずと、トゲと氷の破片を飛ばす、少し角度を変えながら微調整をしていた。
当たればとても、痛そうなことだけは分かった。当たりたくないオレはトゲが来るたびに、蹴散らした。
「このステッキは丈夫な物ですので、きっとあなたのトゲでは壊れませんよー。」
オレは少し茶化した。別に深い理由は無い。無言の戦いは飽きたからだ。
「そうか……こちらとて、策があるからな。」
そう言うと、今度は狙いを変え 足に近い床を攻撃する。バランスを崩すために。仕方ないが、この連続攻撃の中で突撃はできない。オレは攻撃の逆方向に飛んでいく。
スリサズは素早く判断し、ほぼ床全体にトゲを刺してゆく。
オレは思いっきり飛んだ。うかつにも天井にもろぶつかった。
(そうだった。ここは構造が狭かった……)
オレはその衝撃でバランスを崩した。相手はチャンスとばかり、それに対応し強い吹雪を送る。体は揺れたが、なんとか持ち直し、かろうじてトゲのない地面に着地する。その瞬間トゲが足に刺さった。スリサズに目を向ける。手は真っ直ぐ伸びていて、まだまだ連射していたのだ。でも、歩けないほどのダメージは受けていなかった。だから、ステッキで軽く避けた。
「そろそろだ…」
「――何だ?」
オレはスリサズを見た。
スリサズの周りには、何か大きなオーラのような物があり、それを解き放とうとしていた。スリサズは攻撃をしている間 ずっと、力をためていたのだ。
(大きいのが来る!)
すぐさま直感した。オレは対応すべく体勢を整えた。
「愚かなる少年よ…」
スリサズは手を上に上げる。トゲと吹雪の固まりができた。挟み撃ちする気だ。そして、オレに猛スピードで投げた。上と下、まさに間はギリギリ。避けられないと思う奴はほとんどだろう。でも、オレは正直大丈夫だと思った。そして、言った。
「それは吉と出るか凶と出るか!」
まさに勝利宣言。トゲと吹雪の固まりが迫る。オレは下にしゃがんだ。すると、トゲがオレの動きに合わせ下に行く。ギリギリまで引きつける。そして、ステッキを軸にして 飛んだ。低空飛行とでも言えばいいのか…吹雪の固まりに当たらぬよう、トゲの上に乗る。すぐさま吹雪は攻撃する。それが頬にかすれる。トゲも方向を変えようとする。
その時、オレはトゲを思い切り蹴り上げた。まっすぐスリサズへと―
もちろんスリサズはしゃがみ避けた。オレはチャンスとばかり走り、門に飛びついた。これはオレの立派な勝利だった。
一人の残されたスリサズはそっと尻餅をつき、
「キィ…か。覚えておこうじゃないか…ついでにだが。我に勝った褒美だ。嬉しく思えよ、キィ」
と、つぶやいた。少し暖かいまなざしで…そして、静かにため息をつく。息が白く見え、消えた。
オレはスリサズに勝利し、次へと進んだ。『はじまりの門』は、移動用の物という事が分かった。入っていった後しばらく移動している感じがあったからだ。体が浮いている。周りは暗い闇で何も見えなかった。しばらくして、闇が光に変わった。
そして、気が付くと、床はふさふさの雪が積もっていて、上からも雪が降っていた。音も無くただ、静かに振っていた。奥に大きな氷が置いてあった。その隣にはひげの長い魔法使いのような男がいた。目は黒の色。しわだらけの顔 ぶかぶかのローブを着ていた。ローブにはフードがついていて、それを男は被っていた。そこから少し髪が出ている。色はもうすぐ白になりそうなグレーに近い感じだった。
オレはその上をゆっくり歩いていった。そして、男の近くまで行った。
