第13話 エルフ族・保護
「それではやる事も終わったので、皆さんを安全な場所に案内しますね。少し通りのでゆっくり俺の後について来てくればいいです。焦らずに来てください」
何事か忙しなく動いていた彰吾が戻って来るなりそう言うと、久方ぶりに満足のいく休息を取っていたエルフ達は言葉通りにゆっくりと後に続いて行った。
最初は『こんな森に安全な場所?』と不安そうにする者達も居たが、もう別にいい方法がある訳でもないので信じて進むのだった。
「おい、本当にこのまま付いて行くのか?」
ただそれでも完全に納得のできていない者は居て、そのうちの1人が先頭を歩くリーダのエルフへと小声で話しかける。
「今更なにを言っている。皆で話し合って決めた事で、なにより我々には他に選択肢など何も残っていない」
「それはそうだが…」
「今は信用するしかない。他に生き残るすべが残されてないのだからな…」
まだ何か言いたそうな仲間にリーダーのエルフは悲痛な表情でそう言うと、聞き耳を立てていた他のエルフ達も含めて誰もなにも言えなくなっていた。
それからは静かに彰吾の先導に従って森を歩き、日がちょうど傾き始めると目の前に巨大な。本当に巨大としか言い表しようのない大きさの壁が端が見えない程に昼がっていた。
「な、なんだこれは…」
「これは見たまんま城壁ですよ。この辺は本当に竜や巨人が現れるので、この位の大きさが無いと意味が無いんですよね。それよりも皆さんが生活するのは壁の中ですから。あと少しで休めるので頑張ってくださいね‼」
「わ、わかった」
どこか少しずれた彰吾の応援に戸惑いながらエルフのリーダーが頷き、そのまま彰吾が壁に向かって先導して行った。
そして壁に近づけば近づくほどに壁の巨大さがはっきりとして来て、小さな山のような大きさに下まで着いたエルフ達は圧倒されたように呆然と見上げていた。
「えっと、入り口はあそこですね!」
動かないエルフ達を気にした様子もなく彰吾は普段使わないのですこし門の場所を探し、すぐに向かっていた所から少し右に逸れたところに見つけた。
壁だけでも圧倒的な大きさを誇るだけあって門も同じくわい巨大だった。
ただ外観には違いがあって壁は黒いが門だけは基本は赤で、そこに銀で竜のような装飾が施されていて一種の芸術作品のようになっていた。
もはやエルフ達は驚き疲れて表情が徐々に本当に死んで来たが、とにかく最初の通りに彰吾の後に大人しく付いて行った。この段階になると納得していなかったエルフの何人かも反抗だのなんて考える樹すら起きずに、少し前までの自分達を愚かだった…と恥じてすらいた。
そうしている間に意気揚々と彰吾が近づいただけで門は自動的に開き向かい入れる。
「さて、ここまでくれば完全に安全ですよ!」
門を抜けてある程度進んだところで彰吾は振り返って宣言した。すでに森の奥深くて簡単には人間は入ってこれず、運よく入ってこれたとしてこの城壁を打ち破るだけの力が残っていないだろう。
しかも打ち破るにしても接近されて彰吾が何もせずに黙っている訳も無いので不可能であることに変わりない。
そして外で生活していただけにエルフ達は彰吾の『安全』と言う、たった一言が何の疑いもなく本当なのだと素直に受け入れ安心する事ができた。
「それでエルフの皆さんが普段どういう生活していたのか聞いてもいいですか?」
「あぁ…別に教えるのは問題ない。ただ何故そんな事を聞く」
門をくぐり抜ける途中で何故か止まって質問してきた彰吾に、最初から代表して話していたエルフのリーダーが聞き返す。
普通なら質問に対して質問で返すのはマナー違反なんだが、彰吾は気にした様子もなくにこやかに答えた。
「単純に俺が皆さんのような異種族の方たちの生活と言う物を知らないからです。体質や性質何と言えば良いのかは微妙だけど、つまり俺の考える普通の生活とエルフの皆さんの普通の生活に違いがないかを確認したいんです」
