第17話人前で異性の髪を触るという行為

エリザ先生は俺の肩を掴み、身体を近づけて熱のこもった瞳で俺を見つめてくる。

なんなら女性特有のふくよかな箇所が二つ、指摘しようものなら「当ててるのよ」と返ってきそうな程俺の胸板に当たっている。

しかし、それでコロッとやられてまんまとこのマッドサイエンティストのいる領域にゴキブリホイホイへ向かうゴキブリの如く向かうのは童貞又は何も考えてない自分の欲望に忠実な奴ぐらいであろう。


「わかりましたから。気が向いた時に行きますから一度離れてください」

「絶対よ?必ず来るのよ?待ってるわねっ!」


エリザ先生は意外にも常識は備わっているらしく名残惜しそうに俺から離れていくとさっきまでの他人に見せられない表情や態度がガラリと変わり、魔力測定の続きへと戻るのであった。







「御主人様っ!魔力測定の結果はどうでしたっ!?」

「だっ、旦那様の事である。きっと素晴らしい数値を叩き出しているに決まっておろう。少しは落ち着いたらどうであるか?」


魔力測定も終わり教師へ戻るとヒルデガルドが俺の魔力測定の結果を聞いてくる。

レミリアはさも興味なさげのような態度をとってはいるものの興味津々である事がそのソワソワした態度から手に取るように分かってしまうのだがそこを指摘すると面倒くさそうな為気づいていないふりをする。


「因みにレミリアはどの位だったんだ?」

「私か?私は五千六百であったぞっ!去年よりも三百程上がっておった」


 何だろう、脳筋だと思っていた相手が実は筋肉だけではなく絡めても得意だと知った時の若干の腹立たしさが俺を襲う。


「いふぁいっ!いふぁいぞ!」


 その感情が嫉妬から来る腹立たしさという事を理解している為余計に腹が立つというものである。

 その為レミリアは少しの間その両頬を俺に差し出しつねられても文句を言われる筋合いは無いのである。


 しかしながらレミリアの頬が思っていた以上に柔らかく、また吸いつくような若さゆえの肌質により頬から指を離す事が出来ない。

 じゃじゃ馬娘の代表格であるレミリアの頬ごときになんということである。

 たるんでいる証拠ではないだろうか?


 そな事を思っている間も俺はレミリアの両頬を軽くつねり、時にぷにぷにとその柔らかさを堪能しているのだが、両頬をつねるとゆう事は両手を使わないとできない事でありそうなれば俺とレミリアの顔は自然と近くにある訳で。


 その事に気づかないようにしてはいたのだが、レミリアの顔が徐々に真っ赤に染まっていき、つねられる事によりレミリアの口から時たま喘ぎ声にも似た吐息が出始めるだけでなくその真っ赤で大きな瞳は濡れており、そんな瞳で見つめられ俺の理性がガリガリと削られていく音が頭の中で響き渡る。

 

「そ、そんな羨ましい事をレミリアだけにするのはダメなんですよっ!ペットである私にも同様にボディータッチからの甘美なる痛みを頂きたいですっ!」


 よくよく見ればレミリアは可愛いのではないか?しかしまつ毛長いな。等と思っていたその時ヒルデガルドがよその犬を構っている飼い主に嫉妬した犬のように俺とレミリアとの間にちょっと人様の前で言うのはどうなのと思う言葉を叫びながら入って来る。

 いつもであればその言葉の内容と要求に引くだけであるのだが今この時だけはありがたいと思ってしまう。


「ちっ、あと少しだったのに。駄犬の奴め」


 今何か聞こえた気がしたのだが気のせいであろう。


「まあ後で時間があればな」

「はいっ!約束ですからねっ絶対ですよっ!」


 その『後』というのを具体的に提示していない為例えしぬ間際にやろうとも嘘を吐いた事にはならない。

 そんな詐欺師のような事を考えていたのだがまさに純粋無垢のような疑う事を知らないようなキラキラとした犬のような表情と共にとても嬉しそうな声音による良い返事を聞き俺の良心がそこはかとなく痛む為話題を戻す事にする。


「そんな事よりもヒルデガルドは今の魔力量はどの程度か分かるのか?」

「そうですねぇ、私は半年前にギルドで測った時は確か四千八百でしたっ!」


 そう言うとヒルデガルドは俺の前にズイッと前のめりになり両の頬を差し出す。

 その表情はご褒美を待つ犬そのものである。


「はっはっはっ」

「…………」

「はっはっはっ」

「…………」

「はっはっはっ」

「分かったよ分かった。俺の負けだ」

「はうぅっ!幸せが溢れ出し過ぎて溺れそうですぅっ!!はふぅんっ!」


 純粋無垢な瞳で忠犬の様にねだる訳でもなく只々期待に満ちた表情で待っているヒルデガルドを見て犬派の俺は我慢も虚しくその両頬をつねる。

 つねった上にわしゃわしゃとついでに頭を少し乱暴に撫でてやるとつねられて幸せ一杯といった表情がふにゃんととろけてしまいとてもじゃないが人様に見せられない表情をしだし、とろけた声を出す。