「侵入者か……久しぶりじゃのぅ」
「そ、そうか?」
「そうじゃ、ほんのちょっと寂しかったぞぇ。もっと早よぉこんか!」
何故か怒られてしまった。このじいさんちょっと、ボケが入っていると思う。
「こらそこ!誰がボケとるかー!」「え」
オレは驚いた。
「ほら、座らんか!」
オレは言われるまま氷の上に座った。トゲに刺された傷にひんやりと当たり痛かった。
「ふぅむ……なるほど。では、坊やにとってメルという双子の存在を述べぬか。ほれ、わしが納得するまで考える!」
え?とオレは思った。メルの事なんて一言も話していないはずだった。
「わしは読心術を使用できる数少ないじいさんじゃ。ボケとらん!そうじゃ名乗るのを忘れとった。ナウシズというのじゃい。」
ナウシズというじいさんはえばった。そして、オレはある事に気が付いた。
「動け……ない」
体をどんなに動かしても、接着剤で張りつけられたようにピッタリ一体化していたのだ。
「わしが納得するまでそのままじゃっ。その内お前の体を雪が飲み込むからの。早おぅ頭を回転させ。」
オレはそれを聞いてすぐさま考えた。
―今思えばあまりそういう事を考えた覚えは無かった気がする。メルの存在……メルはオレと双子で、性格は寝ボすけで早起きは苦手。好きな食べ物 ケチャップ。毎日ご飯にケチャップかけて(オムライス)……って違う!存在感だ、存在感……メルは――
(くはは。考えとる、考えとる。頑張れよぃ。存在は『必要性』だからなぁ。その必要性に気づくか気づかないか……見物じゃ。……そろそろ読心術を解くか……)
嫌なことに、ナウシズは考えているオレをじっと、それもにやにやしながら、見てくる。何て最悪な気分だったことだろう。
はぁ。とため息をもらした――その瞬間、オレは大声を出した。雪は静かに降る。
「メル!」
「おいおい、どうした?」
オレはただ急いていた。顔が青ざめていったのが自分でも分かった。
どうして急いているか、さっき一瞬だけだったが メルの叫び声が聞こえたのだ。空耳でもなく、体に響き渡る叫び声……
オレはこのままでも、メルの所に飛んでいきたかった。でも、体が氷から離れない。オレはそれをとても恨んだが、しょうがなく無事を祈ることしかできなかった。
「ほれ、どうした。ギブか、ギブならバイバイじゃ。」
その声にオレは我に返り、そっと言った。
「えっと、メルはオレの事…よく考えてくれていたし、大事に思っていてくれた。そして何よりよく分かっていてくれた。」
「して、坊やの方は?」
「オレはメルを大事に思っていたが、ずっとは考えていられなかった。でも……今ようやく考えて気づいた。どうあがいても、メルがいなければオレでは無くなる事を…オレ達によく似た何かの果物があったような……?えっとそう!『さくらんぼ』だ。さくらんぼの様にオレにはメルがメルにはオレが『必要』なんだ。」
オレは気持ちをぶちまけた。オレの心の奥全てを言葉にして―。
ナウシズはただうなったままで、
「坊や、よう分かったよ。」
と言い、両手を挙げた。すると、雪と一体化したままのオレを包み込もうとしている。
「な!ちょっと!!分かったって言った……!」
ナウシズはオレに有無を言わせず雪に包み込んだ。ナウシズの姿はすぐに見えなくなった。そして、聞こえてなくても、ナウシズは言った。
「最後はあのお方だ。坊や…絶対にあの言葉は言ってはならぬぞ…」
ナウシズは上を見た。そして、もう一つ言った。
