君を守りたかった夢。君と幸せになりたかった夢。

小笠原 雪兎(ゆきと)

第1話/全3話

 君が死んだ夢を見た。いろいろな死に方だ。気づいた時にはもう遅い。

 手が伸びる位置。僕も君もどちらも助かる位置。そのまま抱きしめて一生守りたいと臭いセリフを言える位置。


 でも…。いつもその手が伸びる前に血飛沫が上がり、いつの間にかサイレンが聞こえる。


 事故は必ず血が出た。僕に見せつけるかのように…。

 恨む相手は…必ず死んでいた。飲酒運転だったり居眠りだったり…。それすらなかったりした。


 自然災害の時は疲労困憊した。


 誰も恨みたくない…。でも恨む相手は君しかいない…。そんな葛藤が…。頭の中で爆発して発狂する頃に目が覚める。


 夢の日にちは…必ず今日…。


 そして君が死ぬのは僕がいつも隣にいるから……僕が一緒にいなければいいと思うようになった…。


 君は僕の家を訪れる…。でも開けてはいけない。両親が居たときは部屋にこもった。

 部屋に入ろうとする。だから叫んだ。来るな、と。

 親がキレる。今度は会いたくない、と叫んだ。そこから先、両親は君を僕に会わせないようにした。

 きっと、君を傷付けないように、という思いからだ。単純に両親の君への気遣いが嬉しかった。


 両親は共働き、平日玄関の扉をあけるのは僕しかいない。

 君は平日訪ねてきて、ずっと何かを喋っていた。

 いや、何か、じゃなくてちゃんと僕に理解できる言葉を、だ。

 ただ、ドアにずるずるともたれ掛かってしゃがみ、君の声を聞くことしか出来なかった。


 何度も扉を開けて君を抱きしめたいと思った。ドアノブにも手が伸びた。ドアノブの音がするたびにドアを挟んで君が期待するような呼吸が聞こえる。


 でも結局開けられなくて君のがっかりしたため息が聞こえる。


 ドアに背を凭れかかって泣いた。これで伝わって欲しかった。会いたいのだと。君はわかってくれた。


 だから………。その日を境に君は来なくなった。


 よかったと思って泣いた。テッシュの無駄遣いになるので洗面所で泣いた。嬉し泣きだ。そう考えることにした。

 冷たい蛍光灯の光を反射する三面鏡をふと見上げる。


 そこには……悲しそうな顔をした一人の青年がいた。紛れもなく俺だった。

 その顔を見てまた泣いた。今度は……悲しい涙だった。それと共に…君と描きたかった夢も捨てた。











 ドアを開ける。快晴だった。雲ひとつない快晴。

 いつか君とよく一緒に遊んだ公園へ行った。


 君がそこにはいた。ベンチに座って楽しそうにアイスを舐めている。そして隣には…。見知らぬ男がいた……。

 君はアイスを交換して舐めていた。


 俺はそれをずっと眺めていた。君がふと顔を上げる。目線があった……。

 目は見開かれ、俺を食い入るように見つめる。

 足が動いた。一歩一歩と君の方へ。

 そして…同時に涙が頬に伝った…。


 そして…………。大通りに面したこの公園に…トラックが突っ込んできた。

 目に何度も焼き付いてしまった光景だ。手が届くところだ。



 俺は行動するだけでなく何年も言葉を発しなかったのに、喋ることができた。

 かすれててもそれで十分だ。



 君を守れて…よかった。



 君が俺を見下ろして涙を流す。頭が…痛いな…。

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