第74話 アリエルの決意

 



 ――エルサリオン王国 王城 中庭 アリエル・エルサリオン――




 勇者様……勇者ワタル様……


 私はティーカップを片手に、池の上を飛び交う蝶を眺めながら物思いにふけっていた。


 本当なら今ごろワタル様とニホンで一緒に過ごしている予定だったのに……



 月でワタル様に助けられた私と元親衛隊の皆は、地球の地上で勇者様と共に世界中を駆け巡った。


 楽しかった。勇者様と一緒に戦えることも、伸び悩んでいたエーテル保有量が爆発的に増えたことも。


 なにより戦いの合間に宇宙戦艦で一緒に過ごした日々が……


 ずっと続けばいいと思っていた。ずっとこの戦いの日々が……そうすればワタル様と一緒にいられると、勇者様のパーティの一員でいられるから。


 ワタル様……


 ワタル様は何も考えず王城を飛び出した私を追いかけ助けてくれた。そしてあっという間に月のダグルを殲滅し、お父様以外に叱られたことのない私を叱ってくれた。


 まさかお尻を叩かれるなんて夢にも思っていなかった。けど、ワタルさんの手はとても温かくて、叩く度に私を本当に心配してくれているのだということが伝わってきた。すごく痛かった……でも同じくらい嬉しかった。


 あの日から毎夜叩かれたことをベッドで思い出してる。その度に身体が熱くなってしまい、自分で慰めているのだけど私は変態なのだろうか? 


 でもまた叩かれたい。そう思ってしまう。


 ああ……なぜ私は未だにこの城にいるのだろう。


 帰国してすぐに私はお父様とお母様のもとに行き謝罪した。二人は泣きながら私を抱きしめてくれた。お兄様にはこっぴどく叱られたけど、最後は心配したぞと私をそっと抱きしめてくれた。


 それから地上にいた軍と月にいた決死隊の皆が戻り、私と決死隊の皆は謁見の間に呼ばれた。


 そこで月を守り抜いたこと、地上でダグルの殲滅に奮闘したこと。そして大量の魔結晶を持ち帰った功績により、最上級の勲章を賜った。その際に本来なら罰せられるべき私は、王であるお兄様の命令で月に行ったことにされた。


 私としては受け入れられない事だったけど、王妹が命令違反をして勝手に月に行ったということを知られるわけにはいかず受け入れるしかなかった。王であるお兄様にこれ以上迷惑を掛けれないから。


 その結果、王妹自ら決死隊を指揮しアガルタのためにその命を捧げようとした事になり、他国に対してのエルサリオン王国の威信を取り戻すことができた。私が率いた元親衛隊の者たちも貴族の地位を回復し、実家に戻ることを許された。全てはワタル様のおかげ……ワタル様が来てくださらなかったら、私はおろかあそこにいた皆が死んでいた。


 まさに勇者。ワタル様は幼い頃から私が憧れた勇者様そのものだった。


 そのワタル様に再び会うために地上に行くことの許しを得に、お父様とお母様のところへ行ったのだけど……


 《アリエル! お前はまだ懲りていないのか! これ以上勇者様にご迷惑を掛けるんじゃない! 》


 《そうですよアリエル。もうこの国から出てはなりません。それより婚約者のイシル卿が心配していましたよ。すぐに会いに行って来なさい》


 《……はい》


 エルサリオンとワタル様の友好のために、私をワタル様の元に喜んで送り出してくれると思っていたお父様とお母様は反対した。


 こんなはずではなかった。王妹の私がエルサリオンとワタル様との橋渡しになれると思っていた。諦めきれない私は、お兄様にお父様たちを説得してもらおうと思った。


 《アリエル。お前は何も分かっていないようだな。勇者様は国に縛られるのを嫌う。私が王妹であるお前を行かせれば、エルサリオン王国の差し金だと警戒するだろう。なによりカレナリエル様の機嫌を損ねる。勇者様のもとへ女性を送り込んだ地上の国がな、カレナリエル様の怒りを買い政権が転覆したそうだ。アリエル、お前は私を王位から下ろしたいのか? 》