「坊やの双子ちゃんも頑張っておるぞ、キィさんや。」
――いたっ。誰かに殴られたのだと思う。しばらく気を失っていたようだった。私の部屋だが、周りの様子は随分変わっていた。
辺りにいた人々は、縄で縛られ 身動きができない状態だった。だけど私だけが動けるように足はしばらず、口をふさぎ 手を縛られていた。私は取りあえず、状況を把握した
どうしてこんな状態になったのか、それはきっと……あの男のせいだ。私は思い出す。
いかにも怪しかった医者、というより偽医者。あいつが全てやったのだ。
私は辺りを見回した。すると、そいつは近くにいた。視線は私にあった。偽医者は私が起きたのを確認し、母様のおでこに銃をつきつけて言う。
「こい。姫さんと話がしたい。優しい駆け引きってもんさ。黙ってついてこい。」
母様は顔をしかめた。どうやら、私に行って欲しくない様だった。でも、私は言った。
「……わかりました。」
母様は眉間にしわを寄せる。私はそれを見て、少し微笑んだ。大丈夫だと、言いたくて。そして、偽医者に黙ってついてゆく。キィも頑張っているのだから、私がやらなくて誰がやるのだ?私は偽医者を――。キィが帰ってくる前に、しっかり片を付ける――。
私はその言葉を心に刻み付け 歩く。考えるのは私の大事な人達の顔。
偽医者は、地下へと降りていった。私は置いていかれないよう、足を速めた。手が縛られており、走りにくかった。
そして、見たことの無い所に来た。真っ暗で、ろうそくの光が無ければ何も見えないほどだ。そして、そこには頑丈そうなドアがあった。
部屋の中に入る。やはり、中は暗かった。もちろん、誰もいない。あるのは、机と椅子ぐらいだった。偽医者私が入ったのを確認し、カギをかけた。そして、ここに来て初めて口を開き
「姫さんを気絶させた時、脅して聞いたのさ。内鍵のある人目のつかない部屋をさ。そしたら、ここだって答えたのさ。」
自慢するような声で私に言う。私は黙っていた ただアホらしかった。十一の女の子に面白くないことで、自慢する中年オヤジも考え物だと、私は強く思った。
「私に用があるのでしょう。早く言ってください。」
私は早口で言う。
「その前に敬語はいいからな。普通に喋って良いぞ。その方がこっちも喋りやすい。」
「じゃあ、早く言え。」
「……姫さん、一様姫様だろ?女の子だから、もっと綺麗な言葉を使おうな。まったくぅ」
「今のはぁ、キィが言ったの。」
私は嘘を言った。何だかこの偽医者と喋るのが面倒になってきた。それに、キィが近くにいるわけでもないのに、声が聞こえるなんてあるわけないのに。なのに、偽医者は何故か
「じゃあ、――で――なのか?まさか……」
などとつぶやき始めた。それは見ていてとても不気味だった。私は背筋が寒くなった。
「姫さん、オレは魔の力を求めているおじさんだ……。姫さん、あんたの力が欲しい。」
「はぃ?私に力があるわけがない。」
「この力発見器が、姫さんを指している。一緒に来てもらおう。すぐ済む。」
その瞬間、私は思い切り偽医者を蹴った。当ったと思った。
ざっ
偽医者は私の後ろに回っていた、確実に読まれていた。そして首筋を叩き、気絶させた。二回目という事もあり、楽そうだった。
しばらくして、何か不思議なもので包み込んだ。自由を奪われた感覚だ。そして、そのまま何か空を飛ぶ機械に乗せられ、……誘拐された。
ふと目を開ける。頭が回らない。ぼやぼやする……何故?
