前日譚 『新元号は・・・』

平政31年(欧暦1889年)4月30日。

アマテリア皇国の君主、第122代アマテルス陛下の30余年に及んだ在位は、この日執り行われた『退位』の儀式を以て、終わりを告げた。


その日の午後。

「―――新しい元号は、『玲和』であります。」

時の副首相は、記者会見の席で『玲和』と墨書された色紙を高々と掲げた。

このセンセーショナルな会見方法と、このころ主流になりつつあった『写真』と呼ばれる画像撮影技術は、戦争で疲弊した人々に、新時代の到来を強く意識させた。


翌日、玲和元年5月1日。

深夜0時を以て、平政の元号は玲和に改められ、先代アマテルスの第1皇女『百合の宮』殿下が、第123代アマテルスに即位した。

同日午前、皇都ヒノヤマトの御所において、即位の儀式が執り行われた。


「―――アマテリア皇国憲法、および皇室典範の定めるところにより、ここに皇位を継承致しました。」


厳粛な空気が漂う、御所の『松の間』。

その中央に拵えた儀式用の壇の上で、若干12歳の少女が、即位の宣誓文を読み上げていた。


「アマテリア皇国、およびアマテリア皇国臣民の統合の象徴として、憲法に則り、皇主アマテルスとしての務めを果たしていくことを、ここに誓う―――。」


和人特有の色の濃い黒で、艶のある、長い長い髪。

背丈よりも長い部分は、板張りの床に扇状に広がっている。

前髪は綺麗に揃え、頭の上には太陽をかたどった冠。

顔の凹凸は浅く、目はクリっとしている。

欧州人の血が国民の中に深く浸透している中にあって、純粋な皇統の血を受け継ぐ彼女の存在は、悠久の歴史と伝統、文化を有する皇国への帰属を、国民ひとりひとりに強く意識させた。


「ご即位を祝し、皇主アマテルス陛下、万歳!!!」

時の首相の掛け声とともに、御所内に万歳三唱の声が響いた。


鎖国と産業革命、そして北方の帝国との戦争を経て、人々が新しい時代に向いつつあった頃。


一人の美しい青年が辺境の港湾都市『リュウト』にたどり着いたのは、改元から2年後、玲和3年11月末のことであった―――――

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