第34話独立都市国家ブルンセルク
「個人優勝すれば何かもらえるのか?」
「そうだな、基本的には強者ランキングの上昇、白金貨一枚、宮廷魔術師または近衛騎士への推薦状、そして一代貴族または白金貨一枚、そして我が父上である皇帝陛下へ一つだけ望みを申す事ができる権利、この三つの中から選ぶことが出来るのだっ!!もちろん我が父上に望みを申した所で無理なものは無理である為出来る範囲内となってしまうのだが、この場合は『娘さんをください』というのは勿論全然大丈夫である為安心して我が父上に申してくれて構わないぞっ、旦那様っ!!」
そんな事をレミリアは宣ったあと妄想の世界へと旅立ち、自らの妄想を垂れ流すだけのオーディオ機器と化しまう。
思わず可哀そうな目で見てしまうのだが、本人がそれで幸せであるのならば、他人に迷惑をかけてさえいなければ、それはある意味で幸せな人生なのかもしれないと思ってしまう。
俺に『手筒花火ですかねっ!?』と突っ込みたくなるレベルで火の粉がかかりまくっているので今もなお幸せな表情で妄想をしているレミリアを小突いて現実世界へと帰してあげる。
涙目で「痛いぞ旦那様っ」と抗議の目を向けてくるのだが、あくまでも他人に迷惑をかけていなければの話なので他人どころか俺自身に迷惑がかかるのであれば止めてしかるべきであると俺は思う。
そして俺はレミリアのその話を聞きますます、盛り上がっているクラスメイト達には悪いのだが、わざとサレンダーして負けようと強く思うのであった。
◆
そんなこんなであれから一週間が経過しており、現在は帝国、王国、聖教国、この三国がちょうど交わる箇所にある帝都程の面積の独立都市国家、ブルンセルクへと来ていた。
ちなみにこのブルンセルクであるのだが独立とは言うものの都市を機能させる程の財や収入源になりうる物は無い為帝国、王国、聖教国の三国にて実質運営している都市でもある。
そのブルンセルクの話を聞くだけで戦争という二文字が容易に想像できるのだから今まで数百年の歴史があると聞き更に驚く。
「そうですねー、例えば王国がこの都市を裏でトップを操作したり攻め込んだり様々な方法で手に入れたとして、そうなった場合は聖教国と帝国が大義名分をもって王国を攻める事が出来てしまうんですよね。確かに危うい構造ではありますが絶妙な均衡でもってある意味で一番安全な場所かもしれませんね」
と嬉しそうにシエルが教えてくれる。
流石冒険者ギルドの受付嬢様である。
ここだけ切り取ってみれば実にいい女なのでどうしてこうも残念な中身なのか本当に勿体ないと思ってしまうのは仕方のない事であろう。
「予想屋だよー予想屋っ!一枚銅貨三枚!今が買い時残り僅かっ!」
「何だあれ?今回の大会で賭博でもやっているのか?」
「懐かしいですぅー。私の時もやってたんですけど実は違法なんですよね。ですが数少ない市民の娯楽の一つとして定着してしまっているのと裏にお役人の天下りがいらっしゃるとかで、あの赤い三角マークを持っている場合は合法、そうでない場合は違法という暗黙の了承がありますね。後は景品はお金では無いのですけど割板という景品を裏路地にある、関係ない第三者である骨董商に持っていくと換金出来る仕組みですので実際は賭博ではないという仕組みですねー」
「なるほどなー、何処の世界もやる事は同じって訳か」
大義名分で賭博は違法とし他社強豪が出る事を防ぎその甘い蜜は独占して頂く………何とも御偉いさんが思いつきそうな話である。
シエルの、独立都市ブリンセルクについて説明してもらっていると今大会のレートと予想を書いた競馬新聞ならぬ武闘大会新聞の様な物を売っている所に出会したため、その事を口にすると今度はヒルデガルドが答えてくれた後、褒めて欲しい犬の様な、期待の籠もった表情で見つめて来るのでその頭を少し乱暴に撫でてあげると実に幸せそうな表情で目を細める。
またったく、この部分だけ見ればヒルデガルドも普通に魅力的な女性に見えてしまうのが達が悪い。
「………」
「どうした?シエル………分かった分かった、これで良いか?」
「さすがダーリンですねっ以心伝心ですっ!ラブラブですっ!」
そんな事を思っていると不意に袖をシエルにくいくいと引っ張られた為、顔を向けると「私、撫でられてないんだけど?」という表情で抗議の視線を向けて来るシエルがいた為こちらも乱暴に撫でてやるとヒルデガルド同様幸せそうな表情で的外れな事を宣いだす。
「ち、ちなみに私は去年は婿探しに来ていたぞっ!結局見つからなかった為落胆したのだが、そのお陰で旦那様と出会えたのだから今では見つからなくて良かったと思っているぞっ!」
そして頭を撫でられた二人を見て対抗心が芽生えたのかレミリアがのかって来るのだが為になる話ではなくて自分語りであった為そこはかとなく無視を決め込む。
何でもかんでも言いなりになって餌を与えてしまうのは良くないからな。
因みに去年は個人一位がレミリアで二位が生徒会長様らしい。
むしろそれで総合優勝を逃すってどうなのか?と思うものの団体戦でレミリアと生徒会長の技が強すぎてお互いに干渉し打ち消し合い、その余波で仲間が倒れるという見るも無残な一回戦負けであったらしい。
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