今回の彰吾の質問は異世界人であるがゆえにこの世界での普通の生活、特にこれから関わる事の増える保護対象の生活様式を知っておきたかったのだ。知らないと何か問題が起きるかわからないので、先に知っておきたかったと言う事だ。
その彰吾の説明を聞いてエルフのリーダーは納得したように大きく頷いた。
「なるほど、そう言う事ならさほど違いはないだろう。確かにエルフ種は森に住み共に生きる種族ではあるが、野菜しか食べないなどと世間で言われるような特徴は存在しない。あえて言えば自然の多い場所の方が心地よく感じる…と言うくらいだろうか?」
保護してくれると言う相手に隠す事も無いのでエルフのリーダーは、すぐに思い浮かぶ自分達エルフのイメージと実際の違いを簡単に説明した。
その説明を聞いた彰吾は少し真剣な表情で考えると、満足そうに大きく頷いて笑顔を浮かべた。
「そう言う事だったら、ちょうどいい区画があるので皆さんにはそこに住んでもらう事にしましょう。たぶん居心地はいいと思いますよ!」
「こちらは安全さえ保障してもらえればそれでかまわない。すべて魔王殿に任せる」
こんな城壁を作り出し見たこともないような人形の兵士を扱う魔王を名乗る彰吾に、えうふたちは反抗する気持ちも今更逃げる当てもないので完全に任せることにしたのだ。
その答えに彰吾は少し違和感を感じたようだったが深く気にする事なく、率先して門を進んで行った。
ただ向こうへと降り抜けるのかと思っていたエルフ達だが、途中で何故か分かれ道になっていて彰吾は右の通路へと迷いなく進んで行った。
さすがに意味の分からない展開にエルフ達は混乱していたが『任せる』と言ってしまっただけに呼び止めるのも気が引けてしまい、警戒しながらゆっくりと後を付いて行く。
更に通路を進んで行くとエルフ達はある事に気が付いた。
「おい、この壁って」
「あぁ…間違いなく魔法触媒だ。下手すると城壁全部がそうなのかもな」
「すげぇ…」
魔法に秀でているエルフは近づいたことで壁に使用されているのが魔法触媒になっている事に気が付き、素直に驚きの声を上げる。触媒は普通は持ちまわしのしやすい杖や指環などにするもので、大きくてもモノリスのような柱のようなものが一般的な限界だと知られている。
そんな事に驚いていた後ろのエルフ達に先頭を行くリーダーは真剣な表情で言った。
「しかもこの通路にも何か魔法的効果が持たせてあるようだな」
「「「⁉」」」
「とは言っても、別に害のある物ではないようだな。今、我々が無事なのが証拠だ」
「あ、確かに…」
最初は何かの効果が発動していると聞いて緊張の走ったエルフ達だったが、リーダーが言った事を聞いて安心した。
ただ効果の分からない魔法の使われている通路を通る不安があることは変わりなく、それでも一切止まらずに進む彰吾の後を付いて行くしかなかった。
更に少し歩くと無駄に広い通路に光が入り始め明るくなってきた。
その光に気が付いたエルフ達はちゃんと外に出れることに安心したのか笑顔を浮かべていた。もっとも外に出た瞬間にそれどころではなくなるのだが…
そして先導していた彰吾が先に外に出ると一斉にエルフ達は競うように外へ出た。
「こ、これは…」
「嘘だろ…」
「すげ…」
各々に漏れ出るように言葉を絞り出したエルフ達だが。その目の前にあったのは何処までも広がっているような十mはある木々が生い茂る森の姿だった。
差し込む日の光で神秘的な光を放ち、澄んだ空気によって落ち着く雰囲気を放つ森にエルフ達は徐々に涙を浮かべ始めた。
彼らエルフはいくら故郷から離れようと自然と共に生きる種族。
生まれた時から広大な自然の中で生活していただけに、いくら狙われたからとは言ってもそこから離れることには全員が生きるための苦渋の決断だった。
それだけに目の前に広がる光景は故郷を想起させていた。
そんなエルフ達の様子に彰吾も何か声をかけることはせずに落ち着くまで見守った。
「す、すまない…気を使わせた」
