物書きやめる詐欺発動

 私は一応、小説書きをしてる。プロってわけではないんだけど、頭に浮かんだ物語を何かの形にしたくて、webサイトで公開し始めて今に至る。この間開催されていたコンテストに応募したら、大賞は取れなかったけど我ながらそこそこいい結果だった。

 けど、今は物凄くこの物書きをやめたい。なんでってネタが降りてこない。世界が降りてこない。目の前にはゲレンデにも負けないくらいまっさらさらな原稿ページ。一文字も思い浮かんでこないのだ。

 ふと思いついた言葉の羅列をノートの端とか付箋に殴り書きして並べても、どれもこれもがちぐはぐで納得がいかなくて、全部ダストボックスへシュートしてる。ちなみに今日投げた紙くずボールはゴールの端に当たって床に虚しく落ちました。


「……」


 私が書いた物語。

 最初の頃はそれこそPVの数も毎日2桁あったりしたけど、完結した今じゃからきしだ。一日5PVもありゃ御の字。感想なんて来た日には昇天待った無しだ。……多分これ言葉遣い間違ってるな、うん。

 2時間ほど前に見たPV数が変動してないかな、と自分の小説の詳細をタップして、水晶体に虚しく映る「0」を見て、まぁこんなもんかとため息ひとつ。


 ……これ、誰も見てないのに私がwebに投げてる理由ってなんじゃろな?

 見て見て知って知って感想くださいほしいなってかまってちゃんになって、誰からも見向きもされなくて、それが嫌でやめようと思えばやめられるのに、なんでこう続けてるのかな。プロじゃないんだ、やめたって誰が損するわけでもなかろうに。でも指は「作品を削除する」ボタンには行かなくて。

 SNSで宣伝はするけど見向きもされず、反応もなにもない。虚しい。


 もしかして私ってばM気質があったり?

 いやいやいや、まさかー。……はぁ。


 世界が降りてこない。こんなことあまりなかったのに。過去の栄光、というには大仰かもしれないけど私にとってはそうなのだ。ともかくそれにしがみついてばかりで、こんな生産性のない行為にどうして今日も一喜一憂する毎日。趣味でやっているんだ、やめたらいいのにという声もあるのはわかる。


「はぁ……」


 湯船に浸かる。言ってなかったが今現在入浴中だ。今日も黒くならなかった原稿を目の前に、いい加減やめ時かな潮時かなって思う時に限って。


「あぁああ〜〜〜〜!!」


 どうして世界が降りてくるのか。

 どうして理不尽に面白そうな設定が浮かんでくるのか。

 どうして風呂に入ってるって時に限っていつもいつもやめたいって思っている時に限ってやめさせてたまるかって物語が思いついてしまうのか!! これだから! もう!!


 私の物書きやめたい詐欺は、もうしばらく続きそうだ。

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