第2話 拉致された生徒は剣と槍の狭間で垂泣す
天気は快晴、雲ひとつ無い。既に日は落ち小さな飛行機の窓からは星が良く見える。
しかし、
彼の隣には
「なぁ、昴。二年で誰が一番美人だと思う?」
「そりゃぁ、生徒会長の
「俺も二文字だぞ。」
「偶々だ。颯はどう思う?」
「冷たいな、昴は。俺は、クールビューティーの橘莉々菜だと思うな。美人だし剣道部の部長してるからか凛々しいし。何より巨乳なのが良いな。」
「生徒会長も凛々しい上に美人だし巨乳だぞ。そう言えば生徒会長も剣道部だったな。二人は友達かな。顔がみたくなった。出来れば話したいな。くそっ、余計に顔が見たくなった。」
「それが修学旅行だな。いつもと違う環境と恋愛成就への期待が気持ちを高揚させ行動させるんだ。未完成の事実は記憶に残るだろ?片思いは未完成の事実だから記憶に残っていて、人はそれを完成させたがり完成させることは通常以上の喜びになるんじゃないかな。」
「ふーん、どこにいるか知ってるか?」
颯は修学旅行に対する持論を展開してみたが、昴には全く関心がない。その論理が正しいかどうかもわからないし、どうでもいいと思っているから聞き流す。
「クラスから言えば前の方の席だろ。」
「そうか、前の方か。ちょっとトイレ行ってくる。ついでに見てくるよ。」
そう言うと、昴は立ち上がり上の棚からリュックを取り出しトイレへと向かった。リュックの中にはゲーム機やパスポートなど直ぐに必要になる細々としたものを入れいている。
「昴、何で荷物持っていくんだ?」
「ちょっとした大人の事情だよ。」
「ほぉー、頑張れよ。」
昴が前方のトイレへ向かうと窓際のA席に碇澪がいた。
制服の時の清楚な雰囲気とは少々違い少し派手な濃紺のシャツと足首の出る短めの青いストレッチの効いたジーンズを履いている。
その隣のB席には颯お気に入の橘莉々菜が座っていて仲良く笑いながら話している。莉々菜はゆったりとしたグレーのスエットのパーカーとカーゴパンツに黒い起毛のブーツを履いている。
類は友を呼ぶという言葉がある。
彼女たちの列には綺麗どころが揃っており一般人には近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
鑑昴も例に漏れず、好きだから、話したいからと言って近寄ってはいけない精神的な壁があった。
彼女に一度触れてみれば彼女の人となりや誰が好きなのか分かる可能性があるのだが未だに機会に恵まれず精神的な壁を超えられないでいた。
あまり彼女を見ていると周囲からなんと言われるか分からないので昴は早々に切り上げトイレへと向かった。
あの二人、仲が良かったんだな、と昴が思った時だった。
それは突然始まった。
突然の光が飛行機の中に溢れた。
目の前が真っ白になり何も見えなくなり昴は意識を手放した。
光が収まった時、飛行機前方に座っていた乗客が忽然と姿を消していた。
乗客の突然の消失に機内は混乱に包まれた。
十数分後、飛行機は元の空港に引き返すことになった。
颯は昴を探した。
昴は生徒会長を見に前方のトイレへと向かった。だから昴も消えたのかもしれない。颯はそう考えた。
案の定、颯は昴の姿を見つけることは出来なかった。
結局、消えた乗客二十名。
ペテルギウスと乗客の消失に関連性があるのではないかと報道が騒ぎ立てた。ただ、報道も関連性がないとは思ってはいたが話題性を持たせるために関連付けて報道した。
結局、消えた乗客の行方は分からないまま、報道される数は日毎に減少していった。
颯は持てる知識を使い昴の行方を探した。
しかし、どこにも昴を見つけることは出来なかった。
それでも颯は昴を探すことを止めなかった。
ただ、事態は捜索の継続を許すほど甘くはなくなっていった。
一方、昴は荒涼とした近くに家もなく舗装されてもいない道を歩いていた。遠くの方に見える集落に向かって。
あの日、昴は光りに包まれた。
気がつくと既にそこは飛行機の中ではない。
金持ち趣味の家具や装飾の施された壁に囲まれた部屋だった。
一体、いつ飛行機から降ろされたのか、どうやってここまで連れてこられたのか分からなかった。ただ言えることは誘拐されたのだろうということ。外国ではよくある人身売買のようなものに捕まったのだろう。若しくは、あの光った瞬間死んだのではないかということ。そして、ここは天国。飛行機がミサイルか何かで爆発した光があの光で、その影響で死んだのではないかと考えた。
しかし、結局、そのどちらでもなく、どちらかと言うと前者のほうが近い。いや、近いと言うよりそのものかもしれなかった。
その部屋には昴以外の者も含め二十名の人間がいた。周りには西洋風の甲冑に身を包んだ兵士と思しき者たちが各々に手に槍や剣を持ち昴達を警戒しながら囲んでいる。
殆どの者は意識がなく横たわり、既に意識のある者は座り込んでいた。そこには、生徒会長の
二十名すべての者が意識を取り戻し座り込んだ頃、綺麗な真紅のドレスに身を包んだ女性が四名の護衛を引き連れて部屋に入ってきた。
女性は金髪の長い髪を巻き大きな茶色の目で楓たちを睥睨しながら荘厳な声で言葉を紡ぐ。
「あなた達は、私の魔法によってこの国へ召喚されました。」
昴は思ったことが口から漏れ出た。
「お、王道だ・・・」
綺麗な金髪の女性は昴の言葉を無視し言葉を紡ぎ続ける。
