第99話 決闘が終わり、帰宅


 決闘だ同盟だと忙しい1日を過ごした次の日、石の家の比較的広い部屋では彰吾とハルファにハドリフの3人は朝食を取っていた。

 材料は彰吾の持ち込みでベーコンエッグに生野菜サラダとトースト、ついで二コンソメスープを用意してのんびりとした食事を楽しんでいた。


「う~ん…たまには王道の朝食もありだな」


 最近は朝は軽くヨーグルトや果物で済ませていた彰吾は、久しぶりにしっかり食べる朝食を全力で楽しんでいた。

 だがハルファは全力で不機嫌なのを隠す事はなく、そんな2人の間に居るハドリフは居心地悪そうに食事を続けていた。


「………」


「ちっ…美味いな」


「だろ?」


「ふんっ」


 思わず体験したことない朝食の味にハルファが正直な感想を言ってしまうと、聞き逃さなかった彰吾が自慢げに胸を張って笑みを浮かべる。それを見て余計にハルファは苛立つが、めったに食えない美味しい料理に手が止まらなかった。

 悔しく思いながらも止まらない手にハルファは悔しそうに顔を顰めていた。


 ただ大人しくなったことでハドリフは一安心していた。


(何故、落ち着いて食事する事もできなんですかね。せっかくの美味しい料理、どうせならゆっくり楽しみたかった……)


 異様な緊張感が伝わってくるため食事に集中する事が出来ず、久々に食べる上等な料理の味を集中して味わうこともできずハドリフは少し悲しそうな顔をしていた。

 それでも美味しい物は美味しいので黙々と食べ続けた。


 しばらくの間は誰も話すことなく黙々と食事が続いた。


「それで今日は、すぐに帰るのですかな?」


 朝食が終わって、食後のお茶を楽しんでいると彰吾に対して今後の予定をハドリフが確認した。それに彰吾は少し考えるように首を傾げ、すぐに笑顔を浮かべて頷いた。


「昼前には帰るよ。特に予定があるわけでもないに外出する趣味はないし、なんか隙を見つけては挑戦してきそうなのがそこに居るしな」


 含みのある言い方で答えた彰吾が視線を向けたのは、用意したお菓子やお茶をぶっきらぼうに食べるハルファがいた。

 礼儀も何もない態度のハルファを釣られてみたハドリフは恥ずかしそうに顔をうつむかせ、頭を抱える。


「あぁ……本当にすいません」


「気にしなくていい。別にあんたのせいじゃないしな」


「いえ、王の教育係も私でしたから…」


 育ての親のような関係だっただけにハドリフは必要以上に責任を感じていたのだ。他国の王に対する礼儀作法を教えたのもハドリフだっただけに、今のハルファの態度はそのすべてを否定する所業だった。

 でも、獣人は何処まで行っても脳筋思考が根付いている種族なのだ。文官肌のハドリフとは相性がよくはなかった。


 さすがに内情までは知らない彰吾は少し反応に困ったが、深く掘り下げて質問するようなことはせずに話す。


「変に考え込まずに、今からでも教育してやればいい。力が強くても頭が伴わないなら、何度戦っても俺には勝てないしな」


「っ!?」


「…そうですね。では、そうしましょうか…ありがとうございます」


 お礼を言ったハドリフの表情はとても晴れやかで本当に気にする事が解消されたと言ったような感じだった。いままで話を聞いていない風だったハルファが彰吾の言葉に反応して表情があからさまに変わった。

 これによってハルファの中に少なからず勉強しようという考えが生まれた。


 それを見ていて理解したからこそハドリフは彰吾に心の底からお礼を述べたのだ。お礼を言われても彰吾は特に気にした様子もなく自分のお茶を静かに飲んでくつろいでいた。


 ほどなくして、食後の休憩も終えた彰吾が周囲の人形兵も集め終わってドラゴン人形に野呂込んでいた。


「さて、最初は少し面倒だったが思った以上に楽しめた。同盟を結んだことだし、また何かと会う事も増えるだろう。その時にはよろしく頼むぞ」


「ふん!言われずとも、よろしくしてやる」


「そうかい…」


 最後までぶっきらぼうで不機嫌なハルファに対して彰吾は呆れたように小さく息を吐き、次に傍に控えているハドリフへと視線を向ける。


「今後についてもう少し話したいし、1月後にでも使者をだす」


「承りました。こちらでも話す内容の精査をしておきましょう」


「頼んだ」


 短くも、どこか信頼を感じる2人の会話に疎外感を感じたハルファは不機嫌さをましたが、彰吾とハドリフのどちらも大きく気にした様子もなく笑顔で別れを告げる。


「では、また会おう」


「はい」


 そう言ってドラゴン人形ん正午が指示を出しゆっくりと飛び上がる。

 するとハルファが険しい表情のまま振り向き叫んだ。


「いずれ再戦を申し込む!逃げるなよっ!!」


 完璧に負けてもなおハルファの闘争心は衰える事を知らず、むしろ強く対抗心を燃やして空へと上がる彰吾の背中目掛けての宣言である。周囲の者達も最後の最後に、再戦の申し込みをするとは思っていなかったようで騒然としていた。

 だが、挑まれたはずの彰吾は一瞬ポカーン…としていたが、すぐに楽しそうに笑い声をあげる。


「ぷっ……あははははっ!!!いいぞ、受けて立つ‼それまでに俺に怪我を負わせるくらいには強くなっておけよ?」


「もちろんだ‼」


 そうして再戦の誓いはなされて2人は分かれた。



 しばらく魔王城を目指して飛行していた彰吾は近い太陽の光に目を細めながら、何かを思い出したような表情を浮かべた。


「あ……再戦、これで二度目だな…どっちが先に成る事やら~」


 あまり期間を開けずに以前にも再戦の約束を口約束した事を思い出したのだ。

 でも、どちらも明確に期限を決めたわけではな。


 だから彰吾はどっちと先に再戦する事になるのかを予想して移動中の暇な時間をつぶすのだった。

 ちなみに残されたハルファも再挑戦宣言は完全に予定外でだったこともあって、周囲から『なんてことをしてくれてるんだ!?』と数時間にわたって説教される事になっていた。


「ちょっ!別に悪い事はっ⁉」


「少しは反省しろ‼」


 そして悪びれる様子が欠片もない事も相まって余計に説教が長引いてしまうのだった。


 


 

 



 

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