第73話 合衆国

 


 ――アメリカ合衆国 カリフォルニア州沿岸部 サンタマリア 第12シェルター アレン・ルイス・ベリーマン ――




『おい、ロサンゼルスのインセクトイドがこの街に向かっているらしいぞ』


『サンフランシスコの虫どもも移動を始めたと聞いたぞ』


『あの大都市をたった二日で……』


『ど、どうする? 前回より強力な個体がいるらしいぞ』


『ムカデタイプのインセクトイドのことか……昨日シェルターの扉を簡単に食い破っている動画を見たな』


『見つかったらここも食い破られて一網打尽にされる。ネバダ州は山岳が多いしまだインセクトイドはいない。逃げるか? 』


『よせ! 外に出たら奴らに見つかる可能性が跳ね上がる。もし見つかったら、ほかのシェルターの者たちも巻き添えになる。今はここで奴らに見つからないことを祈っていた方がいい』


『祈る? 誰に祈るんだ? 神か? 神がいるならなぜ合衆国に前回の倍以上の、しかも強力なインセクトイドがやってきたんだ? そのうえ今回は地底人の助けが来ない。これも試練だっていうのか? 』


「試練じゃねえな。地下世界……確かアガルタだったか。彼らの助けがないのは自業自得ってやつだな。彼らと関係の深いニホンの救世主を敵に回したツケってやつだ』


『俺たちが何かやったわけじゃねえだろ! 前大統領のアイデンのクソ野郎が卑劣な手を使ったのが原因だろうが! 』


『その大統領を選んだのが俺たちアメリカ国民だ。投票していようがいまいがな』


『クッ……』


『とにかくネットで情報を収集しよう。この街にあるほかのシェルターとの連絡も密にするんだ。いつやって来ても対応できるようにな』


『そうだな……いざとなったら……』


『ああ……子供たちだけでも』



「アレン……」


「パパ……ちていじんさんたちはきてくれないの? 」


「大丈夫だ。アガルタの人たちはもうすぐ助けに来てくれるさ」


 シェルターにいる街の男たちの会話を耳にして、隣で心配そうな顔で見つめる妻のエルザと娘のアンネに笑顔でそう答えた。


 俺がそう信じたいだけだとしても。


 今から4日ほど前。インセクトイドの大群がこの地球にやってきた。それは過去最大規模の数で、このアメリカに15体もの奴らの母船のダンゴムシが向かってきた。そのうち6体は上陸前に海に落としたが、それらも翌日には太平洋や大西洋沖から本土へと上陸した。


 そしてそのうちの二体が無数のバッタと蜂タイプと共に、この街から400km離れたサンフランシスコと、200km離れたロサンゼルスの海岸に上陸した。


 インセクトイドが地球にやって来ることを知ってすぐに、俺は前回の侵攻後に作られた街のシェルターに妻と娘を連れて入った。ところが昨日になってある動画がネットで出回り、俺を含めシェルターにいる者たちはここが安全ではないことを知った。その動画はムカデのようなインセクトイドが、ロサンゼルスの地下深くに作った頑丈なシェルターの扉を食い破っている姿が映し出されているものだったからだ。


 どうやら今回は前回よりも強力な個体がいるらしい。それはこのムカデだけではなく、他にもクワガタやカブトムシにカマキリなど見たこともない個体が軍を蹂躙している動画も見かけた。嘘か本当かわからないが、クワガタタイプ一匹に師団が壊滅させられたという噂もあった。もしもそれほど強力なインセクトイドがいるのならば、恐らく連邦軍は壊滅したと考えた方がいいだろう。


 現時点でこの大陸で、インセクトイドがいないのは北部と南部の内陸部だけのようだ。ワシントンもニューヨークも、インセクトイドによって壊滅したという情報が流れてきてもいる。G-11イーグルと、レールガン搭載の戦車の大部隊が配備されていたにもかかわらずだ。これは前回の比じゃない被害だ。


 他の国はここまで酷くはないんだけどな。


 そう、この大陸以外の大陸に上陸したインセクトイドは、地底人であるアガルタ連合軍が現在掃討中だ。この北アメリカだけが未だ彼らの助けを得られていない。


 後回しにされているのか、助ける気がないのか。いずれにしろそうなった理由は分かっている。それは前政権が昨年、アガルタと繋がりの深いニホンの救世主。彼の名前は最近知ったのだが、ミスターセカイを罠にはめたからだ。それによりこれまで得られていた、アガルタからの希少鉱石などの資源や技術援助を受けられなくなっただけではなく、こうして危機の際にも駆けつけてもらえなくなったということだろう。前回は真っ先に助けに来てくれたってのにな。


