第51話
この世界の住人は人間と魔物だけではない。森の民と呼ばれ独自の魔術を使うエルフやその始祖は龍だとされている竜人、高度な鍛冶や工芸技術を持つドワーフや人の身体に獣の特徴を併せ持つ獣人もこの世界の住人だ。
「と、とりあえず頭上げてくれないか?」
地面に平伏す獣人の相手にクロウが困惑しながら声をかると、その声に反応するように頭頂部から生えた長い耳がピンと立ち、尻の辺りにある丸い尻尾がピクリと動くと同時に獣人はガバッと勢いよく顔を上げた。この獣人と出会ったのはただの偶然。予定通り夜明けと共に行動を開始したクロウとカチュアが廃墟を後にし、舟を漕ぐカチュアを起こさない様に気を使いながら、慎重に進んでいた時まで遡る。
手入れのされていない森は視界も悪く、どこから襲われるか分からない。銃を片手に警戒しながら食料になりそうな物がないかと視線を巡らせるクロウの視界の隅で、茂みがガサリと音を立て揺れた。それを見逃さなかったクロウは食料探しを中断し、身体強化を発動させると注意深く辺りの様子を覗いながら寝息を立てているカチュアを揺すって起こす。
「んー……なにー……?」
恨めしそうな声を出すカチュアに対し、クロウは銃を人差し指代わりに自分の唇に当て声を出すなと伝えると、それを理解した彼女はコクコクと頷いた。そんな二人のやり取りを見ていたかのように小刻みに茂みが揺れる。カチュアが唾を飲み込む音を聞きながら銃口を音がした方へと向けるクロウ。
「カチュア、しっかり掴まってろよ?」
背中のカチュアが無言で頷いたのを確認すると先手を取るべくクロウは引き金を引き、牽制射撃と同時に駆け出す。背負ったカチュアを振り落とさないように全力ではないものの、その速度は十分に速い。
撃ちだされた光弾が木を掠める。それに驚いたのか、茂みから音の主らしい獣人がが飛び出した。相手が
「おおおお助けをーー!」
「と、とりあえず頭を上げてくれないか?」
慌てて振り返りクロウ達から距離を取るとその場に平伏し命乞いを始めた獣人にクロウが困惑しながら声をかると、その声に反応するように頭頂部から生えた長い耳がピンと立ち、尻の辺りにある丸い尻尾がピクリと動くと同時に兎の獣人はガバッと勢いよく顔を上げた。
「み、見逃していただけるんで?」
涙目で見上げてくる兎の獣人を警戒しながらクロウがチラリとカチュアの表情を盗み見るとまるで悪夢でも見ているかのような表情だった。無理もないだろう。可愛らしい耳と尻尾のある兎の獣人なのに相手がでっぷりと太り頭が禿げ上がった中年男性なのだから。
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