第49話

「もうわけわかんねぇな……」


 扉を抜けた先にあったのは焼け落ちたいくつもの家屋。かなりの時間が経っているのか、焼け跡には無数の蔦が絡まり伸びた草が地面を覆っていた。


「なんか、村って言うよりは隠れ里って感じだね……」


 背負ったカチュアの呟きに無言で頷き返し、クロウは視線を廃屋の先へと向けた。夜通し歩いてでもキャランベへと向かいたいところではあるが、ここがどこなのかも分からないうえに怪我人カチュアを背負ったまま、廃屋の先に見える鬱蒼とした木々の中を抜けるというのは無謀というものだろう。もっとも、仮にカチュアに怪我がなかったとしても、日が落ちかけている今からでは動きようがないのだが。


 カチュアを背負い草むらを進むクロウの背後で重い音が響いた。振り返ってみると洞窟内へと続く扉がゆっくりと動いている。


「クロウ! 閉まっちゃうよ!? 戻らないの!?」


 べちべちと頭を叩きながら訴えてくるカチュアの手を止める事の出来ないクロウは、頭を振って些細な抵抗を試みてみたもののそれは徒労に終わった。


「あんな気持ちわりいのがあるような場所で休みたいんなら、戻るけど? もしかしたら夜中に動き出すかもな?」


 草を丁寧に踏み倒しながら進んでいたおかげで扉まではそう離れていない。カチュアが言う様に洞窟内へと戻りそこで夜を明かすことも可能だが、クロウはそれは避けたかった。


「……ヤダ」


 案外怖がりらしいカチュアが小声で呟くと、我ながら意地の悪い言い方をしたなとほんの少し反省するクロウ。これ以上怖がらせないために、あえて「外も安全じゃないけどな」という言葉を飲み込み、黙々と草を踏み倒し比較的まともそうな廃屋への道を作っていく。


「……ねえ、クロウ? ボクの事置いていっても良いんだよ?」

「何バカな事言ってんだよ」

「だって! クロウ一人ならもっと早く動けるじゃん! 今だってボクが怪我しないように草を踏み倒してくれてるんでしょ!?」

「そんなんじゃねえよ。これは、アレだ。蛇とかいねえか確認しながら進んでるだけだ」

「何それ。言い訳がベタ過ぎるよ……」


 クロウの背にぴったりと身体をくっつけクスクスと笑いながらカチュアはクロウの耳元に口を近づける。


「ところで、クロウ?」

「んー?」

「さっきから当ててんだけど、どう?」

「……何を?」


 その言葉に激怒したカチュアの声が隠れ里に木霊するのだった。

 


 

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