 《そんなことは……はい。自分の立場も考えず申し訳ありませんでした》


 《アリエルなりに国のためを思ってのことだ。気にしてないさ。かくいう私も勝手なことをして勇者様に怒られたばかりなんだがな。ハハハ……まあお互いこれ以上勇者様からの印象を悪くしないよう、よく考えて行動していこう》


 《はい。お兄様……》


 頼みの綱だったお兄様にも、自分の立場を考えずに行動しないよう諭されてしまった。


 こんなはずではなかった。こんなはずでは……



「……め様……姫様」


「え? ラーシア、なにかしら? 」


 私が物思いにふけっていると、いつの間にか侍女長のラーシアが目の前に立っていた。


「姫様……帰国なされてからここ二週間ほど、心ここにあらずといった印象を受けます。何か悩み事でもおありですか? 」


「……ないわ」


 私は生まれた時から側にいるラーシアに嘘をついた。


 だって言ってもどうしようもないことだもの。王妹の私はもう勝手に動くことはできない。そんなことをしたら今度こそワタル様に嫌われてしまう。


「しかしご婚約者であるイシル卿との面会も断られている様子。たいそう心配なされていましたよ? 」


「そう……」


 結局彼とは戻ってきてから一度も会っていない。会うと結婚のことをどうしても考えてしまうから。


 彼との結婚を考えると胸がモヤモヤする。王家の女として生まれた以上、断ることなどできないのは分かっているのだけど……どうしても彼と会う気にはなれない。


「姫様……よもや好きな殿方がいらっしゃるのでは? 」


「好きな人? そんな人いないわ」


 ラーシアは突然何を言うのかしら? 私に好きな人なんていた試しがないのに。


「そうですか。ですが頻繁にため息をされており、その度に勇者様の名を口ずさんでおりますが? 」


「そ、それはワタル様と一緒にいた時間が楽しかったから。またお会いしたいと思っただけよ」


 そう、またワタル様と一緒に戦いたい。そして一緒にご飯を食べて、その日駄目だったところを叱って欲しい。できればまたお尻を叩いて欲しい。


「そうですか……姫様。一つお聞きします。勇者様の事を思い出すと幸せな気持ちになりますか? 」


「……ええ、なるわ」


「その時に胸が苦しくなったりなどは? 」


「す、するわ。なぜ分かるの? 」


「姫様……それは恋です。異性を好きになると皆がそのような症状になるのですよ」


「え? これが……恋? これが……私がワタル様に……」


 私がワタル様を……好き? 私が……


 ああ……やっとこのモヤモヤした気持ちの正体がわかった。


 私はワタル様に恋してたんだ。ワタル様が好き。だから会いたかった、側にいたかったんだ。


「姫様。もう一度先王様とお妃様とお話ししてはいかがでしょうか? 今度はご自分の素直な気持ちをお伝えください。きっと力になってくださるかと思います」


「私の素直な気持ちを……分かったわラーシア! お父様とお母様のところに行ってくる! 私はワタル様の側にいたいって! 」


 私は椅子から立ち上がり、ラーシアにそういってお父様たちのいる離宮へと駆けだした。


 そんな私をラーシアと侍女たちは、頑張ってくださいと言って送り出してくれた。


 絶対にお父様とお母様のお許しを得てみせる。ワタル様の元に行くために。




 ♢♢♢♢♢




「ご主人様あ~ん」


「あ~ん」


「ルリ、次はアタシな。ゴシュジンサマあ~ん」


「あ~ん」


「あら、ご主人様ソースが口もとに付いてるわよ。んっ……ふふっ、子供みたいで可愛いわ」


「ああ、ありがとうレイコ」


「ん……ワタルの世話は大変……ワタル、次は私……あ~ん」


「あ~ん」


 俺はレイコにソースを舐め取ってもらったあと、カレンに口移しで唐揚げを食べさせてもらった。


「ご主人様、果実水でやす」


「ああ、ありがとうトワ」


 そして次に、トワによって差し出されたコップに刺さったストローをくわえ喉を潤した。


 それからモモとヨウコとフィロテスにも食べさせてもらい、お腹いっぱいになった所で今度は俺がお返しにみんなにあ~んしてあげた。レイコなんか恥ずかしがっていて可愛かったな。



