第104話 スキル修練《前編》


 しばらく休んだ彰吾は自室の近くに造ったスキル修練室へと向かった。

 自室の近くに造った意味は単純だ。疲れた時、すぐに部屋へと戻って休むことができるようにという事だ。


「おぉ~!」


 そしてスキル修練室に入った彰吾は驚きの声を上げた。

 中は体育館ほどの広さがあって、いくつかの区分に分けられていた。しかもパッと見ただけでも彰吾の所持するスキルに対応した機材が置かれていた。これらは付属品であって、品質は魔王城の機能で造り出す備品の中でも最下級の物になる。


 だが彰吾は部屋代に比べれば安い物だと50万ほど魔力を消費して全てを中級から上級まで品質を上げてあった。


「さて、まずは基礎の魔法スキルからだな。えっと…属性魔法の修練場所は、あそこか」


 少し周囲を見回すと分かりやすく『属性魔術スキル修練』と書かれた看板のある場所があった。

 そこには各属性に合わせたサッカーボール程度の大きさの水晶球が並んでいて、詳しい使い方の説明もあった。


『名称:属性水晶球』

『使用法:魔力を水晶球に流すと中に対応した属性の魔法が発生する。

 発生後、内部の魔法は一定時間ごとにランダムに威力を変わり、威力が変わってから10秒以内に最初の威力に戻せなければ内部の魔法は発動者に襲い掛かる。

 連続で20回成功すると機能を停止してクリアとなる』

『※襲い掛かる威力は失敗時の威力の10分の1とする』


「へぇ~リスクもそこそこだけど攻撃にも使えるスキルなわけだし、少し危険があった方が面白いからな!」


 説明を読んだ彰吾は好奇心に満ちた子供のような笑顔で水晶球を見ていた。

 そのまま近くにあった火魔術スキル用の淡く赤に染まっている水晶球を手に取って早速試してみた。


「本当に中に火が灯った…」


 魔力を軽く流すと手のひら大の火がしっかりと灯っていた。

 まだ変化が起きていないので彰吾が更に送る魔力を少し増やしてみると、わずかに火力が上がり、逆に魔力を減らせば火は弱まった。

 そして1分が経過すると急に火力が上がって水晶球の内部は火で埋まった。


「まずっ!」


 ここまで極端に威力が変化するとは思っていなかったのか彰吾は少し慌てた様子で威力のコントロールに意識を集中させる。10秒以内と言う制限時間まであって無意識に焦りは募り、それは操作を誤らせる原因となる。

 しかし彰吾は持ち前の切り替えの早さと、驚異的な集中力によって約7秒で火力の調整を成功させた。


「ふぅ…あぶねぇ」


 とは言っても、完全に予想外の威力の変化に少なからず焦りはあった。

 しかも一度乗り切れば終わりと言うわけではなく、後19回も同じことをしなくてあならない。


「きたっ!」


 そうして少し心を落ち着けていると今度は中の火が徐々に弱まり、ピンポン玉レベルになり始めた。変化を見ると今度はタイミングをうかがって待っていただけに彰吾は動揺することなく、威力を調整して最初に比べて少し早く5秒で調整を成功させた。


「…これ思った以上に制限時間がネックだな」


 2回の調整をやってみて彰吾は体感でも10秒が想像以上に短い事に気が付いた。

 すでに一定以上の魔力操作技術を持つ彰吾をしても、魔力単体の操作ではなくて魔術として発動している物の威力を調整するのは難しかったのだ。流す魔力の量に加えて速度やタイミングも重要で、どれか一つでもミスすると威力が想定外に変化したり。一瞬の油断で発動自体が維持できずに消えてしまう可能性も高かった。


 そんな繊細な操作を10秒と言う短い時間で行うのだ。

 難易度は鬼のように高いと言っていい。だが2回も行うと多少なりとも慣れてきたのか、3回目には5秒程度で調整できるようになっていた。


「ふぅ……よし」


 言葉数も少なく本気で集中している彰吾は気が付くと15回連続で成功させていた。ただ5秒と言う壁をなかなか破る事が出来ず、どう頑張っても調整には5秒以上が掛かっていた。

 しかも一度、急激にろうそくの火レベルまで火力が落ちてしまった時にはあと少しで消えてしまいそうなほどになっていた。その時には9秒掛かり本当にギリギリで調整に成功していた。


 そして16回目は今までとは少し違っていた。


「マジか!?」


 驚きの声を上げた彰吾の手に持つ水晶球の中では日が火力を上げながら渦を巻くように動き始めていた。日が動き出すことまではさすがに想定外だったために彰吾は驚いたのだ。

 だが、ここまで来て失敗するのは彰吾としてもさすがに嫌だった。


「おりゃぁーーーー!!」


 気合の入った声と共に火の動きは緩やかになって止まり、それからゆっくりと火力が落ちた。元の火力になるまでに8秒もかかってしまうのだった。


「最後まであと少し…」


 さすがに常に集中して捜査しているだけに彰吾にも徐々に疲れが見えだした。

 そんな中でも中断機能などはないので必死に集中力を自足させながら彰吾は最後まで頑張るのだった。

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