「気にしなくていいですよ。何が有ったのかはわかりませんけど、大変だったのは理解できますから」
落ち着いて冷静さを取り戻したエルフのリーダーは気恥ずかしそうにしていたが、さすがに目に涙を浮かべるエルフ達を見て彰吾も感情移入…と言う程ではないにしても、理解はできた。
そうしてエルフ達が全員落ち着きを取り戻したのを見計らって彰吾は話始める。
「まだ混乱している人もいると思いますけど、ここの説明だけでもさせてもらいますね」
「頼む…」
「まずこの森は今のところ人形、あぁ…皆さんを助けた鎧と同じような存在によって管理維持をされています。用意した理由としては単純で皆さんのように保護する方たちが元々住んでいた環境が分からなかったので、出来る限りの環境を用意していただけです」
説明と言うには身も蓋もない事情の説明だったが、おかげで嘘はないと理解できるだけにエルフ達は少し困ったような苦笑いを浮かべて頷いた。
どれを見て彰吾はわかりやすいようにゆっくりと説明を続ける。
「更に説明させてもらいますと、この森は自然で生きていた種族の方たちが過ごしやすいようにある程度は調整してあります。自然魔力の量も最適にしているはずです…正直、俺はよく分からないので皆さんに直接体感してもらって、もし違和感などあれば行ってください適時調整します」
「あ、はい…ではなくて⁉貴方は自然魔力を操作できると言うのか?」
何事もないように続けられる説明に頷いてしまったエルフのリーダーだったが、すぐに話の内容に気が付いて驚愕の表情を浮かべて聞き返す。
それに対しても彰吾は何に驚いているのか理解できていないようで首を傾げた。
「?まぁできますね。とは言っても、さすがに大規模な操作は魔王城の範囲内でないと無理ですけどね」
「それでも十分異常だ。自然魔力と言うのは文字通り自然、つまり人の身では決して操作できるような代物ではない。と言うのが常識だったのだが…」
「そうなんですか?結構普通に出来ますけどね…」
エルフのリーダーの言葉を聞いた彰吾は未だに理解できていないのか、不思議そうな表情を浮かべて手に意識を集中した。
すると周囲から何かが集まるように風が吹き抜けて彰吾の手の上に黒い渦のようなものが形成され始めた。それがなんであるのか今までの話と、なによりも本能的に理解してしまったエルフ達は唖然としていた。
ただ彰吾にはエルフ達を気にするほどの余裕はなかった。
「うぅ~~…あ、これ以上は無理…」
その一言同時に彰吾の体から力が抜けて手の上の黒い渦は解けて消えていった。
これで分かるように彰吾は魔王としての力になれたことで自然に存在する魔力を操作する事ができたが、道具なしでは強い集中力を必要とするために使えるという段階ではなかった。
しかしエルフ達にとっては十分に本当の意味で心酔する理由として成立していた。
「え…」
集中を解いて彰吾が見たのは全員が綺麗に首を垂れて跪くエルフ達の姿だった。
急すぎる展開に驚いている彰吾を置き去りにしてエルフのリーダーは代表して前に出ていた。
「それだけの力を持つ魔王様。我らエルフ族、シライア森の民は魔王様に保護して頂きたい」
「あ、それはむしろされてくれないと俺が困るんで助かりますけど…急にかしこまりすぎじゃないですか?」
「あれほどの御業を見せられて本当の意味で気持ちが決まったのです。ゆえに遅ればせながら私は族長が嫡子【アイアス・シライア】と申します。臨時ではありますが族長として魔王様の庇護下に入る事を了承願いたい」
「あぁ…まだ混乱していますけど、了承します」
急すぎる展開に彰吾は混乱していたが申し出を受け入れることに対してはデメリットは無いので、受け入れた。
すると目の前にステータス画面のような半透明なパネルが現れた。
そこには『ミッションクリア!』と言うゲームのような文字が表示されていた。
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