「気が付いたか少年。」
……誰かがいる。若い声、青年のようだった。
「名前は……?」「イサ。お前の名は?」
イサという青年はすぐさま答える。
「キィだ。」
目の前には何もなかった。でも、何かに捕らわれていることだけは分かった。なぜなら、手や足が全く動こうとしないからだ。
「お前は気が付いたか?この塔の仕組みに……」
オレはそっと言う。
「――ここは純白の吹雪、雪、氷 を示している塔……」
そうだ、とイサはうなずく。
「ならば分かるだろう。お前を捕らわれの身にしている物が……」
「こ…おり?」
オレは言った。だんだん口が回らなくなる。
「お前はここまで来た罪で、この氷の中で死んでもらう。」
オレは全てを悟った。そして、最後に一つ言おうと思った。〝メル〟と。
すると、口がうまく回らず音がこもり、
「イ…す―」
と、聞こえた。それを聞いたイサはこれ以上ないほど、驚いた。すると、氷がなくなり、オレは床に叩きつけられた。思わず咳をする。
イサを初めて目にした。茶色混じりの黄髪で、目は空色だった。
「何故それ…を!」
イサは床にしゃがみこみ、一瞬そっと、笑った。
「……一年前だよ。彼女はとても綺麗な赤髪だった。確か目も君と同じ色だった……。彼女は迷いこの塔に入った。その時たまたまスリサズの所にいた僕と会った。彼女とは、通じ合うものがあった。それからずっと側にいてくれた。 僕はそれだけで幸せだったのに、彼女は突然消えた。僕は必死で探した でも見つからなかった。だからもうあきらめ、忘れていたのに……」
「彼女って…名前は?」オレは自分の立場について深く考えず聞いた。
「フールだよ。僕の名前は『イサ』なのに、いくら言っても『イス』と呼んだ……彼女の国で、『イサ』は文字の名前で、別名『イス』というらしいから。」
しばらくして、オレは口を開いた。
「だから、思い出したのですね……。あの、ここにある真の樹液が欲しいのです。」イサはビックリした。
「…真の樹液はこの塔の命だ。渡すわけには……! ――でも、君には負けたからね。いいよ。」
そう言ってイサは床に手をつき、何かをもぎ取った。それは、黄金の固まりだった。
「これがそうだよ。」
オレはそれを受け取った、瞬間城は崩れ始めた。
「今からでも、急げば外に出られる。僕はここに残る。……その時、他の守護者も一緒に――。皆良いやつだよ。だから、助けて欲しい。」
イサは微笑む。オレは怒りが込み上がった。
「何を言っている!逃げるぞ、生きるために!」
それでも、イサは首を振る。オレは、彼の手を無理やり引っ張り、走った。
その途中に他の守護者も連れていった。そして、純白の塔は崩れた。
「イス……イス……」
上から少女の声がする。イサは反応した。
「フール?」
「えぇ。イス、ごめんなさい一人にさせて……私、真の樹液に誤って振れて、純白の塔に封印されたの……でも、それも崩れて消えたから――」
フールは赤い髪を揺らす。イサは、それを聞いてただ首を横に振った。
「もう説明はいい……」
ゆっくり落ちてくる少女を抱き上げ、微笑んだ。フールという少女も、一生懸命微笑もうとしているが 涙のほうが先に出て、つらそうな顔をする。
その瞬間、メルの声がした。言葉とは言えない、必死そうな声。しかし、それも段々と遠のいていく。
「――……っ」「え?」
「メルの、声が聞こえた……!辛そうな声。声を出させないように、何か特別な魔法かを受けたのか?」
この国には、一様魔法というものがある。不思議ではない。
「どうした、キィ」
イサはフールを宥めていた。
「メルが、遠のいていく!今行かないと、間に合わない……」
「!場所は分かるのか?」「もちろんだ!」
オレはすぐに答える。
「誰か移動術を使えないか?」
皆首をふる。その時、
「行けるかも。」
