第119話 女神の送り物《前編》


「もう落ち着けましたか?」


「はい、ありがとうございます…」


 しばらくの休息を貰えたことで諦聖達も回復してドルトス教皇へと礼を言う。

 そんな様子を見ながらドルトス教皇は楽しそうに良い笑顔を浮かべた。


「気にしなくていいのですよ。皆様こそ一番大事なのですから、なにか不調を感じたら遠慮せずに言ってください」


 先ほどまで以上に自分達に丁寧で、そして敬うかのような発言の増えているドルトス教皇の変化に諦聖達はいまだに困惑していた。なにせドルトス教皇だけではなく、今まで懐疑的な眼…もっと言うと態度の悪かった者達までが急に自分達に対して丁寧な態度をとるようになったのだ。

 簡単な説明は受けているが、だからと言って極端な態度の変化を簡単に受け止められるわけもなかった。


「それで…俺達は今後どうなるんでしょう?」


 ひとまずは希望の証明をすることができたのは間違いなく。

 だからこそ次に諦聖達は自分達の今後が気になっていた。特にすぐにやってもらう事はないと言っていたが、『希望』などと言うたいそうな表現のされ方をしたのだ。

 何かしらの役割のようなものがあると考えるのが自然だ。


 もっとも質問されたドルトス教皇は人の良い、見た人間に安心感を持たせるような優し気な笑みを浮かべていた。


「心配する必要はありませんよ。本当に皆様に、すぐに何かをやってもらうつもりはないのです。まずは私達の世界について学んでもらい、慣れてもらいたくおもいます」


「すぐに帰る事は…やっぱり無理なんですか?」


 諦聖の後ろから少し遠慮気味にそう聞いたのは凛だった。

 しかし帰れるなら帰りたいという気持ちは当然のように全員が少なからず持っていて、全員がドルトス教皇の答えを待った。


「…残念ですが我々では分かりかねるというのが正直な答えです。なにせ皆様を呼び出した方法すら神の御業、我等には原理も何も理解できていないのです…」


「そう…ですか…」


 予想通りの結果ではあったが言葉にして聞くとやはりショックは大きい。

 あからさまに意気消沈した諦聖達を見てドルトス教皇も少なからず申し訳なさそうな表情を浮かべるが、結局は何とかする方法など知らないのだ。なにか励ますようなことを言うこともできなかった。


「そんな事よりも壁の中には何があるのか確認しませんか?」


 重く暗い空気の中で雫だけは悲観することなく、冷静に提案した。

 すでに受け取った神からのメッセージにより雫には異世界でやりたい事がある。それを達成するまでは例え地球に帰還できたとしてもするつもりはなかった。

 だからこそ、自分達しか開くことの出来なかった壁の奥に何があるのか?という事が気になってしょうがなかった。


「あ、あぁ…確かにせっかく開いたわけですから、確認した方がいいでしょう」


「では、行きましょう」


 もはや場の支配権は雫が握っていて、率先して先へと進む雫の後ろから慌てて諦聖達が追いかける事になっていた。

 急に率先して動き出した雫にドルトス教皇も少し困惑しながら後追って進む。


 その際に周囲の司祭級の者達に周囲の守りを更に固めるように指示を送る。

 なにせ『希望』と証明された以上は諦聖達は替えの効かない重要な存在、更には彼等にしか開くことのできなかった場所だ。

 しかも聖職者のドルトス教皇達をして経験した事の無いほど強力な神のオーラを放っていたのだ。女神に関係するような何かがある可能性が高く、不埒な者に荒らされるわけにはいかない。


 そうして簡単な指示を出してから向かった先では諦聖達が目の前の光景に唖然として固まっていた。


「いったい何があったのです…か…」


 諦聖達を追い越すようにして先へと視線を向けたドルトス教皇も目の前の光景に言葉を失った。

 そこには白金で造られた女神像と守るように周囲へと置かれた5体の像。


 異様にも思えるのに不思議と神秘的に感じ目を話す事が出来ない魅力のようなもので溢れていた。

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