第120話 女神の贈り物《中編》


 開かれた壁の先の空間の中央に置かれていたのは白金で造られた大きな女神像。

 今にも動き出しそうなほど精巧に造られた像は解放された現在も微弱な女神のオーラを放ち続けていた。


 更に周囲には女神像を守るように5体の像が並んでいた。

 それぞれが軽鎧の剣士・ローブと錫杖の僧侶・全身鎧の騎士・杖持つ魔法使い・軽装の斥候と言ったバランスの取れたパーティー構成の5体の像。

 その像からも更に弱くだが女神の気配が感じる事が出来た。


「凄いな…」


 像を見て数秒、唖然としていた諦聖がこぼすようにそう言った。

 一度極限状態になるほどの女神のオーラを受けて耐性が付いたのか、諦聖達は今度は誰も動けなくなるような事はなかったが圧倒されてはいた。それほどまでに不思議と神々しく輝いてすら見えていたのだ。


 女神のオーラを受けても普通に動けたのは雫とドルトス教皇の2人だった。

 ドルトス教皇は長年の祈りや神託などを通して神のオーラに対しての態勢を持っていたし、雫は『聖女』の職業とメッセージを受け取ってからは更に神のオーラに対しての順応力が高くなっていたのだ。

 そんな2人はゆっくりと歩みを進めて女神像の足元まで来ていた。


「これが女神…」


「えぇ!我等を見守ってくれる慈愛に溢れる女神様です!!」


 今まで以上に感情を表に出したドルトス教皇は歓喜の表情を浮かべて女神のすばらしさを口にする。急な変わりように間近で豹変ぶりを見た雫はドン引きしていたが、途中で気になる物を見つけた。


「これは文字?」


 女神の足元の土台部分に四角く区切られて文字が彫り込まれていた。


「文字ですか……私には読めませんな…」


 言われてから文字の存在に気が付いたドルトス教皇が確認するが、読むことができなかったので悲しそうに顔を顰める。

 反対に雫は驚いたように少し目を見開いていた。


(日本語で書かれている。書き慣れてないのか少し読みにくいけど…)


『これを読める人類の希望たる存在よ。貴方達がメッセージを受け取っている時、私は動くことすらできない状況にまで追い込まれているでしょう。本来関係の無いはずの貴方達に託すのは気が引けますが、どうか…私の愛しい人類を助けてあげて欲しい…ほんの手向けの品を此処に残す…』


 力尽きたかのように最後はかすれていたが十分に読むことができ、読み終わると同時に全ての像が光を放ち始めた。

 呼応するように雫や諦聖達の体も薄く光を放ち始める。


「なるほど…」


「な、なんだ!?」


 動揺する諦聖達とは反対に雫は真剣な表情でゆっくりと頷き、自分に呼応する僧侶の像を見据える。


「来て」


 短く、小さな声だったが確かに覚悟の決まった声で放たれた言葉に答えるように僧侶の像は人期は強く反応を示す。そして合わせるように雫の体を覆っていた光も強くなり、その光が突如として雫へと放たれるように伸びる。

 光は雫の体を一瞬だけ強く包み、それが消えると白金のローブを身に纏い手には太陽のようなデザインの錫杖が握られていた。


「力がみなぎるようだわ…」


 衣装が変わっただけに思えるが、当の本人の雫は不思議と体の底から漲ってくる力に困惑しているように手を軽くグーパーしながら感触を確認する。

 本当に軽く動かしているだけなのに先ほどまでと比べて、ハッキリと理解できるほどに身体能力が上がっているのを実感していた。


「馴れない格好ではあるけど、これならっ」


 危険の溢れる世界で1人の相手を探すには力がいる。

 だからこそコスプレのように思える服装には抵抗感を雫も感じてはいたが、それ以上に必要だった力が手に入ったと理解できたからこそ喜びが抑えられなかった。


 そして1人が成し遂げれば手本として同じように諦聖達も同じように像の装備を手に入れていった。

 諦聖は白金の軽鎧に装飾の施された豪華な剣、健太は純白の全身鎧に身を隠すほどの盾、凛は漆黒のローブを身に纏い六色の結晶が付いた杖、春香は顔を暗い色の革鎧に顔を隠すようなスカーフに短刀2本を腰に差していた。


「凄い力が‼」


「はははっ!最高の気分だぜ‼」


「本当にすごいねっ」


「これは予想外」


 4人は反応こそ様々だが一様に力が溢れる感覚を好意的に受け入れていた。

 コスプレじみた服装には少なからず羞恥心は合ったようで顔が薄っすら赤くなっているが、それ以上に体の内から溢れる力に不自然なまでの高揚感を感じていた。


「おぉ……これこそが希望の姿なのですか、女神よっ!!」


 近くで力が宿る瞬間を見ていたドルトス教皇は歓喜の涙を流しながら女神像へと祈りを捧げていた。


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