恋するオトコの1日 ~ no love no life ~

桜井今日子

卯三刻(AM6:00)

三つ申し上げます」


 ぽん

 ぽん

 ぽん

 ぽん

 ぽん

 ぽん


 鼓の音が6回聞こえてまいります。


 こん

 こん

 こん

 

 鐘が3回鳴らされます。


 卯の時刻が知らされます。こちらはとある大豪邸パレス六条でございます。


「殿、お帰りなさいませ。夜勤お疲れまでございました」

「桐山、ただいま。ウチで変わったことは?」

「何もございません。皆さま平安にお過ごしでいらっしゃいます」

「ん。じゃちょっと寝るわ。昼に起こして」

「かしこまりました」


 この屋敷の主、光る君がお帰りになられました。

 今は午前6時。宮中での夜勤明けのようでございますわね。

 屋敷を取り仕切っている家司けいし(執事)の桐山が出迎え、お部屋まで付き従います。


 光る君の居室『麒麟殿』の簀子縁すのこえん(外廊下)で別の従者に声をかけます。


「弦一郎」

「はい。これに」

「今日のスケジュールってどうなってる?」

「ご息女姫子さまのお誕生日会が午後にございます」

「そうだね。プレゼントの用意はできているよね?」

「もちろんでございます。その後お宿下がり実家に帰省中の春宮妃とうぐうひ秋子しゅうこさまへのご挨拶がございます」

「了解。あ、そうだ。管一いる?」


「はいっ! 御用ですか?」

 何やら小声で伝えていらっしゃいます。

「はいっ! よろこんで!」

 殿から依頼を受けた管一は跳ねるように駆けてゆきます。

 弦一郎も管一も光る君の従者で光る君私設管弦楽団おかかえバックバンドの一員でございます。略して『源ちゃんズ』と呼んでおります。管弦楽団なんて言っておりますが、光る君のお側用人、何でも屋でございます。総勢男子7名。


「「「お帰りなさいませ」」」

「ただいま」

朝餉あさげのお仕度が整っております」

「お手水ちょうずが先ですやろ」

「お着換えもなさらんと」

「わらび、つくし、こごみ。ありがと。俺さ、ちょっと寝たいんだ」

「「「ま!」」」

 3人のSKJ(三人官女)はゆるゆると寝所の支度を始めます。

 わらび、つくし、こごみ。3人は麒麟殿付きの女房です。正確には光る君のお世話係でございます。光る君が産まれた時からお世話をしておりますのでシニアのお姉さま方でございますわね。


「お疲れどしたなぁ」

「やっとお戻りやと思たらお休みなんどすなぁ」

「わたしらの仕事がおへんなぁ」


「あのさ、話してるとこ悪いんだけど、もう寝てもいいかな?」


「もちろんですわ」

「ささ、どうぞ」

「なんや、あふたぬーんてぃーとか言う舶来のお飲み物がございますがお飲みにならはります?」

「朝はかふぇおれでっしゃろ?」

「それなら最近からから取り寄せたたぴ……、ええっとなんてゆうたやろ、なんとかみるくてぃーもございますえ」

「「「ひかちゃま、どれになさいます?」」」


「……、その呼び方どうにかなんないかな」


「そうや、ひかちゃま、前にお願いしていた春宮とうぐう(皇太子)さまのサインっていただけました?」

「ほんま春宮さまはイケメンやわぁ」

「あの写真集眺めてるだけで寿命が延びるようやわぁ」

「サインがいただけたら寿命がもっと延びるわぁ」

「素敵やわぁ」


「あの、ホントに俺寝たいんだけど……」


「イケメンって言えば夕さまも素敵やなぁ」

「さすがひかちゃまのお子様やわ」

「お小さいころのひかちゃまにうりふたつ」

「素敵にならはったなぁ」

「初恋の姫君とご結婚なさらはって今や都イチの人気者さんやわ」


「……。おやすみ」


 女3人集まればかしましいなんて言いますけれど、彼女たちのおしゃべりも果てなく続くようでございますわね。


 わたくし申し遅れました。語り部のミタと申します。

 時は平安。

 所は京の都。

 季節は爛漫の春。

 三千年に一度と言われる超絶イケメン光る君の徒然なる1日をサクッとお届けいたしますわね。


 さて。


 本日のご予定でございます。


 ひつじ三刻  お嬢様姫子さまのお誕生日会

 とり三刻  ご養女春宮妃秋子さまにご挨拶

 時刻未定 管一に申し付けたなにやら秘密の予定

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