第7話 その後
「この報告は事実なのかね?」
学長のマルコが報告書から視線を上げ、机の前で直立するアーヴィングを見ると、額に包帯を巻いたアーヴィングは無言で頷き返した。
「ふむ……」
伸びた顎鬚をしごきながら疑わしい視線を向けてくるマルコに、その反応は当然だろうなとアーヴィングは溜息を吐きだす。
報告を上げたアーヴィング自身、一体何が原因で今回の襲撃が起き、また終息したのかわかっていないのだから。
撤退を指示したアーヴィングは少しでも時間を稼ごうと単身激戦を繰り広げていた。
対峙していた狼型の魔物がアーヴィングの一瞬の隙をつき、喉を喰いちぎろうと飛び掛りアーヴィングも死を覚悟した瞬間だった。
魔物達の姿は忽然と消えうせ、戦場に残ったのは無傷のまま草を食んでいた馬達とアーヴィングのみ。
森から伸びていた光の柱もいつの間にか、消失していた。
こうして多数の負傷者は出したものの、死者を出す事無く学術院に帰還したのが昨日の出来事。
負傷者の手当てやら今回の件の責任の擦り付け合いやらで大騒ぎの中朝早くから呼び出され、自分とて負傷者なのだがとアーヴィングが恨みがましい視線を学長に向けてみる。
「まあとにかく、この件はワシの判断だけでどうこうできる事ではないな」
背もたれに身体を預けながら天井を仰ぎ見るマルコの言葉通り、今回の件はマルコからこの地方を治める領主へ、領主からこの国『ドーマン帝国』の皇帝へと報告があがっていく事になり、カルータスの森に調査隊が入ったのは事件から二週間近く過ぎた頃となった。
「それはさておき……」
天井へと視線を泳がせていたマルコがクマの出来た目をアーヴィングへと向ける。
「コレ、本気かね?」
「……ええ。このまま見過ごすわけにもいかないでしょう」
アーヴィングのその言葉に盛大な溜息を吐き出すとマルコは机の引き出しから判を取り出し一枚の書類に押印すると、スッと机の上を滑らせる。
「……あまり、無茶はせんようにな?」
アーヴィングは机の上の書類を手に取るとマルコの言葉に答えるように口の端を持ち上げ、踵を変えし部屋から出て行った。
閉められた扉を暫くジッと見つめていたマルコはおもむろに立ち上がると、部屋に備え付けられた本棚に向かった。
「……まさか、な」
そう一人ごちるとその膨大な数の蔵書の中から目当ての一冊の本を取り出した。
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