ドワーフ族の誇り
第26話 対策とミッション報酬
そして想定外の被害を出した主犯でもある魔王の彰吾は二日間なにをするでもなく寝て過ごしていた。
なにせ主目的の偽装した場所に確認させに行くどころか、衝撃があまりにも強すぎて後で確認すると偽装した場所は吹き飛んで更地になっていたのだ。
「はぁ…まじでどうしようかな~」
この結果に二日ぶりに目を覚ました彰吾は執務室のソファーに寝転びながら今後について考えていた。
「とりあえず、襲撃とかは当分こないだろうけど…」
準備万端の軍を壊滅させた事で人類は近日中に再侵攻してくることはないと確信していたが、それ以上に彰吾が不安に思っていたのは街の壊滅から軍がやってくるまでの期間の短さについてだ。
軍の準備や移動はどうしても時間が掛かるはずなのに、常識的にありえない速度ですべてが終わっていた。
つまりは彰吾の知らない未知の方法で時間を極端に短縮する方法があるという事に他ならなかった。
「確実なのは転移の存在か、あの迅速な進軍と撤退は他には考えられないしな。でも、物資の調達とかの方が問題だよな…1万近い軍全体の物資って考えると2~3日で用意できるとは思えないんだけど…元から準備してあったとかか?だとしても武具以外だと…」
一種のオタク気質の彰吾は長距離の移動に関しては転移魔法や魔道具の可能性が高いと確信していた。
だが今回の一万近い討伐軍の必要な物資は武器防具だけでも予備を含めれば途方もない量をそろえる必要があった。ただ武器や防具は事前に大量に保管しておくこと自体は可能なので、そういう可能性もあると深くまでは考えなかった。
なによりも彰吾が一番疑問に思っていたのは【食料】についてだった。
食料の長期保存に関しては元の世界でも多くの人を悩ませる問題なのだ。
それも人形越しに確認しただけでも肉は狩りで現地調達したと考えることもできたが、野菜や果物は収穫されたばかりのような瑞々しさを保っていた。
他にもパンのような主食はまるで焼きたてのように湯気を放っていたが、野営地は見える範囲では簡易の窯すら用意されていなかった。
つまりその場で作る事はできない状況なのに出来立てのパンなどが用意されていた。これは何かによって時間の流れを操作して保存するようなものが存在していると彰吾に想像させるには十分な材料だった。
ただ保存するだけなら問題は小さいと考えることもできたが、しかし彰吾はこの世界へきて一月もたっていないわけで常識というものが薄かった。
「持ち運びのできる大きさだと厄介だよな。たぶん八割方できないとは思うけど、スキルとかだとないとは言い切れないしな…面倒だなぁ…あれも全軍ってわけではないだろうし、次がいつ来るかの警戒も……はぁ」
今回の戦いだけでも人間の持つ技術力に関して自分に危険なものがある可能性に気が付いた彰吾だったが、なによりも憂鬱な気分にさせていたのは今後の対策を考えることだった。
対策とは言っても別に破壊活動と言うわけではなく監視・防衛の強化などの攻撃的なものではなかった。
しかし仕掛けるわけではないからこそ相手の正確な情報と最悪の状況の想定、それに基づいた最大限の対処法を行う必要があるわけだが、めんどくさがりの彰吾には何よりも退屈で憂鬱なことだったのだ。
ただ、いくら面倒でも実際に軍隊が来てしまっているので対策しないわけにもいかず必死に憂鬱な気持ちに抗いながら彰吾は考えることにした。
「………」
そして気合を入れて1時間以上を掛けて今打てる最善の手を考え切った彰吾は執務室で燃え尽きていた。
ちなみに考え抜いた方策の一つは小動物型の監視人形に遠隔情報送信機能を付けた上での増産と、周囲の森林を利用した自然要塞化だ。
監視人形に関しては追加機能のせいで少し魔力や素材の消費が激しく、最初はめんどくさく感じていた彰吾だったが他に方法も思い浮かばなかったので採用したのだ。
次に森林の自然要塞化については説明するまでもなく文字通りだ。
自然の動植物を使用して天然の要塞とする方法。もちろん少しは自分達に有利になるように手も加える予定ではあるが生態系を変えるような、例えば自生していない毒草を植えると言ったことはしない。
するのは木々の配置を少々移動させたり、迷いやすいように枝葉を調整する程度の事だ。
ただ、実行するには専用の人形の生産と植物に精通しているエルフ達に意見を聞く必要があると彰吾は考えていた。
何気に彰吾の精神を一番消耗させているのはエルフ達に話を聞きに行くことだったりした。なにせ転生してからエルフと接触するまで誰かと会話することはなく、元の世界でも社交的ではなかったので余計に人と話すことへの疲労感が増大していたのだ。
「ふぅ……後で考えよう!」
そして考え疲れて燃え尽きていた彰吾は今日は考えることを放棄するのだった。
もはや何もやる気も出なかった彰吾は外を見て日が暮れ始めているのを買う人して軽食を済ませて、さっさと寝室のベットへと倒れ込んだ。