 ダグルによる未曾有の大侵攻を撃退してから1ヶ月ほどが経ち、俺たちは九州の高級旅館を貸し切り疲れを癒やしていた。


 この一ヶ月で一部の国を除き、世界の混乱はあらかた収まりつつある。死者の数は前回の侵攻を上回ったが、月や軌道上にいたダグルが地上に上陸していたらこんなもんでは済まなかっただろう。その辺は世界各国も理解しているようだ。日本政府に月にいたダグルの映像を見せたらぶったまげてたし。


 アメリカだけはまだまだ混乱が長引きそうだ。どうも政府に俺と早く和解するようデモや暴動が起こっているらしい。噂では反乱軍が組織されたとも聞いた。でも俺はもうあの国とは関わりたくないから好きにしてくれって感じだ。


 そんなアメリカを含め世界各国は、これまで以上に日本政府宛に俺との接触の仲介を打診しているようだけど、俺は全て断るようにと伝えている。変に関わって救世主だ勇者だと祭り上げられたらシャレにならない。


 一度そんな希望の存在になれば、救えなかった時に叩かれまくるのが目に見えてるしな。運が良ければ助けてもらえるくらいに思ってもらった方が俺は楽だ。だからどの国とも必要以上には関わらない。オーストラリアはバカンス用の国だから別だ。あのプライベートビーチにはまた行きたいし。


 ただ、俺は断れるけど小長谷たちはそうもいかない。対馬での戦闘以降も世界各地に残るダグルの討伐に狩り出され、獅子奮迅の活躍をしているらしい。そのせいでまだ日本に戻ってきていない。


 昨日隊員の子からカレンに休みたいってメールが来たみたいだから、そろそろ政府に文句を言って帰国させようと思う。日本に協力すると使い潰されるのが分かったとでも言っておけば大丈夫だろう。女性隊員の子たちと温泉に行く約束もしてるしな。


 地上の国だけではなく、アガルタの各国にも是非我が国で勇者様を称えさせて欲しいと言われたけど、面倒だからエーテル通信で式典に参加した。リモートワークってやつた。


 その際に金銭やいろんな勲章や貴族位。そして土地や家を各国にもらった。断ろうとも思ったんだけど、各国の代表と王の面子を潰すこともないかと思ってもらうだけもらっておいた。フィロテスが凄く良い場所ばかりの土地と家っていうからさ。彼女と結婚した時に別荘として使えばいいかと思ったわけだ。


 このほかにもアガルタの各国合同で、今回の礼としてまた宇宙船を造ってくれるらしい。オートマタも今度はちゃんと俺の希望を聞いて造るそうだ。俺は速攻で思いつく限りの設定を送ったよ。


 そうそう、オートマタといえばルリとリカとレイコを無事に口説けた。ルリとリカとは約束通り一緒に温泉に入って洗いっこして、そのままベッドに突入した。いやぁモモもヨウコも名器だったけど、ルリとリカもやばかった。しかも二人は感度が高めに設定されているみたいで、清楚系女子高生と元ヤン女子大生の設定の二人が大声をあげて乱れるそのギャップにハマりまくった。


 レイコはというと、それまで俺に全く興味がなかったフリをしていたのに、ルリとリカを口説いた途端に積極的になった。どうやら全員を攻略したら口説ける設定だったらしい。絶対彼女たちを造った技師は恋愛ゲームを参考にしてるって確信したね。それからはレイコとはソフトSMっぽい感じでえっちしてる。目隠しされたり縛られるのは抵抗あったけど、最近は俺も悪くないなと思い始めてる。どうやら少し目覚めたみたいだ。


