第15話フレール家の数ある掟
そしてわたくしは優しく撫でてくれるクロード様によりわたくしは張り詰めた緊張や貴族としてのプライドやその他もろもろ等一気に崩れ去ると、クロード様の胸にしがみ付き声を上げて泣いてしまった。
「ほら、俺が悪かったから泣きやんでくれって」
「こ、このフレール家の長女たるわたくしが、泣いてなどおりませんわ」
そう強がってみるもわたくしの目からは涙が止めどなく溢れ出し、みっともなくも嗚咽や鼻水まで出してしまう始末である。
この現状にクロード様には申し訳ないのだけれど、わたくしの顔をクロード様の胸に埋めて出来るだけ今のわたくしの悲惨な現状を誰にも見られない様にする。
そんなわたくしの涙と鼻水で衣服を濡らされたクロード様は怒る事も嫌がる素振りも、わたくしが明らかに泣いている事を指摘する事もなく「そうだな。マリアは泣いていない」と言いながらわたくしの頭を優しく撫で続けてくれている。
その瞬間、わたくしの心臓は一際大きく鼓動し、顔は真っ赤に染まって行くのが分かってしまう。
そして何故赤くなってしまうのか、自分自身嫌と言う程解ってしまう。
わたくしにとってクロード様は正に大袈裟でも何でもなくまごう事なき命の恩人なのである。
わたくしのピンチに颯爽と現れて華麗に助けてくれたのである。
出会いは最悪であろうにも関わらずである。
今この瞬間わたくしの鼓動が大きく脈打つ理由、顔が一気に赤らむ理解をわたくし自身が解らない筈がない。
そしてついにわたくしは我慢出来ず獣の耳と尻尾までさらけ出してしまうのであった。
咄嗟に尻尾を丸めて両手で耳を押さえたのだがクロード様にはバッチリ見られたであろう。
「み、見ましたの?」
「マ、マリアに似合う可愛い耳と尻尾だと思うよ」
「うぅ〜〜〜〜っ!!」
その瞬間、このやり取りを理解している周囲の者達が祝福の歓声と拍手を上げわたくしとクロード様へ祝いの言葉を各々投げ掛ける。
おそらく、クロード様が貴族の仕来りやルールに疎く、またわたくしの家名であるフレール家すら知らないという事を周囲の者達は知らない事をわたくしは知っている。
この瞬間、わたくしは自分の欲望に従ってクロード様を裏切ってしまう行動をとってしまう覚悟をするも後悔は消してしない。
だってわたくしをこんな気持ちにしたのはクロード様が悪いのですから。
「あ、ありがとうございますクロード様。貴方様の言葉をわたくしは受け入れますわ」
しかしいざその言葉を口にするとなると万が一の言を考えてしまい唇は震えて喉は乾くがそれでもわたくしは言い切る。
そしてわたくしの言葉に周囲は一気に静まり、周囲から伝わって来る緊張感を感じ取りわたくしは更に緊張してしまう。
周囲の反応でクロード様が不信がらないか、レミリア様がその権力を翳して無効にしてしまわないか、などとぐるぐると悪い方悪い方へと考えてしまう。
「お、おう。それは良かった」
次の瞬間先程とは比べ物にならないくらいの、割れんばかりの歓声と拍手、そして祝福の言葉がわたくしとクロード様を包むのであった。
◆
当初クロード様はやはりというか何とういか、獣族であるフレール家の数ある掟の中に『異性に獣の姿を見せる事は求婚と同義である』というもがある事を知らなかったみたいである。
確かにあの時は色々な事が一気に起こりすぎて自分の感情をコントロール出来なくなった故の事故とも言えるかも知れない。
もちろん不慮の事故もしくは意図せずして見られた場合ならば無効となるのだが、確かにきっかけ自体は不慮の事故と言えなくもなく意図せず耳と尻尾を出してしまった事は間違いがないのであるが、その後の行動は自分の意思を持って行ったのである。
当然それは自分の意思で見せたという事となり、更にあの場には数多の貴族の目がある中でのフレール家伝統に則った求婚、そして婚約と至ったのである。
その事をあの後レミリア様により知らされたクロード様は「なんでこうなった………」と項垂れていたのだがフレール家の名において逃がすつもりは毛頭無いため早くこの現状を受け入れて諦めて欲しい限りである。
