第10話 真実の眼

 躍斗は携帯に撮られた少年の写真を見ながら街を歩いていた。

 真遊海の話では今一つどんな奴なのかは分からなかったが、現物を見ればすぐに分かるだろう。

 しかし見つけた後どうするのかは分からない。

 観測者として排除するのか?

 どうやって?

 力に目覚めたのなら放っておいても狭間に落ちる。

 躍斗自身、狭間に落とされるまでそう時間はかからなかった。

 現世にいるという事は躍斗と同じく狭間から戻ってきたか、落とせないほど強大な力を持っているのか。

 またはインチキ能力者かだ。

 躍斗の時は狭間から脱出した後レイコが現れて攻撃してきたが、観測者としてその代わりをやらなくてはならないのか?

 少年と戦う?

 躍斗は自分に出来る事を確認する。

 まずは単純に気配を消す事だ。写真や映像には写ってしまうが、音を立てたりなど多少の事では気付かれない。

 感情が高ぶったり、心が乱れたりすると見つかってしまう。一度認識されてしまうと再び気配を消す事はできない。相手の気を逸らすなどして意識から逃れる必要がある。

 そして最も頼りにしているアップデートホールト。

 自分の中心にある時空点の更新を停止し、それに合わせて周りの空間の更新速度を遅める。

 時間をゆっくりと進めるが、自分の動きは早くならないので要は反射神経がよくなる能力だ。

 時空間を歪める能力なので、歪めた時空が自然に元に戻るまで続けて使えないが、世界の矯正力から身を守るのになくてはならない。

 そしてコリジョンロック。

 当たり判定の壁を作る技。

 弾丸でも通さないが、自分の周りか触れている物にしか使えないし、動きに制限もある。

 その応用で自分の当たり判定を無くして壁を通り抜ける技がある。

 だが現実世界のプロテクトは強固で、狭間の中でないと使えない。

 他にも周囲にある物や気配を探る空間認識。

 更に集中すれば認識だけでなく、書き換える事ができる。

 人や物の情報を操作する――具体的な例を挙げるなら瞬間移動したり、相手の頭の中を覗いたりできるのだが、前にそれを使ったのは狭間との境界が希薄になった世界崩壊の直前。それが直接的な原因かどうかは分からないが、新しい宇宙では一度も使っていない。

 色々あり過ぎるようにも思えるが、躍斗の力の本質は「世界の理を見通す真実の眼」、狭間の死神レイコは「トゥルーアイ真実の眼」と呼んでいた。

 世界の仕組みを感覚で捉え、そこに介入する。

 ネットゲームで言う所の管理者権限に届いた力の事を言う。

 そして躍斗の力とはまた違うが、躍斗とは別の存在となった躍斗の影「レンダー・シャドウ」。

 元々は躍斗を狭間に落とす為に世界が躍斗と切り離したのだが、躍斗が狭間に堕ちた時に現世に取り残された影は、元の宿主に戻りたがっていた。

 影である以上本体がなくては存在できない。後は自然に消滅するだけだったのだが、それを利用して躍斗は現世に戻った。

 狭間から現世に戻る為には、現世から引っ張り出してもらわなければならない。

 躍斗は影が自分を現世に戻してくれると信じ、影はそれに応えた。

 そうして元の本体を取り戻した影は、今まで通り躍斗の影を演じ続けている。

 別な存在には違いないので、時折影と躍斗の動きは微妙にズレているのだが、周りが気が付くほどではない。

 躍斗が不意に動きを変えると影はついてこれないので、初めの頃はフェイントをかけてからかったりしたのだが、さすがにもう飽きた。

 別の個体だが、躍斗の影には違いないようで、躍斗の意思に反する事はしないし、心に思った通りに動いてもくれる。

 影だけあって形を変えて伸ばす事も出来て、よくそれで周囲の者を救ったりもした。

 触れていないと使えない力も、影が触れていれば使える。

 だがこれらの力は使う程に世界を敵に回す。

 不運な事故が降りかかり、常に命の危険が伴う。

 事あるごとに躍斗を世界から抹消しようとしてくる。

 初めはウザかったが、今ではもうすっかり慣れてしまって、危険も生活の一部となっている。

 その少年も、もしかしたらその域に達しているのかもしれない。

 同じ能力者と戦うのならば、気を引き締めて行かないと、などと考えながら街を歩いていた。

 しかし少年を探すと言ってもどうしたものか。

 住んでいるのは電車で数駅の場所だが家出中である以上居ないだろう。

 神無月と立ち回りをやった場所はそれほど離れてはいない。

 かと言ってまだその辺にいるとも思えない。

 躍斗には探偵の知識や技能はない。

 能力といえば、一度攫われた真遊海の匂いの残滓を追った事があった。

 空間認識の一つで、匂いの軌跡を目で見て追ったのだ。だがそれは真遊海が特徴のある香水を使っていたからでもあるし、躍斗は特別鼻がいいわけでもない。

 もう一度同じ事が出来るかどうかは分からない。

 そうこうしている内に目的の場所に辿り着く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る