人形と人形師
藤野 咲
第1話:起動
「よし、できた……」
知らず知らずのうちに口から溢れでたのは嬉しさの滲む一言だった。何せ、五ヶ月間もかかりきりだったのだ。それがたった今、完成した。
焦げ茶色の睫毛に縁取られた大きな瞳は閉ざされている。俺が命じれば、すぐさまその奥に隠された翡翠の瞳が開くことだろう。これまでに幾度も繰り返してきた動作とはいえ、この瞬間だけは緊張してしまう。
唇を舐めて湿らせ、決意を決めたおれは彼女の耳元で囁いた。
「リウネー、
微かな身じろぎの後、目の前に横たわる少女はゆっくりと目を開けた。そしてきょろきょろと目を動かし、横に座っているおれの姿を見つけると柔らかく微笑む。
「おはようございます、ご主人様」
体を起こし、リウネーは優雅に一礼してみせた。
ここまでの動きに問題はない。しかし、まだまだ動作点検は残っている。
無事に起動したことの喜びもほどほどに、おれは指示を出した。
「リウネー、体操してみろ」
「はい」
体操をすれば、体が正常に作動しているかがわかるのだが……。
「リウネー?」
返事を返したのに一向に動き出す気配のない彼女に声をかける。処理中なのか体がうまく動かないのか。
「ご主人様、タイソウというものはどんなものなのでしょう?」
「え……?」
予想だにしない返答に、つい頓狂な声を上げてしまう。聞き返された彼女はぐっと身を縮めて目を閉じた。出来ないことを咎められたと思ったらしい。
どうやら、事前に入れておいたはずの知識がうまく引き出せていないようだ。正常に稼働するものならば、勝手に検索、処理して行動に移せるはずなのに。
「データは入っているはず……ということは、」
どこに不具合が生じているのかは一度バラしてみないとわからない。
「やれやれ。やはり一筋縄じゃ行かないか。リウネー、
シャットダウンさせると、リウネーは崩れ落ちるように眠りに落ちた。
人形と人形師 藤野 咲 @saki_fujino
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。人形と人形師の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます