未三刻(PM2:00)

ひつじ三つ申し上げます」


 ぽん

 ぽん

 ぽん

 ぽん

 ぽん

 ぽん

 ぽん

 ぽん


 鼓の音でときを知らせます。


 こん

 こん

 こん


 鐘の音はこくを伝えます。


 今でいう午後2時でございます。鼓が8つ鳴りましたわね。「おやつ」の語源はここですのよ。この時間帯にいただくものを「おやつ」と呼ぶようになったのでございます。


「殿、お知らせしたいことがございます」

「ン? 何? 弦三郎」

「本日夕さまが花子さまの所にいらっしゃいます。ご一緒にお夕食を召し上がられます」

「マジ? 夕が来んの? 俺も行く」

「しかしながら殿、姫子さまのお誕生会の後に秋子さまのご挨拶もおありですが……」

「その後行く。俺も花ちゃんのとこで飯食うから弦三郎手配しておいて」

「承知いたしました」


 お誕生日会会場であるビレッジうぃんたーへ向かいながら源ちゃんズと予定の確認ですわね。花子さまは光る君の奥様でヴィレッジさまーにお住まいでございます。夕さまは光る君のご子息。実のお母さまはお亡くなりになられ、今は花子さまが母親代わりをなさっていらっしゃいます。


 そしてヴィレッジというのはこの大邸宅パレス六条を構成するお屋敷でございます。東京ドーム1.3個分とも言われる敷地を4つに分け、南東部分をヴィレッジすぷりんぐ、南西部分をヴィレッジおーたむ、北東部分をヴィレッジさまー、北西部分をヴィレッジうぃんたーと呼ぶお屋敷を配置し、それぞれに光る君プリンセスがいらっしゃいます。


「パパ!」

「姫ちゃん、お誕生日おめでとう。はいこれ、リクエストのお人形」

「わぁっ! パパどうもありがとう!」


 ゆらゆらゆれるブロンドの髪、セルロイドの青い瞳、シルクタフタのドレス。姫子さまはうっとりとフランス人形を抱きあげられます。


「光さん、ごきげんよう」

「明ちゃん、姫ちゃんを産んでくれてありがとう。これは明ちゃんに」

「まあ、素敵なリースね。お部屋に飾るわ」


 姫子さまのお母さまの明子さまもここヴィレッジうぃんたーにいらっしゃいます。そう、明子さま光る君の奥様でございます。


 え? さっき花子さまが奥様だって言ってたって?


 そうですよ。


 ええ? 明子さまも奥様??


 そうですわよ。


 いわゆる一夫多妻制ということでございます。


「パパ――! ケーキが届いたわ!」

「よっし。みんなで食べようか」


 甘味司パティシエ甘介がこの日の為に用意した3段のバースデーケーキでございます。姫子さまと光る君は仲良くケーキカットをして皆にふるまいます。


「姫ちゃん、プレゼントはお人形だけじゃないんだよ」


 ケーキを食べ終えた姫子さまに光る君は声をかけられます。そこで取り出したのは先ほどのフランス人形が着ていた衣装と同じドレスでございます。姫子さまのサイズに合わせてオーダーなさいました。


 姫子さまは大喜びでお着換えになられます。


「かわいいね。よく似合っているよ、姫ちゃん」

 光る君が目を細められます。

「本当ね。ウェディングドレスみたいね」

 明子さまがそうおっしゃられます。

「えええええ? いいっ?!」

 もたれかかっていた脇息きょうそく(ひじかけ)を倒して光る君は立ち上がられます。


「ダメっ! ウェディングなんて百年早いからねっ!」

「ドレスはよくても嫁には出さんぞ!」

 いつの時代も娘を想う男親の心境とはこういうものなのでしょうか。


 さて次のご予定の時間が近づいてまいりました。春宮妃である秋子さまに失礼があってはなりません。


「結婚はダメだからね!」

 光る君ひとりで盛り上がっていらっしゃいます。


「はい。お手紙」

 帰り際に明子さまが光る君にお手紙をお渡しになられます。


 秋子さまのヴィレッジおーたむに向かいながら光る君はお手紙を読まれます。


~ 春のに あなたと交わす カクテルに 映りこむのは おぼろな月影 ~


 明子さまからのお誘いでございますわね。

 おおっと予定がたてこんでまいりましたわよ。



 本日の光る君の動向のおさらいでございます。

 卯三刻(AM6:00) パレス六条にご帰還

 未三刻(PM2:00) ヴィレッジうぃんたーにて姫子さまのお誕生日会


 今後のご予定がこちら。

 酉一刻  ヴィレッジおーたむにて秋子さまにご挨拶

 夕刻   ヴィレッジさまーにて花子さまと夕さまのディナーに乱入

 夜    ヴィレッジうぃんたーにて明子さまとカクテルタイム

 時刻未定 管一に申し付けたなにやら秘密の予定

 

 

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