 ミスターセカイによるM-tubeを使っての、一連の出来事の暴露と警告により追い詰められた当時の政府は、当初アガルタとミスターセカイが繋がっている事は知らなかったと弁明していた。だがその後にアガルタの物らしきUFOと、ミスターセカイが頻繁に接触していたことが知れ渡り更に追い詰められることになった。


 なによりそれまで得られていた、パワードスーツを作るのに必要な資源を一切得られなくなったのは大きなダメージだった。そのうえ長い同盟関係を築いていたニホンまで怒らせた。そのおかげでイーグルを世界各地から回収せざるを得なくなり、いくつかの国と安全保障と引き換えに締結していた同盟関係が解消された。それをもって前政権は退陣を余儀なくされた。


 新たに今年発足した新政権は真っ先にミスターセカイとの和解を試みた。しかしまったく相手にされなかったそうだ。予想はしていたさ、人質を取って取り込もうとしたんだ。そりゃいくら政権が変わろうとそう簡単に和解は無理だろう。


 相手が国家ならまだなんとかなるが個人だ。それもイーグル連隊と基地を個で壊滅させる絶大な力を持っている個人だ。なぜそんな力があるのかは謎だが、我が国は敵に回したらいけない者を敵に回したことは間違いない。そしてそれにより今、国が滅ぼうとしている。さっき誰かが言っていたが自業自得だな。


 それでも妻と娘だけでもなんとか助けたい。娘が虫に喰われる姿なんて想像すらしたくない。いざとなればここにいる者たちと一緒に囮になって逃がす。子供は見つかり難いという情報もある。だが今は駄目だ。地上に出ればそれだけ見つかりやすくなる。前回は地下鉄の構内に避難してなんとか助かったが、地上にいた者は皆殺された。外に出るのは最終手段だ。