 しかしなぜか毎回フィロテスが一緒にいるんだ。でもキツメの顔をした二人の美女が、女王様のコスプレをして俺を責めてくるのもなかなか……


 まあそんな感じで8人の美女たちと、毎日ただれた生活を送ってるというわけだ。



「ワタル……離島まで行ってルリたちの練習に付き合ってくる」


 夕食を食べ終わり部屋でゆっくりしていると、カレンが立ち上がりルリたちの訓練に付き合うと言いだした。


 ルリたちにもエーテル結晶石と魔結晶を埋め込んで強化したからな。その訓練にまた付き合うんだろう。


 最初彼女たちは膨大な量のエーテルに四苦八苦していたけど、トワのように身体強化と再生と飛翔と結界を使いこなせるよう日々練習しているみたいだ。


「ああ、あんまり遅くなるなよ? 」


「ん……じゃ行ってくる。トワ……」


「はい、カレン様。みんな行くでやすよ」


「「「「「はい、トワ様」」」」」


 トワの号令にルリたちは浴衣からメイド服へと着替え始めた。


「うっし! 今日こそはカレン様みたいに飛び回ってやるぜ! 」


「そういってまた墜落しないでよね」


「ばっか、もう大丈夫だって。コツがつかめたんだよな」


「私はご主人様に叩き落とされてみたいです」


「モモは相変わらずね。私は逆ね。ご主人様が苦痛に顔を歪めるのを見たいわ」


「また帰りが遅くなりそうですね。夫にメールをしないと……」


「着替え終わったら行くでやすよ! 」


「「「「「はい! 」」」」」


「なんだかなぁ。にぎやかになったな」


 俺はカレンとトワを先頭に部屋を出て行く彼女たちを見送りながら、隣に残ったフィロテスへそう話しかけた。


「フフフ、そうですね。みんな本当にいい子で毎日楽しいです。レイコとも気が合いますし」


「夜は特に息ぴったりだったしな」


「あ……あれはついノってしまって……痛かったですか? 」


「いや? フィロテスの意外な一面を見れて良かったよ」


 縛られている俺の上に乗って、ウットリとした顔をして腰を振るフィロテスは色っぽかったなぁ。


「恥ずかしいです……私にあんな性癖があったなんて……」


「ははは、それは俺もだよ。まあそういうのも全部含めてフィロテスが好きだから気にすんな。さて、みんなが帰ってくるまでさ、昨日見た海外ドラマの続きでも一緒に見ようか」


「ワタルさん……はい」


 俺は顔を赤らめているフィロテスの手を握り、隣の部屋に展開しているマジックテントへと入っていった。


 そしてリビングで二人でお酒を飲みながら、ここ最近カレンたちがいない時に一緒に見ているドラマを見るのだった。


 それから1時間ほど経ちドラマを見終えてほろ酔い状態になった俺は、フィロテスをひざの上に乗せて大きなおっぱいを揉みながらキスをしていた。


 するとリビングのドアが開き、カレンがリビングへと入ってきた。


「カレン、今日は早いな。もう訓練は終わったのか? 」


 俺はフィロテスをひざの上から下ろしながらカレンにそう声を掛けた。


 ん? カレンのやつ口もとが少し緩んでるな。何か楽しいことでもあったのか?


「ワタル、お客さんが来た」


「は? 客? こんな時間に誰……」


 俺がカレンにいったい誰が来たのか聞こうとした時。


 カレンの横から長い金髪を後ろでまとめ、白いドレスを身にまとった女性が現れた。


 その女性はよく知る女性で


「ワタル様……来ちゃった」


「あ、アリエル!? 」


 俺はドレスの前で両手を組み、頬を赤らめながら恥ずかしそうにしているアリエルを見てソファーから飛び上がった。


「んふっ……私もビックリした……小型宇宙船に乗って一人で来た」


「はあっ!? 一人で来た!? 確かアリエルは両親に地上に行くのを反対されたってフィロテスから聞いたぞ? まさかまた抜け出してきたのか? 」


 先々週くらいにアリエルの侍女を通して、彼女が地上に行くのを反対されたと聞いた。


 それはそうだ。結婚式が近いってのに、地上に旅行に行くなんてマリッジブルーだと思われかねない。一般人の結婚とはわけが違う。王族の、しかもダークエルフとの結婚だ。その結婚を前にして地上に旅行に行くなんて、どんだけ結婚したくないんだよと思われかねない。そうなったら結婚相手の男の面子が丸潰れだ。そんなこと、両親はともかく兄である現王が許すわけがない。


 だからアリエルが地上に来るのは、結婚して子供が生まれてからだと思っていた。


 それなのに……


「い、いえ。ちゃんとお父様とお母様の了承は得て参りました」


「マジか……どんだけ甘やかしてんだよあの親馬鹿……」


 なにやってんだよ。結婚前に地上の、しかも男のところに単身で行かせるとかありえねえだろ。


 娘に何かあったらどうするんだよ。絶対に後で説教してやる。


「そ、それでその……」


「はぁ……いいよわかったよ。約束だしな。日本を案内してやるよ。美味いもんもいっぱい食わしてやるから。それでいつまで地上にいられるんだ? 」


 まあしょうがねえか。約束だし数日くらいなら面倒見てやるか。できれば親衛隊の女の子も一緒が良かったんだけどな。アリエルだけだと急にいなくなりそうで怖い。行動が読めねえんだよこの子。


