MOON CHILD
@coron1207
プロローグ
降りしきる雨の中、燃え盛る城から一頭の馬が飛び出した。
片手で手綱を握り、もう片方の腕で毛布に包まれた赤ん坊を抱きしめ、あちこちから上がる火の手と助けを求める住民達に心の中で詫びながら、馬を駆る老騎士は血が滲むほど唇を噛み締め、まるで地獄絵図のような市街地を走る。
建物の陰から出てきた下半身丸出しの敵兵の頭をすれ違いざまに蹴り飛ばし、行く手を阻んでいた兵士の一人を踏みつけ、市街地を抜けた老騎士は馬の嘶きと共に、宙に身体を投げ出された。
身体を丸め赤ん坊を強く抱きしめた彼が受身を取れるはずも無く、背中を強か打ちつけた。視界の隅に映るのはこちらに向かい馬で駆けて来る数人の敵兵の姿。このまま馬を見捨て逃走したとしても、人間が馬の速度以上に駆ける事など不可能、そう判断した彼は苦悶の表情を浮かべつつ、赤ん坊を抱いたまま剣を抜き身構える。
敵兵が放った矢にあわせ剣を振るう。一本目は叩き落せた。しかし二本目の矢が頬を掠る。さらには三本目の矢が老騎士の喉に突き刺さった瞬間、轟音と激しい稲光が辺りを包んだ。
「……バカな!」
轟音に驚いた馬を何とか落ち着かせ、横たわる老騎士に近づいた兵士の一人が叫んだ。彼はほんの一瞬、目を閉じただけ。それなのに赤ん坊の姿は消えていた。まるで最初からそこに赤ん坊など居なかったかのように。
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