幼馴染にフラれたら、もう一人の幼馴染が〇〇してくれた。

@chakoronia

第1話

今日、俺こと名倉克生(カツオ)は失恋をした。


相手は幼馴染の花山美紅。向かいの家の一人娘で、俺と同じ中学三年生。

背が低くくて可愛くて、肩まで伸びた前髪ぱっつんの黒髪が綺麗で、目が大きくて、鼻が小さくて、笑った顔が可愛くて、世界一カワイイ。

ほんと、可愛いって言葉が耳に入るたびに

俺の脳内が美紅で満たされるほど好きだった。

いつから好きだったかなんて知らん。

いつから美紅が俺の近くにいたのか思い出せないのと同じだ。


実のところ、振られたのは一か月前のことだ。

それだって失恋だったかもしれないが、今ほどダメージは無かった。

好きだと伝えたら、「ごめんね」って言われただけ。

「知ってたけどね」が後についてた気がしたが、聞き間違いかもしれない。


別にそれはよかった。だって俺が振られただけだから。よくないけど。


「好きだ」では伝わらなかったとか、告白のタイミングが悪かったとか

美紅が恋愛に目覚めてないって可能性だってあるから。

あと、俺への気持ちに気づいてないってヤツ。

よく女子と恋バナしてたけど話を合わせてただけなんだろうとか、トカゲのカカトとか。


次の日も、いつも通り学校に行ったし普通に会話ができた。

だから、何度だってやり直せる希望があった。


けど、今日。今日の夕方。さっき。え?さっきだっけ?窓の外が真っ暗だけど。

まぁいいや、俺は見た。


二週間前から美紅が付き合いだした、転校生のイケメン吉岡廉也と手を繋いで帰ってくるところを。


そもそも美紅に彼氏ができたこと自体さっき知った。

学校から帰って便所でウンコしてたら

回覧板持って来た、美紅のおばさんと母ちゃんが

大声でしゃべってるのが聞こえた。信じられなかった。

便所のドアの内側に貼られたカレンダーは5月だった。

4月じゃない。惜しいと思った。


だから家の前で待ち伏せしてた。最近は一緒に帰らないし、ウチに来ないし

学校で俺の友人たち(バカしかいない)に言われている

『カツオの嫁』扱いに本気で怒るようになった気がしてたけど。


実は吉岡と仲いいって聞いてたけど。

でも、確かめないと本当かどうかわからんだろ。


だって俺15年も一緒にいたんだしな。

吉岡が転校してきたの三年からだぞ。二か月もしない存在だ。


一方、俺15年。どうよ?信じる?フツー信じないよね。俺おかしくないよね。


そんで、見た。見ちまった。

並んで歩く二人。つないだ手と美紅の顔。

あんな顔見た事なかった。ナニアレ。誰?って思った。


赤いんだよ、オレンジじゃねえの。目が潤んでるし。吉岡の顔のぞき込んでるし。

夕日のせいじゃねえの。だって今日曇ってるから。


肩くっついてんの。

俺が美紅と歩いてる時を思い出すとさ、そもそも横に並んでねえの。

いつも、ちょっと前後にズレてんの。は?ナニアレ。どういうことなんだよ。

俺、美紅と最後に手を繋いで歩いたの小1ん時だぞ。



俺、思い返せば知ってたかも。わかってたかも。いろいろと。


俺への誕生日プレゼントを美紅のおばさんが買ってること。知ってた。

だってほぼ毎年QUOカードなんだもん。二千円分。

こっちは前の誕生日から一年がかりでちょっとずつ貯めた小遣いで

美紅のために悩みに悩んで誕生日プレゼント選んでるのに。


そういや、ちょっと前に美紅から「陰口言われて辛い」って相談されたから

クラスメイトの樋口(メス)を問い詰めたら、俺が暴走した事になって

美紅本人は、いつの間にか樋口と和解してたわ。俺へのフォローは無かった。

いつもの事だから気にしないふりしてたわ。


毎日「修行だから」つって、喜んで自転車の後ろに乗せて

友達の家に行く美紅の送り迎えやってた。

警察に注意されると自転車を蹴り降りて美紅だけ逃げた。

美紅は次の日も当たり前のように後ろに乗った。

好きな子との二人乗りが青春だと思ってた俺。


美紅の成績が下がったのは俺が勉強を上手く教えてないからで

美紅の体重が増えたのは俺が甘いものを奢るから。

美紅が遅刻したのは俺が起こさなかったから

美紅が機嫌悪いのは俺が楽しませないから。美紅が俺のせいでそんな美紅だったから。

美紅が磨く組ががみくがががが・・・



「嬉しかったなぁ」



ジジイみたいな声が漏れた。本音だった。

くたばりそうだった。ちなみに、いつの間にか自分の部屋にいた。


今まで。今の今まで、マジで俺の中では「俺のせいで美紅は~」が「俺次第で美紅は~」に変換されてたんだと思う。


んで、前後がひっくりかえって「美紅は俺次第」。


ずっと勘違いしてた。ずっとずっと気づかないふりしてた。

いや、ふりちゃうわ。ほんと気づいてなかったわ。


とにかく、わかった。なにもかも理解した。バカだったこと。

俺が死んだこと。バカなヤツだったこと。

15年生きて、死んだ俺がさっき産まれたこと。んで、そいつバカだったこと。


なんかそのへんに『さっき俺から抜け出た俺』がいる気がする。


そいつはバカで勘違い野郎で15年モノ。

そんで、抜け出たんだから俺と一切関係がない。

別人。他人。知らん人。元俺。



・・・だったらいいのにな。

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