club“B”
真和志 真地
起点
#1 一匹狼の思考回路
清々しいほど外の空は晴れていて、のぼり始めてから数時間の太陽の光が煌々と照らし出している。完全に締め切ってた空間の中で安眠している俺にカーテンを突然開けられ、容赦なく光が襲ってくる。
塩屋省吾。15歳。どこにでもいる普通の男子高校生。俺は現在凄く悩んでいることがある。そんな俺の悩み、それは……
「兄さんいつまで寝るの?」
人がせっかく気持ちよく寝てるのに邪魔してくるやつがいること。止めてくれ。俺の安眠を邪魔しないでくれ。
「ん……あと五分……」
「何言ってるの? もう9時なんだけど?」
「……っ!?」
“もう9時”と言うワードを聞いた瞬間、慌てて飛び起きることになる。
「何でもっと早く起こし……て?」
壁に掛けられている時計を見て一瞬困惑し、再び現実に思考が戻される。
「……おい、
「何ですかお兄さん」
「……他人ですみたいな返事してんじゃねぇよ。てか、お前騙しやがったな? まだ6時じゃねぇか」
「いやだって、そうでもしないと起きてくれないもんっ!」
アホ毛をピョコピョコと動かしながら、人差し指をピンと立ててさも当たり前のように言う我妹の心温。
兄の睡眠を妨害するとかこいつ悪魔だろ。
「そもそもモーニングコールなんて頼んだ覚えないんだが?」
「え? 頼まれてないけど気を利かして起こしてあげたんだよ。我ながらいい仕事した! うんっ!」
そう言ってどこか誇らしげに胸を張る心温。
いや、一人で勝手に納得しないで? 妹に騙されて叩き起こされたこっちの身にもなって?
「あーハイハイ。イイシゴトシタネー」
それにしてもホント余計な仕事をしてくれたな。時間的にあと1時間は寝れたはずなのに……。おかげで完全に目が覚めちまったよ。
「うわぁー何その返事。棒読み過ぎてメッチャムカつくんだけど。特にカタカナ変換がムカつくんだけど」
ジト目を向けつつ、俺に適当な返事をされた心温は心底不快そうな顔をしながら低い声音でそう漏らす。
うん。聞こえてるからね? 俺の睡眠を見事にだまし討ちで邪魔したんだからこれは仕方がない。
俺は何も悪くないぞ?
頬を膨らませながら不満を垂れる心温を一旦部屋から追い出して、制服に着替え洗面台で顔を洗い、リビングへ向かった。
俺用に用意されたコーヒーを口に含ませながらスマホで情報収集に当たってみるが、これと言った情報は特に得ることはできず、結局暇になってしまった。
さて、どうしたものか……。時間になるまで本を読むって手段もあるけど、それだと面白くなったときにタイムアウトになるのはなんか癪だ。
そうなると、早めに登校して学校で時間でも潰すか。どうせ誰も俺のことわからないだろうし話しかけてくることもないだろうから、屋上にでも上ってそこで風に当たりながら本でも読むとしよう。
そうとなればさっそく動くか。
# # #
食器類を片付けて、心温と一緒に自宅を出て自宅の戸締りをする。
一応念のため忘れ物チェックをして……よし。大丈夫そうだな。
出発前の点検を済ませ自転車が置いている方向へ向かおうとすると、何故か玄関先の道路で心温が俺の自転車に乗っていた。しかも荷台に。
「心温ちゃん? ……何してるの?」
「ん? 学校まで送ってもらおうと思って」
「いや歩けよ」
「えー? こんな可愛い妹を歩かせるの? それとも兄さんは私が可愛いとは思ってないの?」
何で俺が送ることが前提になってるんですかね。
お前今まで歩いて登校してたでしょ。
何でもいいけど目ん玉をウルウルさせながら上目使いで聞いてくるな。あざといから。
そして、確かに可愛いのは認めるが自分で可愛いとか言うな。
「……俺がお前に可愛いとか言ったら本気でキモがるだろ」
「あーそれは確かにキモイし引くかも」
声のトーンを低くして引いてます的な顔をする。
何で朝っぱらから俺のモチベションゲージを削り落とすの? 泣くよ?