と、声がした フールだ。イサは驚く。(移動術は古い魔法で、知っている人は少ないらしい。母様から聞いた。ただ、術の使い方が分かれば簡単らしい。)
「イスの魔の力を貸して!私の魔力と混ぜたらいけると思う。場所は?」
「とりあえず、ここから北西に進んで欲しい。」「よし!」
イサは手を表に出した、その上にフールが手を置く。そして、眩い光が放たれた。空中に見たことのない字が円の中に見えた。そこから一本の太いロープが落ちてきて、下から床板が出てきた。そして、浮いた。フールはそれを握り、引っ張った。オレとイサは飛び乗った。
「そこから、少し東に傾き、その次は真っ直ぐ北!」
フールはオレの指示をしっかりと聞き、実行した。イサも手伝う。
「ちょっと一回転して!何だか色々動き回っているみたいだ。気づかれたかもしれない。」
そして、その後も北、南、西、東と動き回った。そして、
「見えた。」
それはまさに怪しい機械だった。魚のような形で色のセンスは、最悪だった。下のほうに入れそうな扉があった。
「ありがとう」
オレは微笑んだ。それを見て二人は驚き
「あなたの笑顔、とっても素敵だわ。」「キィ、そんな顔が出来たのか……」
などと、言う。オレもさすがに照れてしまう。それを無理やり押し込め、真剣に
「ここで待っていて欲しい。」
と言った。二人は何も言わず頷いてくれた。
(この問題はオレが決着をつけなければならない。この国の王子として)
オレは、怪しい機械へと、飛んだ。そして、出っ張っている部分に掴まる。
イサたちは良かったと、息をつく。
飛んだ途端 フールの移動術では、感じなかった風が鋭い刃のように吹く。その風の中をオレは踏ん張りながら進んでいく。そして、下の方にあった扉まで行き着いた。
どんなに押しても引いてもそれは、開かない。試しに〝ひらけ ごま〟と、叫んでみたがピクリともしない。それからオレはしばらく扉と戦っていた。
(――キィがいる)
私は気づいた。ずっと近づいていたのは知っていたが、もうこんなに近くにいるなんて、夢のようだった。
私は叫びたかった。走ってでも会いたかった。のに、それは叶わなかった。何故なら、私は囚われているから。偽医者はキィのことには全く気づいていないらしい。そして、口を開く。
「力を求めてさまよっていたら、ちょうど発見器が反応してさ。方向が城の方だったから、取りあえず情報収集したわけ。そしたら、王子さん、特別強いらしいね。大人でも敵わないとか?それは目的の邪魔だったから、王子さんを塔に行かせて、遠ざけたのさ。」
偽医者はさらっと言う。すると、私にあった不思議な力を顔の周りだけ解いた。口が動く。どうやらこれは、動きを止める力のようだ。
「どうして、力を求めるの」
「力があれば、何でもできるだろう。喧嘩にも勝てる、人を思い通りに動かすこともできる。そして、国をつくり、その国の王として最高の立場につく!最高だと思わないか、姫さんよ」
「最高なんて馬鹿らしい。人は人らしく生きていれば幸せなのに。」
「へっ。姫さんにはまだ分からねぇな。」
「そんなの分かりたくない……もう私の力を全部あげるから、よく分からないけど、あげるから……放して。私を自由にしてよ……」
私は泣きそうになる。でも、ぐっと我慢した。
「うぅーん、言っとくけど、力を全て取ると 君死んじゃうから。少しだけ力をとったことは何回かあったけど、力を全てとる事は、初めてだから緊張するなぁ、姫さんが第一号ってわけだ。それと樹液がいるからなぁ、さすがに王子さんでも、純白の塔では無力さ。どこだっけ?塔の場所。忘れた。」
その言葉は私を恐怖に包み込んだ。そして、同時に私は気づいた。キィが今いるということは、樹液がある。ということに。私はすぐさま心の中で思う。
まず、キィを呼ぶ。そして言う。
『樹液を持ってきては駄目』だと。偽医者は必ず樹液を奪おうとする。大人気ない手を使うはずだ。
――でも、もう遅かった。
バンッ!
