第51話 妖精と言う種族


 必死に村への救援を彰吾へと頼むティーの声をわざと聞き流しながら魔王城の自室へと戻ってきた。


「さて、話を聞いた感じ助けるのは構わないんだけどな。人間とは敵対関係に近いしな」


『え?だったら何で無視してたのよ⁉』


「そんなもの決まってるだろ?面白いからだよ」


『なんですって~~~‼』


「はははははっ!」


 今まで遊ばれていた事を教えられてティーは怒って跳びかかろうとするけど鳥かごを壊せるわけもなく。まるで映画などの囚人のように鉄格子に捕まって叫ぶ様子を見て彰吾は楽しそうに笑うのだった。

 そして机に鳥かごを置いてご機嫌取りに飴玉を新たに渡す。

 今度は食べやすいように妖精サイズに砕いてからだ。


「それで妖精って具体的にどんな種族なんだ?」


『唐突に聞くわね…どんなって言われても妖精は妖精よ。あむ』


「なるほど、他の奴に聞いた方が早そうだな……ルーグ老呼ぶか」


 想像以上に仕えない情報源にげんなり…としながら彰吾は部屋で待機していたメイド型人形にルーグ老を呼んでくるように命じる。

 待っている間はすることもないのでティーにあげた飴を取り上げたり、返したりして反応を見て時間を潰していた。さすがにブチ切れしたティーが風魔法を発動しようとした段階でやりすぎたと気が付き、平謝りでなんとか許してもらっていた。


 そんな事をやっているとルーグ老がやってきた。


「お呼びとの事でやってきましてですじゃ。なにかござい…妖精!?」


 部屋に入ってすぐに恭しく挨拶をして要件を聞こうとしたが鳥かごの中にいるティーを見て驚愕の表情を浮かべ固まってしまった。


「その反応だと妖精について詳しそうだな」


「え、何故…ここに妖精がおるのです?」


「説明するから適当に座ってくれ。ティーは大人しく待ってろよ」


『はいはい、わかったわよ~』


 1人で待たせておくのは少し不安だったので追加で飴を渡す。

 そうして大人しくなったのを確認した彰悟は先にソファーに座っていたルーグ老の向かい側に座って話始めた。とは言っても、ティーに聞いた話を感情が乗っかりすぎていた部分を分かりやすくまとめて話している。

 すべての話を聞き終わるとルーグ老は口元に手をやって考え込む。


「ふむ、確かに救援したいところですが…素直に信じてもらえるかと言う問題もございますのう」


「確かに、それも大きな問題の一つではある。だから事前知識として妖精っていう種族について知識を増やしたい」


「なるほど、そう言う事でしたら儂に任せてくだされ。だてに長生きしておりませんからな」


 年の功を感じさせるどっしりとしたルーグ老からは自身のような物が感じられた。

 簡単に受け入れて教えてくれるというルーグ老に対して彰吾は素直に感謝を伝えた。


「助かる。ありがとう」


「いえいえ、お気にしないでくだされ。そうですのう…妖精族と言うのは儂等エルフが契約している精霊に近しい存在と言うのが正しいでしょう」


「妖精と精霊がか?」


「はい、精霊とは世に溢れる自然の魔力が集まり意志を持った存在なのです。ゆえに高位の精霊は自分の意志を伝えるために人型が多いですが、大半の精霊は自然の動物の姿をしております。例えば儂が契約している風精霊『風鼬』」


 ルーグ老が呼びかけると風が渦巻き1匹の鼬の姿を形作る。

 その鼬は彰吾を見ると怯えたようにルーグ老の後ろへ隠れてしまう。


「ははは…こやつめは臆病でしてな。ご容赦くだされ」


「別に気にはしていないよ。これは昔からだからね~」


 どこか物悲し気に語る彰吾は昔から犬猫を始め動物に怯えられて生きてきた。

 動物園などは他の人の前には気にせず近寄る動物が、何故か意地でも自分の近くは寄ってこず悲しい思いをしたのだ。

 それだけに魔物とは言え気にせず近寄ってくる生き物が居る世界に来れて彰吾は少し喜んでいたりした。


 だから久々に明確に怯えられた事に少しショックを隠せなかっただけだった。


「と、とにかく精霊とはこのように動物の姿かたちを取ります」


「なるほど…」


「そして妖精は生まれは精霊と同じく自然の魔力が集まって生まれました。ですが、家庭で近くに強い感情を持った生き物が居る事で生まれるのです。怒り・悲しみ・喜びなどとてつもなく強く純粋な感情に影響され生まれ、結果として妖精には幼子のような性格の者も多くどこまでも純粋な存在なのですじゃ」


「…そんな種族だったのか、なら何に驚いていたんだ?」


「それは妖精族は幼さゆえに無警戒に人間の前に出て捕まる者が多く、すでに絶滅したものと思っておりまして…」


「つまり馬鹿が多いと…」


「いや…その…中には賢い者もおるのです。儂の昔の知り合いにも妖精は居りますが無数の魔導書を読み賢者と呼ばれているほどです。ただ…基本は無邪気な子供ですからのう…」


 身も蓋もない彰吾の物言いに少し困りながらもルーグ老は妖精族をフォローする。ルーグ老としても自信と親しい者が居る種族を馬鹿判定されたままは、さすがに嫌だったのだろう。 

 その説明を聞いて彰吾は少し考えて話をする。


「…まぁ、そりゃどんな種族も個人差はあるか。だとすると、今回の妖精の村の主は頭がいいという事か?」


「はい、おそらくは…妖精を村と言う集団としてまとめ上げたと考えるとかなりの者かと」


「なら、向かい入れるだけの価値はあるな」


「それと妖精には独自の蜜を使った調薬術を持っているので、儂としてもぜひ招きたいところですな」


「だったら決まりだな」


 説明に補足の知識までもあって彰吾の元々助けるつもりだったが、更に助ける気持ちを強め決断した。

 ソファーから立ち上がって鳥かごの中にいるティーの元まで行く。


「よし!お前の村助けてやるよ!」


『本当⁉』


「あぁ!任せておけ‼」


 全力で胸を張って断言する彰吾を見て今度は嘘じゃないと確信したティーはより嬉しそうに鳥かごの中で飛び跳ねて喜んでいた。その様子を見てルーグ老は密かに思う…


(もう出してあげてもいいのではないかのう…?)

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