「まったく、ちとヒルデガルドに対して甘やかし過ぎではないのか旦那様よ。あとで私にも頭を撫でるのだぞっ!!」


 そんな俺とヒルデガルドを見たレミリアがため息と共にそんな事を言うのだが結局のところレミリアも頭を撫でて欲しいみたいである。

 一人撫でるも二人撫でるも大差ないし後に回すのはそれはそれで面倒だという訳でレミリアもついでに頭を撫でてあげる。

 ヒルデガルドはサラサラとした艶のある感触をしておりレミリアはふわふわと柔らかな、両者違う髪質を堪能するのだが、人前で異性の髪を触るという行為自体が恥ずかしく俺の羞恥心がそろそろ根を上げてしまいそうである。


「………っ!?ふ、不意打ちとは卑怯なっ………し、しかし…これはこれで良いものだな」

「ですよねっ!!こう、頭の中が溶けてしまいそうになってしまいますよねぇー」

「はいもうお終いだお終い」


 二人で盛り上がっている時に悪いのだが俺の羞恥心ゲージがレッドゾーンに突入したのでヒルデガルドとレミリアの頭から手を離すと「あっ」と名残惜しそうな声が両者から聴こえてくる。


「「………」」

「そんな目で見てもダメだぞ。もう十分堪能しただろう」

「「「「………」」」」

「………は?」

「「「「「「………」」」」」」


 物欲しそうな目線が明らかに増えてやがる。

 何を言っているか分からねぇと思うが俺も何を言っているのか分からない。


 そして俺は無心になり俺の前にいつのまにか異性によるクラスメイトの列が出来上がっており、その一人一人を撫でて、希望者には頬もつねってあげるのであった。

 因みにレミリアとヒルデガルドはそうするのが当たり前のように列に並んでいた。





 シエルは現在断腸の思いでギルドにいた。

 何せシエルにとって初めての彼氏であり一時たりとも離れたくないのである。

 その為なら仕事であるギルドですら休む事も厭わないし、休むという事に仲のいい同僚には多少なりとも罪悪感は感じるもののギルドという職場に対しては罪悪感などあろうはずも無い。


 そんなシエルは現在ギルド内、その最奥にある個室にてギルドマスター、騎士団長、皇帝殿下のそば付き件秘書、その他錚々たるメンバー計七名程と重要な会議を行っていた。

 そしてこの会議の重要参考人でもあるシエルはいつも通りの勤務内容ならいざ知らず流石にこの会議までもサボるわけにもいかず、渋々、本当に渋々参加しているのである。

 そのシエルの頭の中はいかにしてこのくだらない会議を一刻も早く終わらしてクロードの所へ出向くかという事しか考えていない。

 その思考は髪の毛先をクルクルと指先で遊ぶシエルの行動に現れていた。


「それでシエルさんは今回の件についてどう思いますか?」

「知りませーん」

「グヌッ………で、ではクロードさんの件についてはどう思いますか?本当にあのレミリア様よりお強いのでしょうか?」


 はっきり言ってクロードの事以外は興味もない為思わず適当に返事してしまう。

 その返事に帝国に三チームしかいない冒険者ランクS S S黒百合のリーダーであるシャルルが怒りに声を上げそうになるのを寸前の所で飲み込むと今度はダーリンの事について聞いてくる。

 しかし、乙女薔薇騎士団やら黒百合やら女性のグループはこうも花の名前が多いのか、もう少し個性を出した方が良いのでは?と私は思う。

 私ならそんなありきたりな名前などではなく【クロード_シエル@V vラブvV】というイカす名前にするのに。


「ダーリンの事?ダーリンは私の事が大好きでぇ、私もダーリンの事が大好き。それは即ち両想いって事ですっ!強さとか関係ありませんっ!何をバカな事を言っているんですかっ!例えダーリンが弱くたって私の愛は変わりません!永久に不変ですっ!!」

「そんな事を言ってるんじゃ無いわこの色ボケ女ぁぁっ!!」

「落ち着けっ!!落ち着けってシャルルっ!!お前らもぼけっと見てないでシャルルを止めろっ!!死にたいのかっ!!」


 急にキレ出し暴れ出そうとし出すシャルルを冒険者ランクS S炎の一撃のリーダー、ゾベルクは羽交い締めにすると他のメンバー達にシャルルを抑えるよう叫ぶ。


「裏切りやがって!!私だって恋人も欲しいしイチャイチャしたいんだよこん畜生っ!!自分だけ抜け駆けしやがってっ!」


 シャルルからダーリンの話を振ってきたにも関わらずそのダーリンの話をしたらなんでこんなにもキレられるのか意味が分からない。

 理不尽にも程がある。

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