 俺はエルザとアンネを抱きしめながらそう決意した。



 そして翌日の早朝のことだった。


『だ、第6シェルターにバッタと蜂タイプが現れた! 来たんだ! この街に奴らが! 』


『『『ヒッ!? 』』』


『第6だとここから10km西だ。ここに来るのも時間の問題だな。どうする? 』


『シェルターの入口まで来られたら手遅れだ。ほかのシェルターと連携して外に出よう。女子供だけでも逃がすんだ』


『これまでか……最後にアメリカの未来の為にこの命を使うか』


『お、俺も出る! もう成人した! 妹を逃がすために戦う! 』


『よしっ! ここにいても喰われるだけだ! ほかのシェルターと連携して出るぞ! 男は海に向かえ! 女子供は内陸に走れ! 』



「ああ……アレン……」


「エルザ、アンネを頼む」


 俺は目に涙を浮かべ頬を寄せてくるエルザにキスをし、二人の娘を託した。


「パパ、なにをするの? 」


「パパは虫と戦う。アンネはママと一緒にここから離れるんだ。大丈夫、虫を軽く倒してすぐ追いかけるから」


「いやっ! パパといっしょにいる! むしさんはおおきくてつよいっていってた! パパしんじゃう! 」


「ははっ、死なないさ。アンネとまた会いたいからね。いい子だからママと一緒に逃げるんだ」


「いやっ! パパもいっしょじゃなきゃいや! 」


「アンネ……いい子だから言うことを聞くんだ。必ずまた会えるから」


 俺は泣きながらしがみつく娘の頭を撫でながらそう言い聞かせた。


 周囲では俺と同じように男たちが妻や子供を抱きしめ、最後の別れを告げていた。


『近くのシェルターの人たちと合意した! 10分後に飛び出すぞ! 急いで準備をするんだ! 』


『『『おうっ! 』』』 


「エルザ、頼む」


 俺はほかのシェルターと連絡を取っていた男の言葉を聞き、アンネを引き剥がしエルザに預けた。


「いやっ! パパ! パパ! 」


「ううっ……アレン……愛してる……」


「俺もだ……でもさよならだ。必ず生き残ってくれ。そしてアンネと幸せに暮らして欲しい」


 俺はそういって銃を手にシェルターの入口へと向かった。そこには40人ほどのこの街の男たちが集まっている。どれも知った顔だ。


「アレン、覚悟はいいな」


「ベイク、子を持つ親は強いんだ。これからそれを見せてやる」


 俺は隣に立つ未だ独身の友人にそう答えた。


「そうか、そうだな……時間だ、行くぞ! 」


「おうっ! 可愛い娘を虫の餌にしてたまるか! 」


 俺はそう言ってベイクが開けたドアを潜ろうとしたその時。


「待て! 第6シェルターから連絡が入った! シェルターを食い破ろうとしていたインセクトイドが突然一斉に引き返したそうだ! 」


「なんだって!? インセクトイドが引き返したってどういうことだ!? 」


「み、みなさん! これを見てください! ロサンゼルスの生き残りの方がSNSでメッセージを! 宇宙船が! ニホンの救世主とアガルタの方たちが助けに来てくれたと! 」


「なっ!? ミスターセカイとアガルタが!? 」


 俺は後ろで携帯で情報を集めていた中年の女性の言葉に振り向き、彼女が掲げた画面を見た。そこにはロサンゼルスのシェルターから発信したと思われる人のメッセージと、添付された動画が映し出されていた。


 それにはシェルター内から外を映すモニターが映っており、そのモニター越しに数百隻の宇宙船と大剣を掲げ青白い鎧をまとったミスターセカイと思われる人物。そしてその周囲に滞空するドレスアーマーをまとった見目麗しい女性たちに、Eアーマーと呼ばれるパワードスーツをまとった、数千機はいそうなアガルタの戦士たちの姿が確認できた。


 あのビルはロサンゼルスの街にあるビル! 間違いない!


 助けに来てくれた! 敵だと認定していた合衆国をミスターセカイが、アガルタ連合軍を引き連れて助けに来てくれたんだ! 俺たちは見放されていなかったんだ!


「特攻は中止だ! ほかのシェルターに連絡してくれ! ニホンの救世主がアガルタ連合軍を引き連れ助けに来てくれたとな! 」


「よっしゃ! すぐに連絡する! 」


「アレン! 」


「パパ! 」


「エルザ、アンネ。どうやら助かったみたいだ。ミスターセカイとアガルタの戦士たちが助けに来てくれたよ」


 俺は銃から手を離し、駆け寄ってきた妻と娘を強く抱きしめた。


 それからは大西洋側のニューヨークやワシントンにも、アガルタの宇宙船と戦士たちが次々と現れたという情報がSNSで広まった。そして各地の避難民から喜びのメッセージと、シェルターの外の映像が次々とSNSにアップされた。


 そこには圧倒的な火力で蟻やムカデ、そしてバッタや蜂タイプのインセクトイドを蹂躙していくEアーマーをまとった戦士たちがいた。


 各地で戦っているEアーマーの形や色は様々で、エルフの乗る白くスタイリッシュな物の他に、巨人といえるほどの大男と大女が緑色の全身鎧をまとった物。茶色の体高が低くズングリとしたタイプの物に、黒くニホンの甲冑のような形をしたタイプの物があった。よく見ると茶色の機体は長いひげを生やした者が、甲冑タイプの物は獣の耳を生やした者が操縦していた。


 彼らは前回も他の国の救援の際に現れた者たちだ。確か前にニホンでは、ミスターセカイの近くにドワーフらしき者がいたと話題になっていたと聞いたことがある。恐らくあの長いひげを生やした者がそうなのだろう。だとしたら獣の耳は獣人か。エルフがいてドワーフがいるなら獣人がいてもおかしくはないだろう。


 まるでファンタジーの世界の住民が飛び出して来たみたいだな。まさか架空の種族が存在していたとはな。いや逆か。大昔に彼らが地上に出た時に目撃され、それを元に物語が作られたと考えた方が正確か。


 俺がそうやって各地の情報を見ていると、ロサンゼルスに上陸したインセクトイドの大部分の殲滅が終わっていた。アガルタの戦士たちが宇宙船の周りに集まると、ミスターセカイが前へ出て残った芋虫の形をした物や、カブトムシやクワガタタイプのインセクトイドを軽々と殲滅していった。


