二組の坂元
テルミとサチコに教えてもらったんだけど、アイドルは男子にもおるらしい。三組や四組には女神様と天使目当てに男連中が相も変わらず押し寄せてるけど、二組には女連中が押し寄せてる。
「木村さん、知らないの」
「さすがは委員長だわ」
なんか褒められてるというより、貶されてる気もするけど、この二人には感謝せんとアカン。あの人の情報を教えてくれたのもこの二人だし、なによりウチの難儀な性格を物ともせずに友だち付き合いしてくれる。おそらくウチに初めて出来たお友だち。
「坂元君っていうのよ。サッカー部のホープで、もうレギュラーだよ」
「背も高いし、イケメンだし、勉強だって出来るのよ」
「テルミもやってるでしょ」
「サチコだって」
どうもこの二人は坂元の追っかけをやってるらしい。そしたら無理やり二組に連れて行かれた。
「ほら、あそこ」
「あの机に座っている男か」
「そうよ。キャー、坂元く~ん」
なんだアイツか。アイツなら知ってる。うちの学校はバカ騒ぎの許容限度は信じられないぐらい広いんだが、学業をおろそかにしてる訳じゃない。むしろ冷淡なぐらいシビア。定期試験や実力考査があると氏名入りで全部貼りだされる。もちろん順位付き。上位も注目されるんやけど、下位も大変。
成績が悪いことが丸わかりなのもそうだけど、欠点ライン以下はモロ赤字で書かれてる。進級判定はドライなんてものやなくて、ほぼ五回の定期試験の平均点のみで、その点数も明示されてる。ほとんど平常点とかは加味されないし、追試もされることはあるらしいけど、サドかと思うほど難しいらしい。
もう少し補足しておくと、進級に関係するのは五教科だけで残りはフリーパス。だから授業もそんな調子で、ほとんど遊んでいるようにしか見えない。これは生徒だけでなく教師からそうで、いかに楽しく時間が過ごせるかを競い合ってるようにしか見えない不思議な授業。
校風の自主性とはそういう意味らしく、自由闊達にバカ騒ぎするのはアホかと思うほど寛容やけど、それで勉強をサボったら容赦なく留年ってシステムみたいだ。ウチには関係ないけど、普段バカ騒ぎやってる連中も試験となれば目の色変えるのもここの校風らしい。
坂元は成績下位じゃなくて上位。それで十分やと思うけど、一番やないのが不満らしい。そんなに一番が良いなら明文館より下のランクに進学するなり、灘でも行けば良いと思うんだけど、坂元にすれば灘に行かずに明文館に来たのに二番なのが気に入らない様子。
まあそう思って励みにする分なら勝手なんだけど、口に出す。入学してから最初の模試の結果が坂元には余程意外だったらしい。あの試験は五教科五百点満点だったんだけど、坂元は四百八十点だった。それで二位なら文句もないはずやけど、一位がいたのよね。そしたら坂元はウチを見て言いやがるの、
「木村さん、今回の結果は潔く受け入れよう。でも、次は無いと思いたまえ」
たく芝居がかったキザったらしいセリフで、なにが『たまえ』やと思ったものよ。ウチは無視して教室に帰ろうとしたら、
「木村さん、逃げるのか」
なんも答えんと教室に戻った。だが坂元の宣言も空しく、奴は万年二番。悪いけどいくら頑張っても追い抜くのは無理ってところ。顔を合わせれば鬱陶しそうだから、あれから試験結果の貼りだしは、坂元がいないのを確認してからしてるけど、そういう奴。これも坂元があんまり騒ぐものやから、坂元の追っかけ連中から、
「坂元君、かわいそう」
てな感じで敵役にされた時期があってたまらんかった。さすがにテルミもサチコはそんなことは口にせんかったけど、
「それにしても木村さん、どんな勉強したら満点なんて取れるの?」
「とくにはなにもしてないが」
「大学進学塾に通ってるとか、家庭教師とか付けてるの?」
「行ってないし、家庭教師もいない」
「まさか通信添削だけとか」
「それはなんだ」
さてあの人だけど、探すのに苦労した。う~ん、社会や現国は平均以上やけど、生物も数学も下位三分の一、いや四分の一ってところかな。英語も真ん中以下。ありゃ、どっちかと言わんでも文系やな。部活も帰宅部みたいやし、ホンマに平凡そのもの。中学でも部活やってなかったみたいだから、運動も期待できそうにない。
なんでこんな奴に惚れてるんやろ。でもね、恋は理屈じゃないのよ。きっとなにか隠れた才能とか魅力があるはずよ。でもまあ、坂元に較べれば現時点では勝負にならないのは確か。追っかけなんて出ようもないってのは良くわかる。較べる方がおかしいか。
今のところ坂元よりマシな点は・・・誰にも盗られる心配が無い点かな。そんなものがメリットかどうかは置いとくけど、無いよりマシ。大器晩成って言葉もあるし、別に女が食べさしたってイイじゃないの。とにもかくにも坂元はウチの趣味やない。
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