第7話
午前の授業中は地獄だった。眠さなんてどうでもいい。
限界が来たなら机に突っ伏して、誰かが起こしてくれるまで眠ればいいだけだ。
問題はチンポの方だった。熱っぽく湯だったドタマが、眠気の峠を超えたポイントで無意識に勃起が来た。
勃起が来ると当然昨夜の記憶がよみがえる。
そこから下半身にこびりついているはずの、自分のモノではない体液を意識できたら『いっちょ上がり』だ。
オナニーするまでは収まらない。
こんな時、いつもなら強力なインターセプターとして活躍してくれる
英語の副島(ハゲデブのオッサン)がクソの役にも立たない。
むしろ、この状態であの吐き出した直後のブラックブラックガムみたいなツラを見つめていると
うっかり最後までイッてしまった時のトラウマを予感させて非常に危険だ。
目を瞑ったまま、太ももで挟んで腰を揺らせばフィニッシュまで持っていけるんじゃないかと試してみたが
イイ感じに盛り上がったところで後始末の問題を思い出して絶望した。
そうか、だからリカ姉は風呂に入れと言ったのか。
さすがだ。ここまで先を読んでいたとはな。
2限目の休憩時間に、とうとう気が狂いそうになったので
腹が痛いフリをして前かがみのまま便所に駆け込んだ。
1組で助かった。教室と便所が最短距離にあるからだ。
シャツをつまんで、顔を埋めればリカ姉の香りがまだ残っているはず。
カツオとかいう男子中学生の酸っぱい体臭は気のせいだと言い聞かせ、楽勝で1本ヌイた。
「今頃何してんのかな」
俺のせいで股間の痛みに耐えているはずのリカ姉を思い出し
2回目が行けそうな気分が湧きあがったところで授業開始のチャイムがなった。殺すぞ義務教育。
「めっずらし!マケオが寝てる~。」
昼飯の弁当を食ったら純粋な眠気に襲われた。
俺の席は廊下側のド真ん中。今までは窓からの喧騒がやかましいのと
モラルを食い物の名前だと勘違いしているバカ四天王のちょっかいで昼休みに眠れたことがない。
だが、3限目の休憩時間にも言うことをきかない生意気な息子を速攻でしばき倒した俺の睡眠欲は
食欲を満たした直後ということもあって、三大欲求のコンプリートを目指して絶賛ストラグル中だった。
(くっせ…このニオイ…)
まどろみの中、どこかで嗅いだようなニオイがした。
食虫植物がハエを引き寄せている場面を連想させる「ぷーん」という擬音が聞こえてきそうな
効能としての『食欲減退効果』を堂々と明記できる用途不明の漢方薬みたいなニオイだ。
「朝から目が赤かったよね、やっぱ昨日も泣いたのかな。」
この声、このニオイ、マケオ、…樋口だ。窓の向こう、廊下にいるらしい。一人じゃないようだ。
楽しそうに誰かに話しかけている。
俺は起き上がる気になれないまま、頭のうわっツラでぷかぷか浮いている。
夢じゃない。肌の感覚でわかる。
「こいつまた喧嘩したのかな。ブッサイクに磨きがかかってさ。」
ただ、感情もない。情報を受け入れるだけのバケツ。
耳にだけ意識が貼りついているみたいに。
「面白いぐらいわかりやすく荒れてるよね、どう思う美紅?」
覚めた。最後の一言で覚醒した。背骨が縮んだような感覚。後ろ毛を引っ張られたような不快感。
動けなかった。動かなかった自分を褒めた。
廊下側に向いた顔を二人に見られている。樋口と美紅がいる。
「ねえ、美紅?」
唾が溜まる。半開きの口から垂れてしまう。イビキでも入れてみようか。いや、だめだ。
おまえらどこかに行ってくれ。
美紅、あとで好きなだけ奢ってやるから。
「ちょっとやめなよ、あかり。」
何も言うな、わかってる。樋口ウザいもんな。おまえの気苦労も理解してるよ。
話合わせてるだけだよな、だから何も言わずにどこかに行ってくれ。
そうだ、今度久しぶりにリカ姉と三人で話そうぜ。昔の話をしよう。
「起きちゃうよ」
適当に気の無い返事だけしてよ、たのむ、たのむ、美紅。
「マケオが起きちゃうよ。」
右目が空いた。滲んでボヤけた視界が晴れた。冷えた眼球がしみた。
見慣れた幼馴染の顔があった。
ずっと好きだった人の顔があった。
俺を見て驚いた美紅の顔があった。
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