第14話 魔王ミッション
エルフの庇護を了承すると目の前に急に現れた『ミッションクリア!』の半透明な表示に、ただでさえ急な状況に混乱していた彰吾は余計に頭がこんがらがりそうだった。
それでもせっかく保護の申し出を受け入れてくれたエルフ達の前でみっともない狼狽える様子を見せられない!と何とか表に出す事は我慢した。
「それでは保護に応じてくれたのですし、今後の話をしたいところですけど…皆さんはまだ疲れているようですね」
そう言って彰吾が見回すとエルフ達の大半が顔に脂汗を浮かべていて、中にはいまだに息を乱している者が多くみられた。
本来ならすぐにでも今後の生活など話し合いたい事はいくらでもあるが、こんな状態のエルフ達に無理させてまでする必要は彰吾は感じなかった。
「ひとまず住居のある所まで案内しますから、今日はそこに食料なども後で届けておきますのでゆっくり休んでください」
「しかし…いえ、そうですね。では本日はお言葉に甘えさせて頂きます」
エルフ達のリーダーでもあるアイアスは最初は遠慮しようとして、後ろの自分の仲間の様子を見て考え直して彰吾の話を受け入れた。
その後は本当にエルフ達は限界だったようで木の上にあるログハウスへと案内すると、目の前の光景に軽く驚いていたが中まで案内されると各々で家族ごとに別れて休む半分以上の者達がすぐに眠っていた。
まだ起きている者達も疲れが限界に達しているのか動くような元気は無いようで、思い思いに休んでいた。
それを見た彰吾は邪魔をしないように静かに魔王城へと戻って、メイドや執事型の人形達にエルフ達の元へと食料を届けるように指示を出し自室へと戻った。
「さて、これで今日中にやる事はほとんど終わったしいいかげんに確認するか」
そして自室に戻った彰吾はソファーに腰を下ろすとずっと開いたままの『ミッション』と書かれている表示へと目を向けた。
気が付いた時には『ミッション達成!』の文字にばかり意識の言っていた彰吾だったが、よくよく落ち着いて確認するとスクロールが出来て直前にも何かメッセージが来ていることに気が付いた。
『初めての亜人種の保護を達成…確認』
『魔王ミッション解放…成功』
『ミッション達成‼』
『・魔王城の建設:報酬 残存魔力30000・防衛機構変換チケット2枚
・兵力1000以上保有:報酬 ランダム武具設計図2枚
・支配領域内での殺傷数500体:報酬 魔力回復ポーション5個
・初の人類殺傷:報酬 残存魔力10000
・初の亜人種保護:報酬 残存魔力40000・SP100
・エルフ種の配下獲得:報酬 植物育成キット・治癒ポーション10個』
この他にも未達成のミッションが下には見るのが億劫になるほど大量に並んでいて、軽く目を通しただけでめんどくさくなった彰吾は見るのを止めた。
「ミッションの内容はわかったけど、あの女神共…本当にゲームとかの影響受けすぎだろ」
確認が終わった彰吾の感想はその一言に尽きた。なにせスキルだ異種族だの状況で流行りだな~と思っていたところで、さらに魔王城の効果に来て今回の『魔王ミッション』だ。
ここまで来ると少し呆れてきていた。
「まぁ…影響を受けるのは別にいいけどな。正直これはこれで俺も楽しいからな」
とは言っても彰吾自身が地球にいた時からファンタジー系の小説なんかの作品が好きだったこともあって、気にしないどころかむしろ楽しんですらいた。
ただ現実として自分の身に起こると少し労力が釣り合わないと感じることも多いのだ。
「こうも数字が多いと管理がめんどくさい…意地に必要な残存魔力はないけど、任意発動機能には残存魔力の消費が必要だしな。さっき使った転移回廊の消費が一度の使用が1時間で2000の消費で、食料は生産品があったからもんだいない。でも住居の家財具を慌ててそろえたから纏めて消費が5600で…」
そして現実になった事で彰吾が一番苦労していたのが魔王城の設備の創造などに必要な残存魔力だった。維持には一切消費しないのだが他の機能などを使用するとその度に消費してしまうので、ある程度の数字の管理が必要があった。
特に最初期には必要な道具などが果てしなく多くて比例して消費魔力も増加していたので、毎日のように彰吾は自分の魔力を限界までチャージしていたほどだ。
しばらくして人形兵達も十分に成長し安定して獲物を狩れるようになった今でも、不定期の消費が多くて朝に保有魔力の半分をチャージしている。
おかげで彰吾は消費した魔力を記録して1日の増加した魔力より多かったときは追加で自分の魔力で補填するのが習慣となっていた。
ようするに地球ではろくにやっていなかった家計簿をつける必要が出てしまったのだ。
「消費よりも魔王ミッションの報酬で追加された残存魔力が膨大だからしばらくは大丈夫そうだけど、人数が増えたから回収できる魔力も増えるけど消費も増えそうなんだよな~」
あるていどの計算を終わらせた彰吾はソファーに横になって考えていた。
まだエルフ達がどのように生活していたのかをしらないので、その補填をしていき役割を任せて行けば確実に魔王城の設備の稼働率は上がる。
つまりは比例して消費魔力は確実に増えていくので、エルフ達が居る事で増える回収率とどちらが多くなるのかを考えるだけでも彰吾は既に疲れていた。
そうして考えているうちに本格的に疲れて来たのか考えるのを一旦止めた彰吾は、ゆっくりと立ち上がった。
「ひとまず晩飯食べてから考えよう!」