「まぁまぁ、そんなことより早く行こうよ。私一人だけ荷台にこうやって跨いでる光景とかおかし過ぎるでしょ。周りの人から変に思われちゃうじゃん」
自分で歩かないで兄に送迎させようとしていることに関しては変だとは思わないのかよ。
もういいや。
細かいことを考えるのはやめよう。朝から疲れてたんじゃぁ今日一日やってられなくなっちまう。
「はいはい。ならしっかり掴んでろ……よっ!」
自転車に乗ってゆっくり走らせ始めると春ならではの暖かい空気が顔を伝う。
俺らの他にも友達や部活仲間と一緒に通学する学生や会社に向かうためにスーツ姿の会社員。
子供を保育園に送るために子供用のイスに座らせ、キャッキャ騒ぎながら自転車を走らせる親子。
そんな通学・通勤路を堂々と二人乗りで走行する。警察に見つかると確実に怒られるやつだよこれ。
「そう言えば、兄さん事故から復帰して今日から遅れての高校生活スタートだけど、何か目標とかやりたいことってあるの?」
「目標? やりたいこと?」
「そう。例えば彼女がほしいとか」
彼女?
そんなもん俺に出来るわけない。作る気もないが。
そんなもん弄ばれて終わるだけに決まってる。俺の黒歴史辞典にはそう記載されてるから間違いない。
「彼女が出来るどころか誰からも話しかけられねぇよ……」
自分で言ってて虚しくなってくる。
あー畜生め……。中学の頃を思い出しちまった。何てものを思い出させてくれてんだよ。
「まぁーそうだよねー。兄さん性格ねじ曲がってるし目の隈も酷いから端から見れば不審者だもんね」
ちょっと? 何当たり前のように兄のことを貶してるの?
目の隈が酷いのは元からだし性格もひねくれてるのは認めるけど、不審者扱いは酷くないですか?
「まぁ、兄さんの場合他の人たちとは違って乗り物系ヲタクって言う特殊もあるわけだし、何よりも兄さんの自由気ままな行動に付いて来れる人間がいればいいんじゃない?」
「俺に付いて来れる人間ねぇ……」
いや無理でしょ。てかいないでしょ。俺の自由気ままな行動を
俺の基本ベースは一人勝手に自由気ままに動ける“孤独自由人”。
誰かを誘ってどこかに行くことなく、出かける時も無計画で、外出中に思いついた瞬間行動に移す人間だよ?
そんな人間に誰が一緒に付いて行くよ。俺だったら嫌だよ。
単独行動ってのは誰にも気を使わないで済むし何より自由が利くから一番いいんだよ。誰かに気を使いながら行動するとか疲れるだけじゃん。
ご飯とかを食うときだって、相手の好きな食べ物や嫌いな食べ物、匂いのきつい料理とかも何も気にしないで自由に食らうってのもメリットの一つだ。
何この悲しい人生観。泣けてくるんだけど。
「高校在学中に少しでも仲のいい人と知り合うことができるといいね。部活とかに入るといいと思うけど?」
「俺にとってはハードルが高いな」
「頑張るしかないよね。あっ、ここでいいよ」
心温に停止位置を指定され、その場に自転車を停める。荷台から降りて俺の前に回り込んだ心温は悪戯っぽく笑いかけてくる。
「もし兄さんに彼女が……とまでは言わないけど、ってか期待してないけど、女の子の友達ができたら私にも紹介してねっ! 全力でサポートするから」
期待してないのかよ……。いや、変な期待されても困るけどね。
そして、俺に女友達ができることはまず無いだろうから安心しろ。
「はいはい。わかったからとっとと行って来い」
うんざりした顔を浮かべつつあしらう様に心温を突き放すと頬を膨らませブーブー言いながら立ち去って行った。
何で朝からこんなに疲れなきゃならんのだ。
そんなことを心で呟きつつ、駅に向けて自転車を再び走らせた。
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