ちなみにその後クロード様はレミリア様はどう思っているのかと聞いていたのだが「これで旦那様は私だけでなく公爵家の令嬢とも婚約した事となる。それはある意味でクロード様のハクが付き、より一層私の婚約を反対し難くなるという事でもあるからなっ!全然オッケーだぞっ!むしろ良くやったと褒めてやりたいほどだなっ!」という言葉を聞き更に項垂れてしまわれる結果となっていた。
さすが我が国、わたくしフレール家の仕える王の娘である。
そんなこんなでわたしは晴れて婚約者となったクロード様へ我が領土の問題でありルイスとアンネが残していった問題を解決して頂くようお願いしていた。
それから一週間後、我がフレール家の領土でもあり問題の土地でもある王国との国境付近の草原に到着した為一度クロード様そしてレミリア様と共に馬車を降りて問題の草原を見渡してみる。
「現状の報告を聞かせてくださいませ」
「今現在の現状で御座いますがあれから冒険者ランクAのパーティー、飛竜の翼、黒狼の宴、冒険者ランクBのパーティー、明日の夜明け、炎斧の一撃、青の意志の方が、そして帝国からフレール家領内に滞在しておりました乙女薔薇騎士団が派遣されまして何とか持ちこたえている状態で御座います」
「了解致しましたわ。今まで我が領土を守って頂きました事感謝致しますわ」
今現在わたくしが不在の間にこの問題を任せておいた信頼出来る従者に現状を聞いてみたところ、どうやらあの時に我が領土のギルドへ送ったギルド通信により迅速にクエスト募集がかけられて五組もの高ランク冒険者パーティーと帝国貴族令嬢により作られた乙女薔薇騎士団が派遣されているみたいである。
緊急のクエストとはいえこの短時間もの間に五組もの高ランク冒険者パーティーに加えて乙女薔薇騎士団まで来て下さった事は不幸中の幸いと言えよう。
「マリア様、長旅ご苦労様でありますっ!!」
「ありがとうございますですわ。ですが労いの言葉はまだ早くてよ。まずは目先の問題である黒魔石とそれにより発生した魔獣共はまだ何も解決しておりませんもの」
どの様に目の前の問題を解決するべきか考え始めた時、白と赤で作られた一見するとドレスの様にも見える鎧に身を包んだ見覚えのある凛々しい女性達が綺麗な整列をしてわたくしの前に現れた後、その中長い金髪をポニーテールにした女性、この整列している凛々しい女性達の団長であるニッサが敬礼と共に労いの言葉をかけてくれる。
この凛々しい女性達が貴族の令嬢だけで結成された乙女薔薇騎士団である。
基本的には政略結婚の日の目が薄い男爵家などの下級貴族の娘や三女、四女と言った娘達が中心で作られているのだが中には父親や兄弟を騎士に持つ脳筋娘………ではなくて、正義感のとてもお強い娘方達もおられる頼もしい騎士団の一つである。
女性と思って舐めていると貴族故の魔力量の多さや小さい頃より教育された剣術や槍術にまんまとやられてしまう程である。
その中でもニッサは防衛省を取り仕切る父親に近衛騎士団の団長である長男、参謀本部を仕切る次男、元乙女薔薇騎士団の団長であった母親という脳筋………ではなくて、とても正義感の強い家庭に生まれ小さき頃より人形の代わりに槍をねだるというニッサ本人もとても正義感の強い女性としてすくすくと育ち今や若干の十七歳の時に乙女薔薇騎士団の団長にまで上り詰めた女傑である。
ちなみに乙女薔薇騎士団の平均年齢とニッサが団長になったのが二年前であるという事は深く考えない方が良いだろう。
「とりあえず乙女薔薇騎士団の皆様、今回来て下さった事感謝いたしますわ」
「当然の事をしたまででありますっ!それと報告がありますっ!ここより東へ十キロ進んだ先に黒魔石を見つけたでありますっ!」
「出来しましたわっ!!それでは早速今から壊しに行きますわよっ!!」
「それなら既にレミリアが浄化してきたぞ」
「え?」
「ついでに見える範囲全ての魔獣も始末してきた」
「ええっ!?」
乙女薔薇騎士団が黒魔石を見つけてくれたという情報を聞き今からその場所へ向かい浄化しに行く算段を考えようとしていたその時、まるで近くの雑貨屋へお使いを済ましてきたかのような声音でクロード様が今回の問題である黒魔石だけではなく魔獣も退治し終えたと言うではないか。
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