ドアは、見事に砕けていた。ある少年はそこから出てきた。手にステッキを持ちながら。
「こうすれば早かったのに、どうして意味もなく〝ひらけ味噌汁〟を連発して言ったのか……」
少年は真剣な目つきでつぶやく。私はピンチという事を忘れ、笑っていた。ツボに入ったが、頑張って笑いを止めた。
「――どうして、お前が!」
「やっぱりお前か。そうだと思った。」
「まさか純白の塔を……」
「メルをどうするおつもりで」
すると、偽医者はポケットから注射器を取り出し、メルに針を向ける。
「これは蛇の牙から取り出した毒だ!体に入った瞬間、死んでしまうほどの威力。さぁ樹液を渡せ!」
キィは顔色変えず樹液をそちらに投げた。
「どうした?」
キィの声で我に返った偽医者はすぐさま樹液を手にした。そして、注射器を分解し樹液をその中に入れる。
「これで、これで!力が手に入る!」
偽医者は興奮している。そして、のそのそとこちらに近づいてくる。メルは命を覚悟した目でいた。
「キィのばか。ばいばい」
「何が?」
ビビビビビッ!ビビビビッ!
どうやらずっと前から鳴っていたようだった。静かになったのでその音がよく聞こえた。
「な、何だ!」
とっさに偽医者はメルの手を離す。そして、辺りを見回す。この音の原因が分かった。力発見器の音だった。え?と私は思った。
「この波動は姫さんとよく似ている……?」
医者は振り返った。背にオレはいた。
「さっきか、メルの場所が分かった時。何かとき放たれた感じがした。メルは随分前から目覚めていたのかな。だから、連れて行かれた?」
それだけを言って、キィはステッキを使って 偽医者を気絶させた。
すると、メルを囲っていた魔法が消え、足も手も自由に動かせられるようになった。
「キィ……」
「オレらには、双子ならではの〝思いやり〟が力になったみたいだな。そして、同時に通信力を得た?で、この発見器が反応した。」
「じゃああなたはさっき私のことを強く〝思った〟わけ?」
「……メルを探した時、大切なものがなくなる感じがした。そして、抵抗した。それがきっとメルとのつながりだと、思う。何で分かるのか自分でも、分からない。けど、母様が言っていた、双子は他の誰よりも、絆が強いって。信じる気持ちが強いだとか。だから心が通じ合うのも珍しくないって。」
私は思わずクスっと笑う。
「こいつどうする?」
「縄で縛って母様に渡す。」「やっぱり?」
オレとメルは二人で笑った。気絶している偽医者を眺めて。
「イサとフールが待っている。帰ろうか、お城へ。」
「待って。」
私は少し顔を赤らめ、抱きついた。
「おかえり、私の双子王子さま。」
「ただいま お姫様。息が荒くなる病気はどうしたのかな。」
「もう完治できる。病気を治す方法に気づいたから」
そして、メルを見た。メルは少し頬を赤らめていた。
「……何だ?」
キィは少し間をあける。
「キィ、あのね…私ずっと昔から…秘めてきた思いがあるの。」
「……。」
オレはメルの言葉を待った。
「私は、これからもずっと、あなたが好き!どんなに兄弟で、双子で、好きと思うことが駄目でも、私はあなたを愛しているわ!私が病気になったのも、この思いを無理に消そうとしていたからなの!」
オレは驚いた。思わず照れる。そして、オレも言った。
「オレだって、メルにずっと側にいて欲しい。愛している。この思いはきっと消えないと思う。……それに、」
キィはにやりと笑う。
「好きというのが駄目なわけ無いだろう。オレ達は歴とした、『王族』なんだ。王に出来ない事はないだろう?だから、双子なんてうまく丸め込めばいい話だよ。」
「……!くすっ。さすがキィ様。頭が上がりませんなぁ。」
メルは微笑んだ。オレもそっと微笑み返す。
「やっぱり双子だな。」「やっぱり双子ね」
――その後、医者はもう力を求めないことを、母様に約束し国を出た。
純白の塔の守護者たちは、純白の塔復活に力を注いでいる。イサとフールはそこで結婚式をあげる計画があるらしい。それを早く見たいオレたちは時々手伝いに行く。もちろん二人で。
「もう離れない、メルのそばを」「ずっとそばにいて、キィを感じたいから」
――これはさくらんぼのように離れない 双子たちがつくった【絆の物語】。
―END―
チェリーツインズ 夢を見ていた @orangebbk
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