第5話 病院へ

 躍斗は怪我人が搬送されたという病院へ足を向ける。

 怪我人に話を聞ければ何か分かるかと思ったのだが、病室に近づくにつれその可能性は薄いのだろうと思った。

 大部屋に詰め込まれているのは皆いかにもというようなチンピラばかり。

 一般人と呼ばれる者は皆無だった。

 搬送先を分けられているかもしれないと思い、「知り合いがいるかもしれないから」と看護師に聞いてみたが、現場から搬送されたのはここにいる者で全部だそうだ。

 重傷の者が別の病室にいるが、皆同じような風貌をしていると言う。

 どいつもこいつも意味もなく何かに悪態をついているだけで、まともな話を聞けそうにない。

 飛び交っている言葉を拾い集めて分かった事は、こいつらにも何があったのかよく分かっていないという事だった。

 明らかに記憶に混乱をきたしている者もいる。

 女と乱交紛いの事をしていただの、別のチームの奴と抗争になっただの、人がホームになだれ込みすぎてぐちゃぐちゃになっただの支離滅裂だ。

「ああ、ツイてねぇ。面白い見世物があるって言うから行っただけなのによぉ」

 入り口近くにいたからか比較的軽傷な男がぼやいたので躍斗は足を止めた。

 怪我の具合を確かめるように足をさする男の背後に気配を消したまま近づき「面白い見世物って?」と囁く。

「ヘンなオヤジを公開処刑にするって言うから行ったんだ。そしたら地震が起きてよぉ」

 危うく死ぬとこだった、と声の主を気にする様子もなく怪我をさすっている。

「そのオヤジはどうなった?」

「知らねぇよ。死んでんだろ。中にいたはずだからな」

 今時オヤジ狩りというやつか?

 そんな怪我人はいなかったようだが、こんな連中と一悶着やらかそうというくらいだ。こいつらと似たような風貌で、区別されていないのかもしれない。

 中心近くにいたのなら同じように重傷だろう。

 これが本当に狭間の力を使って起こした事故なら、当人は狭間に落とされたかもしれない。

 レイコらしき人影がちらっと見えた事も気になっていた。

 いずれにせよこんな事故は躍斗にも起こす事は出来ない。

 死者が出るほどの事故ではないし、一般人に被害がなかったのであればそれほど取り立てる事もないのかもしれない、と躍斗はその場を後にした。

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