第50話 迷子の妖精


 疲れ果てて地面に落ちた妖精らしき存在を確保した彰吾は即席で作った鳥かごに閉じ込め、中で不貞腐れている小さな女の子のような見た目の妖精に尋問を始めた。


「で、お前なに?何でここに居る?」


『人間に答えるもんですか‼』


 ただ人間に強い嫌悪感を持っているらしい妖精は意固地なまでに答えようとはしなかった。

 いくら魔王として転生したとは言って彰吾の見た目は人間だった時の姿が基準になっている。なので他の種族達とは違い、外見で区別することが不可能なのだ。


「だ~から、俺は人間じゃなくて魔王なんだよ」


『何よそれ?そんな種族聞いたこともないわ。もっとまともな嘘つきなさいよね』


「このクソちび…人が穏便に話してやってんのに」


 なにを話しても嘘と決めつけてくる妖精に対し、その無駄に整った見た目も合わさって異様に腹に立っていた。しかし体の大きさが手のひらサイズで簡単に怪我をしてしまいそうな事がなんとか彰吾にギリギリのところでブレーキを掛けさせていた。

 それから更に1時間近く話を続けたが何の成果も得る事はできなかった。


『ふん!』


「………埋めるか」


『え?』


 限界を迎えて思わずといった様子で彰吾から漏れた言葉に、妖精は余裕の態度が嘘だったかのように顔を青染めてカタカタと震え出した。

 ちなみに口には出したものの実際にやる気なんて大してない彰吾は普通に対処に困っていた。なにせ普通の鳥か事同じサイズの物を埋めるためのサイズの穴を掘るのはめんどうだし、でも話すら聞けないのでは捕まえておいてもストレスが溜まるだけになってしまう。


 などと言った理由で捕まえておくメリットがなかった。

 だが目的も何もかも不明の相手を無条件に開放などできるはずもなく、それだけに扱いに困っていたのだ。

 もっとも心が読めるわけでもない妖精からすれば生き埋めにされるかもしれない危機的状況のように感じてしまっても仕方がなかった。


「はぁ……そうすっかな」


『あ、あの…私』


「ん?」


『話します』


「…なんで急に?」


『正直に話しますから、生き埋めだけはやめてぇ~』


「あ…」


 半泣きで命乞いを始めた妖精を見て初めて彰吾は自分が不穏な部分だけを口走っていた事に気が付いた。ほぼ完全に無意識だったので何とも気まずい彰吾は困ったように頬を掻きながらなんとか挽回できないかと考え、ちょうどよさげな物を持っていた事を思い出した。


「えっと…別に埋めないから、これでも食べて落ち着こう。甘くておいしいよ?」


『うぅ…本当?』


「うん、本当だよ」


『食べる…』


 もはや幼児退行している妖精に合わせて彰吾の口調もどこかおかしくなっていたが、渡したのは頭が疲れた時ようの飴玉だった。それを受け取った妖精は少し怯えながら自分の顔に近いサイズの飴玉を涙を流しながら舐めた。

 瞬間、目を見開いて一心不乱に舐め始めた。ちなみに味はリンゴだ。


『美味しいいいい‼』


「気に入ってもらえたようで何よりだよ」


『こんな物があるならもっと早く頂戴よ‼』


「っ!ふぅ…」


 飴玉を食べただけで調子を取り戻したのか生意気な返答をしてくる妖精に彰吾はイラつくが、なんとか気合で抑え込んで話を続けようとする我慢をする。

 でも、飴玉に夢中の妖精は話なんて聞けるような状況ではなくて話の再開には更に時間が掛かった。


『う~ん!美味しかった!』


「そりゃよかったな。で、話は聞かせてもらえるか?」


『そうね。放したらもう一個くれる?』


「ちゃんと話すならな」


『ならいいわよ!』


 交渉成立!と言わんばかりに嬉しそうに跳びあがった妖精はここに来るまでの経緯を話し始めた。


 元々は少し遠くの森の妖精の村に住んでいたそうなんだが、そこでも悪戯などをして騒ぎを起こして面白可笑しく過ごしていたそうだ。

 しかし数日前、たまたま近くを通った馬に乗った人間を驚かしたところ落馬して大怪我をしてしまったのだ。更に一瞬とは言え姿を見られてしまったのだ。


 人間の間では『妖精の羽を使えば不老の薬が作れる』や『妖精を捕まえた者には幸福が訪れる』などの眉唾なうわさ話が無数に出回っていたのだ。

 しかも運が悪い事に怪我をした人間が近隣の領主の関係者だったらしく、すぐに妖精の捜索隊が派遣されて森を荒らされてしまった。妖精の村は妖精族が得意の幻惑魔法によって隠されているために見つかってはいないが、それもいつまでもつか分からない。


 そこで今回の問題の現況でもある現在捕まっている妖精『ティー』と他に数人が選ばれ、周辺に居るエルフなどを始めとした人間以外の話の通じる相手への交渉役として村の外に放たれたのだ。

 中でもティーは村から一番離れた地域で協力者を探すように言われてきたと言う事らしい。この彰吾が魔王城を築くまでは危険地帯でもあった森へと…要するに遠回しな追放や死刑宣告だ。


 だがティーは気が付いていないようで自分は選ばれた存在だ!と思っているようだった。


『どうよ!私は村を救うための大事な役目を担っているのよ‼』


「あぁ~そう、でも交渉とか俺に対してはしなくてよかったのか?」


『え?』


「こんなところに城を築いている存在は内容的に最高の交渉相手なんじゃないのか?」


『確かに……だったら協力してくれるよね!』


「さて~どうしようかな~」


『ねぇ!ダメ⁉ねぇ―――ってば―――!?』


 説明を聞いて、これ以上にない交渉相手だった事実に気が付いたティーは必死に呼びかける。

 その様子を見ながら表情を見られないように彰吾は少し上を見る。もはや協力するつもりはあったけれど溜まっていたストレス発散に魔王城まで帰る間、しっかりとした受け答えはしないでからかい続けて遊ぶのだった。



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