「私はこの国、フォンテーヌ王国の第二王女カトリーヌ・ド・フォンテーヌです。この国は魔王の侵略に曝されています。あなた方にはその危機から我が国を救っていただきたく他国より拉致してきました。」
「救っても元の国には戻れないんでしょ?拉致って誘拐じゃないか。犯罪だろ!」
昴達の中にいた三十路前の男が王女に詰問する。
「はい。その通りです。これは拉致であり犯罪です。しかしあなた方の国にも緊急避難という言葉があると思いますが、私達の国の数百万の人々の為にあなた達数十人を犠牲にすることは緊急避難であり許されると思います。それ以外に方法がないのです。死にたくなければ戦うことです。」
「それは脅しだろ!」
「そうです、脅迫ですよ。戦うか死ぬか二者択一です。死にたくなければ戦うことです。戦いなさい。魔王を倒しなさい。あなた達にはスキルが授けられているでしょう。そのスキルで魔王は倒せます。」
カトリーヌの目からは有無を言わせぬ迫力が溢れ出ている。それは精神的に支配しようと魔法を使っていた為であった。カトリーヌにとって勇者は強いが最初に『服従のカース』を使い呪いをかければ抵抗できなくなる。その為下手に出ることもない。
「戦っても死ぬんだろ?」
「戦えば活路が見いだせますよ。戦わなければ死ぬだけです。ただし・・」
「ただし?」
「半数以上スキルのないものが偶然にもこの召喚に紛れ込んでしまったようです。その方たちは解放します。お好きに生きてください。」
「それは、この国で生きていけということだよな。」
「そうです。死にたくなければこの国で生きていくしかありませんね。暫くは困らない程度の金銭と身分証は差し上げます。」
「で、誰が能力がないんだよ。」
「まずは、先程から文句ばかり言っているあなたは無能だということです。」
「やった。」
「ここに残す者には贅沢な生活、戦後の豊かな暮らしとこの国での地位もお約束します。」
そして、次に開放される者の名が告げられた。
「次は、鑑昴。あなたには何のスキルもありません。そんな者は初めてです。戦いには全く役立ちません。この国で生きていくのも大変だと思いますが頑張って精々生き残ってください。」
開放されたと昴は安堵を覚えた。しかし、スキルは何かの能力だとは思うが、スキルというもを持たないことが少々不安ではあった。
生徒会長の鑑澪を見ると目が合った。助けを求めるような不安そうな顔をしている。
ここで、澪も開放されれば一緒にこの国で生きていくことも出来るだろうか。一抹の不安はあるものの微かな希望も生まれる。しかし、その希望が叶うことはなかった。
次々に名前が呼ばれていき澪はここに残されることになったのだ。
結局残される者五名。開放される者十五名だった。
開放される者には多いのか少ないのか分からない額の金銭が渡される。準備があるからと数時間待たされ茶色の貫頭衣のような服を着た文官と思われるものが数人やって来て、お金を渡すから並べと愛想無く告げる。
近くの者から並び列ができる。その後、文官は一人づつお金を渡していく。
昴の順番が来て袋に入った金銭が手渡される。大きさから言えば硬貨だろうと予想される。その瞬間昴は敢えて文官の手に触れた。
その刹那、流れ込んで来た文官の記憶を昴は読んだ。
――――――――――――――――――――
「姫、残りの屑達は如何なされますか。」
「召喚の事実が隣国に漏れるのは不味い。」
「そうですな。こちらが戦争の準備をしていることが知られてしまいますぞ。」
「勇者召喚の目的が魔王討伐などと言うのは真っ赤な嘘で隣国との戦争の道具に過ぎない事は知っておろう。」
「はい、当然です。魔王などいませんからな。」
「そうだ。召喚された異世界の者は魔王討伐と言えば喜んで戦うとの話しだからな。だから、魔王討伐と言う大義名分を掲げるだけで実際は隣国と戦わせる。戦略的にも召喚は極秘でなければならない。他の屑達は今晩殺してしまえ。お金は回収しなさい。」
「御意。」
――――――――――――――――――――
一瞬だったが、なぜかいつも以上の情報量だった。映像だけではなく会話まで聞こえてきた。理由は不明だが、力が強くなったのか、残留思念が強烈だったのかのどちらかだろが、偶々というやつだなと昴は安直に考えていた。
それよりも城を出れたら即刻逃亡する必要性を感じた。逃げなければ殺されてしまう。
その後、全員に金銭が配り渡り、皆が兵士に先導され建物の外へと連れ出された。
外から見るとその建物は巨大な西洋風のお城で、白を基調とした石で作られている城だ。その建物の周囲を高さが5メートル位の城壁が囲んでいてその一角に設けられた門の前で昴達は開放された。
門の前では先刻、第二王女カトリーヌに楯突いていた三十路前の男が皆に向かい話を始めている。
「皆、協力して生きていくぞ。まずはこの城下町の宿に泊まり今後の計画を練るぞ。俺について来い。他のクラスの者は俺のことを知らない者もいると思うが俺の名前は
昴は、この男は学校の先生かと思ったが見たことがなかった。
「学校の先生ですか?」
「そうだ。俺を見たことはないか?そういう者もいる。担当の授業がなければな。」
「そうですね。なんとなく思い出しました。」
実際、昴は彼を見たことがなかった。しかし、何か強制するようなものを感じてその意見に乗っかることにした。
「よし、出発だ。俺について来い。」
皆、先生の号令で出発した。
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