どうやら考え事をしていたらお腹が空いてきたのが理由だったようで彰吾は無駄に元気よく叫ぶと、足早に食堂スペースに向って人形料理人に注文して食事に入る。
頼んで出て来たのは一見普通のチャーハンに餃子と元の世界でも見るような物だったが、その量が異常だった。軽く人の頭以上に山盛りになって丸くなっているチャーハンに、座っていると少し見上げるような形になる餃子の山だった。
「いただきます‼」
そんな引くほどに大量の料理を前にしても彰吾は気にした様子もなく普通に食事を始めた。この山もりの料理は彰吾が魔王になったりする前、つまり元の地球にいた時から取っていた量だった。
何と言うか頭が人以上に動く反動なのか彰吾は燃費が悪く、常人の数倍は食べないと一日からだが持たない体質だった。
しかも異世界に来てからは状況に適応するため、頭がフル稼働し続けていたから普段以上に食べる量が増加していた。
更に目の前のチャーハンと餃子の山も30分も経たずに完食されていて、次の瞬間にはケーキをホール1つをデザートとして食べてようやく一度の食事が終了した。
「ふぅ…食べた~」
これだけ食べてもお腹が特に目立つほど膨れたりもしない彰吾は満足そうにお腹をさすって、しばらく食休みすると何を思ったのか玉座の間に向かった。
誰もいない無駄に広い玉座の間に入ると少し寂しさを感じ…足りなんてことは彰吾にはなく、ただ目的のためだけに真っ直ぐ玉座まで向かって行った。
「サポートさ~ん!ちょっと質問あるんだけどいいか?」
『わざわざ玉座の間に来なくとも私と会話は可能だと言ったはずですよ?』
誰もいない場所で急に叫ぶという一種の奇行のような彰吾の行動だったが、その声に瞬時に反応した声によってただの会話へと変わった。
聞こえて来た少し呆れを含んだ声に彰吾は笑って受け流した。
「そうは言ってもね。ここで話した方が雰囲気が有って良いじゃないですか」
『私にはそういう感性はわかりません』
「ならしかたないか。それよりも質問なんだけども、魔王ミッションってやっぱり知ってた?」
あまりにも素っ気ないサポートシステムの声にも彰吾は別段気にした様子もなく、すぐに本題の質問『魔王ミッション』の事を知っていたのかを訪ねた。
『はい、知っていました。もちろん今の魔王様がミッションが解放された状態なのも把握済みです』
質問にサポートシステムは淡々とした様子で答えた。
その答えに彰吾は怒るでもなくやっぱりか…とどこか疲れたように頭を手で押さえて納得したようなリアクションをしていた。
「…念のためこれも確認しておきますけど、事前に教えなかったのは女神の側から口止めされてたから…だよな?」
『…はい、説明した方がいいとは思ったのですが『本人が見つけるまでは教えるのは禁止ね~?』と言われまして、創造主には逆らえませんので…申し訳ありません』
大抵の事ではシステムとして機械的な返答しかしないサポートシステムも、その本文であるサポートを怠ったことに申し訳なさをにじませる声で謝罪した。
だが質問した彰吾は別に気にしていないようで首を傾げていた。
「別に謝る必要はないって、文句を言うとしたらあの女神ども…と言うよりも性格的にシルヴィアとか言う女神だろ。いつか会う機会が有ったら直接文句を言うからサポートさんは気にしなくていいですよ」
『いえ、神に直接文句を言いうのも問題では…』
「すでに初対面の時にやらかしてるから今更だよ。それよりもこのミッションの報酬は魔王城に関係のある物がほとんどなんですかね?」
ふざけた態度の多くとも神相手に直接文句を伝えようとする彰吾にサポートシステムは注意したが、当の本人は初対面の時にさんざんやらかしているので気にしてすらいなかった。
それどころか魔王ミッションについての質問を続けてしたほどだ。
あまりに普通に質問されてサポートシステムも少し唖然とした空気が流れ、しばらくしていろいろ吹っ切れたような声で答えた。
『ふふっ…そうですね。魔王ミッションは魔王様が活動するうえで『飽きないようにする』と言うのが当初の目的ですから、その報酬も自然と魔王の活動に役立つものが中心になってます。その中でも魔王城に関係する物は現物として用意しやすいので全体数としては多くなってますね』
「あぁ…魔王ミッションって最初はそんな目的だったのか。でも話を聞いた感じだと、魔王城に関係のない物も報酬にはあるのか…ポーションとかがそれにあたるのか?」
『そうですね。ほかにも魔王専用のスキルなども難易度の高いクエストの報酬として存在します』
「へぇ~それは一度本気で全部達成を目指してみるのも面白いかもな。あの女神の思惑に乗る形になるのは気に入らないけどな」
詳しい説明を聞いて自分専用のスキルと聞いて彰吾はテンションが上がったようで楽しそうに笑顔を浮かべてやる気を募らせた。もっともシルヴィアの思惑通りにやる気を出させられた事には少し不服そうだった。
その後も『どんな内容のミッションが多いのか?』や『難易度って判定する表示があるの?』などいろいろ気になった事を彰吾が片っ端から質問して、サポートシステムも断る事なく全部に答えた。
なので満足いくほど質問し終わった時には日がかなり暮れていて彰吾は風呂を手早く済ませて、翌日はエルフ達の事もあって忙しいのが確定しているのですぐに深い眠りについた。
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