「ふぁぁ~~……」
予想以上に頭を働かせ疲労が溜まっていた彰吾は横になると大きく欠伸が出た。
それでも逆に疲れすぎているのか、不思議と10分近く目を閉じても眠ることができずにぼーっと天井を見ていた。
「………?あ、確認してなかったな。ネーミングセンスのないミッション報酬」
視界の端に何かが点滅していることに気が付いた彰吾は、それでようやく数日前に解放された『魔王ミッション』とストレートすぎるネーミングのシステムの存在を思い出した。
どうせ眠ることもできないでぼーっとして時間を無駄にしていただけなので、いい暇つぶしだと考えて確認することにした。
『ミッション達成‼』
『・人類の街への襲撃:報酬 ランダム植物の種・ランダム素材
・人類の街壊滅:報酬 ランダムアイテム宝箱×3・SP100
・人類軍の撃退×1:報酬 残存魔力100000・スキル進化券一枚
・人類5000人以上殺害:報酬 残存魔力50000
・全人類国から脅威と認識される:報酬 称号【人類の脅威】・SP50』
「おぉ~!相変わらず報酬が豪華だ。下手なゲームだと報酬あっても変わらないようなものもあったからな…」
ミッション報酬を確認した彰吾は内容の豪華さに、元の地球での少し微妙だったソシャゲの事を思い出して顔を歪めた。
ただ別に今回の事には一切関係ない事なので思い出したのは一瞬で、すぐに目の前の報酬へと興味は移っていた。
「ランダムって書いてあるのは種類が違うだけで、前の設計図と似たような感じだろうから保留。残存魔力はあって困るものじゃないけど確認は後でまとめてできるし、こっちも保留だな」
すでに内容が予測できるものと理解できている物に興味のなかった彰吾は確認を後に回して、初見で興味のある物だけ確認することにした。
「とにかく、すぐにでも確認した方がいいのは間違いなく称号だろうな。【人類の脅威】とか不安しかないな…」
何よりも急いで彰吾が確認したかったのが報酬の中でも異質な称号【人類の脅威】だ。もはや名前からしてもいい効果がありそうな気はしないのだが、確認しないでいてマイナスの効果でもあったら大変なので渋々ではあるが彰吾は鑑定を使用する。
《鑑定結果:称号【人類の脅威】》
《備考:一定以上の地位に就くもの数名から人類全体の脅威であると認識された物の証。この称号を持つ者は人類に悪感情を持たれやすくなる。効果:人間特攻・小》
「う~ん……微妙?人間と友好的に接するつもりならマイナス効果になるんだろうけど、俺の場合は人類の殲滅…まではしないとしても衰退させるのが依頼だし、デメリットほぼないのに、こっちの攻撃は聞きやすくなるんなら問題ないどころか、普通にありがたいな」
最初は不吉すぎる称号の名称に警戒していてた彰吾は鑑定の結果に拍子抜けしたようだったが、最終的には安心のほうが勝ったように笑みを浮かべた。
なにせ彰吾の目的は強くなりすぎた人間の勢力を衰退させ、迫害されて減ってしまった亜人と呼ばれる種族の保護することなので問題になることはない。
唯一困った事と言ったら作戦の一環として人間と交渉したり、街に潜入するなどの作戦が使い難くなったことくらいで不可能になったわけでもないので気にする必要すらなかった。
そんな理由から称号には安心した彰吾は気になっていたもう一つの『スキル進化券』へと思考を向けた。
「もう名前から意味は分かるけど、念のために確認しておくか」『鑑定』
表示されている名前から効果はわかりきっていたが、もし間違っていた時に取り返しがつかないので鑑定を使用した。
《鑑定結果:スキル進化券》
《備考:ユニーク以外の選択したスキルを1つ、SP消費なく上位スキルへと進化させることができる》
「お、やっぱり思っていた通りの効果だったな!」
想像通りの効果に満足そうに頷くと彰吾は真剣な表情で悩みだした。
ユニークスキル以外と言う制限は存在するが、つまりは通常のスキルが運河よければユニークスキルになる可能性も皆無ではないという事だ。
まだ確証もなく、憶測に近い想像だが彰吾は間違いなく可能だと考えていた
なぜなら説明には『上位スキル』と言う文言が表す『上位』が何を表すのかが明記されていないからだ。簡単に言えば【剣術】に使用すれば進化して【上級剣術】になるが、【槍術】に使用したら【槍神】へとなる可能性もあるのではないかという事だ。
スキル自体が素質によって消費SPが変わるので進化先も同じでは?と言う考えから出た仮説は、仮設ではあったが彰吾自身は確率が高いと思っていた。
他にも素質外にも使用頻度やレベルによっても進化先は変化する可能性が高いとも考えていたが、それゆえに所持スキルの中で進化させる1つを何にするか真剣に悩んでいたのだ。
しかし疲れていたのに頭を働かせたせいで答えを出すまでに力尽きてしまい、気が付いた時にはベットで静かに眠っていた。
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