「あ、それなのですがその……」


「ん? どうしたんだよ。何か言いにくいことでもあるのか? 」


 俺はうつむき、何か言いにくそうにしているアリエルにそう問いかけた。


「は、はい……その……ずっとここに置いていただけないかと」


「は? 」


 ずっと? どういうことだ? 


 俺はアリエルの言っていることが理解できなかった。


 するとアリエルはうつむいていた顔を上げ、深呼吸をした後に俺の目を真っ直ぐ見て


「そ、その! 私……私は勇敢で強くて優しいワタル様が好きです! だからお母様にお願いしてお父様とお兄様を説得してもらって婚約を破棄してきました! でもお兄様が王族のままワタル様のところに行くのは駄目だって、取り込もうとしてると思われるって! だから私……王籍から除籍してもらって城を出てきました! もう帰るところがありません! どうかワタル様。私をここに置いてください! ワタル様の側にいさせてください! なんでもします! お願いします! 」


 顔を真っ赤にして、目に涙を浮かべながらそう一気にまくし立てた。


「え……えええええええ!? 」


 アリエルが俺のことが好きだって!? 初めて会った時に空中から叩き落とし、ついこの間尻を思いっきり叩きまくった俺を!? 


 それに婚約を破棄して王籍から除籍した!?


「アリエル様……」


「おお~……まさかの押しかけ女房」


 アリエルの爆弾発言に動揺し固まっている俺の横で、カレンが手を叩きながらノー天気なことを言っていた。


「ワタル様……駄目……ですか? 」


「え? い、いや……駄目……じゃない」


 俺は今にも泣きそうな顔で聞いてきたアリエルにそう答えた。


「あ……ああ……嬉しい……ありがとう……ございます……断られたらどうしようかと……うわぁぁぁん! 」


「アリエル……」


 俺は泣きながら俺の胸に飛び込んできたアリエルを受け止め、優しくその背中をさすった。


 まいったな。ここまで好かれていたなんて想像すらしていなかった。ただの勇者への憧れだと思ってたんだけどな。それが王族の地位と家族を捨ててまで俺の所に来るなんてな。ここまでされて駄目だなんて言えるわけないよなぁ。


「ん……アリエル泣かない……一緒に住む」


 カレンはそう言ってアリエルの頭を撫でた。


「アリエル様……いえ、アリエルさん。一緒にワタルさんを支えましょうね」


「カレナリエル様、フィロテスさん……ううっ……ありがとうございます」


「まったく……俺なんかのためになんもかんも捨てて来やがって。そこまでされて断るわけないだろ。ほら、部屋に案内するから、カレンたちと温泉に入って今日はもう休め」


 いつまでも俺の胸で泣いているアリエルの尻を叩き、カレンたちと部屋にいくように言った。


「ひゃいっ! 」


「ん……アリエルの部屋は隣……一緒に行く」


「ふふっ……アリエルさんと温泉に入るのは楽しみですね」


「俺はトワたちと入るから。ゆっくりしておいで」


 俺がそう言うとカレンは頷き、フィロテスと共にアリエルを連れて部屋を出て行った。


 まったく、いつも驚かせやがって。


 でもリーゼリットにそっくりの彼女の子孫が、俺のことが好きだなんてな。なんだか運命を感じちゃうよな。


 もちろんアリエルはリーゼリットじゃない。彼女はリーゼリットの代わりなんかじゃないし、そんな風に思ったりなんかしたら彼女を傷つけてしまう。


 だからアリエルを一人の女性として、ちゃんと向き合わないと。


 それが俺なんかを好きだと言ってくれた子へのせめてもの礼儀だ。


 でも見た目も中身もプリ尻までリーゼリットに似てるからな。これは難しそうだ。


 俺はカレンと入れ替わりで入ってきたトワたちと、露天風呂に向かいながらそんなことを考えていた。


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