夢を叶えたら、人類が滅んだ。
月灯
第1話 オープン。
都心から電車に乗り、30分。そこから歩いて5分。レンガ造りの古い喫茶店の前に、号泣している男が一人。
「ようやくだ。苦節12年と少し.....。小さい頃からの夢がようやく...俺は俺の理想の店を開けるんだーー!!」
早朝8時、通行人が多い中、本坂
喫茶店の中では1人の初老の男性が仁王立ちで樹を待ち構えていた。
「本坂さんですね」
「はい!俺が本坂です!この店の店主となる予定の本坂樹です!!」
樹の勢いに狼狽えながらも、
「えー、諸々の確認をさせてもらいます。私は山田と言います」
名乗るが早いか、本坂は山田の右手を両手で握り、
「山田さん!こんな素敵なお店を貸していただき本当にありがとうございます!ほんとうに感謝してもしきれません、俺は小さい頃から、夢見てたんです。そりゃこんなおっさんが」
「いえいえお気になさらず。では説明させてもらいますね」
山田は樹の言葉を遮り、握られた手を振りほどいた。それもそうである、樹は喫茶店の店主になるというから身なりこそ清潔感あるが、既に38歳。おっさんとおっさんが手を繋いでるなど、不気味すぎる。握られた手を見て少しの嫌悪感を抱きながらも、店内の器具を指さして説明を開始した。
「まず1階、注文通りカウンター席が6。カウンターとは反対側に、二人がけのテーブル席が2つ。2階には倉庫用の物置部屋。それから本坂さんの私用の部屋があります。間違いないですか?」
「はい!もう本当に素晴らしいです!想像通り!完璧です!!」
「では、あとはこちらの資料でそれぞれの使用方法などはご確認ください。それでは」
そそくさと山田は自身の荷物をまとめ始めた。
「分かりました!なにからなにまで揃えて頂き本当にありがとうございます!どうです山田さん!1杯コーヒーでも...。」
樹が振り向くと既に山田の姿はなく、ひとつの資料が置いてあるだけだった。
「...あれ?急いでたのかな?」
首を傾げ時計を見ると、時刻は8時半となっていた。
「よし、開店の準備しよう」
2階の物置部屋には山積みのダンボールが置かれていた。そのダンボールを持っては、1階に降りてを繰り返していた。
ダンボールの中身はカップにソーサー、コーヒーミルやふきん。紅茶用のポット、煎茶用の急須。茶葉にコーヒー豆。
それぞれ樹が考えた配置の元へと運び、1つずつ並べるたびに樹の口元は緩み、ニヤニヤとだらしのない顔へとなっていた。
全ての準備を終えた頃には、時刻は15時となっていた。
出来上がった店の内装を眺め、うんうんと満足気にうなずき玄関のCLOSEとなっている板を「open」へとするために、玄関へと1歩足を進めた途端、足元が突然光りだした。強烈な光に反射的に樹は目を閉じ、少し前に見たアニメを思い出していた。
『まずい...。この流れは目を開けると、異世界に飛ばされてるってやつだ。嫌だ。俺はようやく夢を叶えたってのに、俺は異世界になんか行きたくない!』
樹は光が収まったことを確認し、うっすら目を開け周囲を確認すると、
木製のもので統一された店内。カウンター席には椅子が6脚。カウンター席の反対には二人がけテーブル席が2つ。先程並べた、カップ、コーヒーミル、ポット、店内の全てがそのままの状態でそこにあった。
ただ一つを除いて。
それは出入り口を塞ぐように、立ちはだかる化け物の存在だった。
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