楽曲妄想小説3

風のレッサー風太

第1話

彼女と別れてからどれくらいたっただろうか、徐々に傷ついた心は癒えていったけど、まだ少し痛みは残っている。きっかけはありがちなものだった。互いに夢を追い続けて、それでも上手くいかなくてギクシャクしてそのまま別れた。

会社からの帰り道、橋を渡りながら彼女のことを思い出す。

「相変わらず女々しいな」

そう呟きながら寂しく歩く。

ふと川沿いに団地が見えた。

どの窓にも明かりが溢れ、笑い声なんかも聞こえる。美味しそうな料理の匂いもしてくる。

幸せを数え出したらキリがなさそうだ。

ふと、ベランダに干してある洗濯物が目に入る。

小さい戦隊ヒーローがプリントされたTシャツが風に揺れている。きっと小さな男の子のいる家庭で今 頃食卓で笑い合っているんだろうな。

「自分にとって今守りたいものってなんだろう」

急に頭に思い浮かんだ。きっとさっきの洗濯物のあったところのお父さんは、奥さんや子供だろう。

じゃあ俺は何を守りたいと思うんだろう。

彼女の顔が過ぎる。

「いや、あいつとはもう別れたんだ。俺にはもった

 いないくらい、素敵な人だったんだ。」

そう自分に言い聞かせながらとぼとぼと歩き出す

気がつくと彼女とよく歩いた銀杏並木に来ていた。前を見ると人通りのないその並木道に彼女がいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る