第3話 能力者
「それで、どんな奴なんだ?」
改めて問う躍斗に、真遊海はバツが悪そうに顔を逸らす。
「いや、あの。わたしもよく知らないのよ」
露骨になんだそれは、という顔になる躍斗に、真遊海は弁明するように手を振る。
「ここの所部下に任せてたから。でも強そうな能力者がいるのは本当よ。他の組織も狙ってて今ややこしいのよね。携帯ある?」
「いや」
携帯は持った事がない。
掛ける相手も掛かってくる要件もない。ネットは家で出来るし、一時は引き籠っていた。
特に欲しいとも思っていない。
「じゃ、わたしの一個あげる」
と言ってピンクの携帯を渡す。
何気に渡されたので、自然に受け取ってしまった。
「キュオちゃんとの連絡用。他のアドレスは入ってないから」
妹の? と躍斗はまたイヤな事を思い出す。
キュオは躍斗が狭間に落ちた時に助けてくれた女の子だ。
歳は躍斗や真遊海と変わらないが、狭間を脱出した時に十歳位の外見になってしまった。
それ以来妹として躍斗と一緒に暮らしている。
真遊海は、躍斗をワナにはめる為にキュオに近づき、利用しようとした。
そしてその為にキュオは命を落としたのだ。
躍斗は世界の理を侵してキュオを助け、そして世界は崩壊した。
その一件は、真遊海がキュオに買い与えた携帯に掛かってきた一本の電話から始まっている。
正直持っているのも汚らわしいと思ってしまう。
躍斗の表情に気が付いた真遊海は、
「あー大丈夫よ。最近は男の子でもピンクの携帯なんて珍しくないって。むしろあなたにはよく似合ってる。うん」
と的外れな事を言うが、躍斗はやや渋い顔をしただけで大人しくポケットにしまう。
別の宇宙で起きた事を、目の前の真遊海にぶつけても仕方ない。
「明日は朝からいい?」
「いや、学校があるだろ」
真遊海は一瞬何を言われているのか分からない、というように固まると、少し引きつった顔で恐る恐る口を開く。
「学校行ってるの?」
「どっからどう見ても学生の出で立ちだと思うけど」
そうだけど……、と真遊海はまだ信じられないという顔だ。
確かに躍斗は一時不登校だったが、それはいじめに遭ったからとか、勉強について行けなかったからといった理由ではない。
そこに自分の求めるものはないし、得るものもないと思ったからだ。
だが観測者としての力を手に入れた今ではそんな事は些細な事に思えた。
別に登校する事自体は苦痛ではないし、教師や両親に余計な干渉をされるのも面倒くさい。
人間の行動を観察してるのだと思って見れば、学校にいる連中もテレビに出てくる芸人のように見えてきて、思うほど退屈しない。
メールなら時間が出来てから見ればいいのだからそれでいいだろう、という所で話を着ける。
「じゃ、わたしは帰って部下からの情報を集めとく。後で連絡するね。……そうだ。この先の地下鉄で落盤事故があったんだって。地震にしては範囲が狭くて不自然っていうから関係あるかも」
馴れ馴れしく手を振り、見かけた時とは打って変わって元気に走り去っていった。
躍斗は少し呆気にとられたように見送ったが、他にする事もないか、と地下鉄の方へと歩き出した。
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