 なぜアガルタの戦士がやらないのか疑問に思っていたら、俺と同じ疑問を持った者にSNSでこれらはアガルタの戦士たちでさえ倒すことができなかったと答えている者がいて理解することができた。


 そしてミスターセカイが腕を上げると、その強力なインセクトイドのみを戦士たちが回収し宇宙船に戻っていった。その後その宇宙船はサンフランシスコ方面へと向かっていった。


 それから彼らは各地であっという間に地上と空にいるインセクトイドを殲滅し、次の地域へと移動を繰り返していった。


 その移動速度はとてつもなく速く、たった半日ほどで合衆国全土のインセクトイドを殲滅したようだった。


 その様子を俺はベイクとずっと見ていた。


「前回よりも数が多く、強力なインセクトイドがいたというのに……なんという強さだ」


「アガルタの戦士でも倒せないインセクトイドがいるとはな。これはもう地に頭をこすりつけてでも、ミスターセカイに許しを得るしかねえだろ。明らかに別格の強さだ。彼に敵認定されたままじゃこの国は間違いなく滅ぶ。合衆国のプライドなんかドブに捨ててやる。詫びの一つも伝えられねえまま、今回の事態を招いた政府のクソどもを皆殺しにしてでもな。家族を守るためならなんだってしてやる」


「そうだな。次も助けてくれるとは限らない。俺も抗議に参加する。軍は壊滅状態だ。政府も必死になるだろう」


 地上の人間の力や科学でどうにかなる相手じゃない。ミスターセカイとの和解は急務だ。彼に敵認定されたままでは、アガルタとも関係修復が不可能なことが今回の戦いで分かった。


 彼は明らかにアガルタの戦士たちを指揮し、そして戦士たちは彼に従っていた。ニホン人がいったいどうしてそんな力を得たのかなんてどうでもいい。もしかしたら彼はアガルタの英雄か何かで、地上の人間に擬態しているだけなのかもしれないのだから。


 俺はベイクと今後のことを計画しながら、安全宣言が出るのをシェルターの中で待つのだった。



 ♢♢♢♢♢




「さて、こんなもんか。もう大物はいないよな? 」


 俺はカナダの首都にいたカブトムシとクワガタを片付けたあと、地上に降りてからフィロテスに確認した。


「はい。軍からはもうレベル3以上のダグルはこの大陸にはいないと報告が来ています」


「そっか。ならカマキリとカブトムシとクワガタのダグルをアリエルたちに回収させてくれ」


「はい。アリエル様に連絡します」


「ん……疲れた」


「ははは、まあなんだかんだとクワガタ狩りに世界一周しちまったからな」


 三日間移動を繰り返し寝不足になっているせいか、隣で眠そうな顔をして寄りかかってきたカレンに俺はそう笑いかけた。


 対馬で小長谷たちに日本に来るダグルを殲滅させた後、アリエルたちを連れてカブトムシ狩りに向かったんだけど、いい具合に世界中に散乱していてさ。日本に近い中国とインドのカブトムシとクワガタから殲滅しに行って、そのあとアフリカから中東、ヨーロッパとアガルタ連合軍を追いかけながら残されたカブトムシなどを殲滅して回った。


 ちゃんと宇宙船で寝たんだけど、日付変更線を何度もまたいだからな。体内時計との狂いでなかなか眠れなかったりした。そんな時は眠くなるまでベッドでカレンとフィロテスとで運動してたんだけど、余計寝不足になるだけだった。


 そんな事を三日繰り返し、南アメリカに着くとちょうど各地に分散していたアガルタ軍が集結していた。せっかくだから、全軍で最後の北アメリカ大陸に行くかって事で一緒に来たわけだ。アメリカには色々思うことがあるけど、国民には罪はないからな。一番軍事力が高いから最後になったけど、思っていたよりも持ち堪えられていなくてビックリした。


 恐らくアガルタから資源の供給が止まったことで、パワードスーツのイーグルの生産数が減ったのが原因かも。それでもレールガン搭載の戦車や、地球産の鉱物でパワードスーツを作っていると思っていたんだけどな。残骸を見る限りではどうやら作っていなかったみたいだ。こんなに早くまたダグルがやってくることを予想していなかったか? 日本は全力で準備してたのにな。世界最強の国もだいぶ劣化したようだ。


「……もう当分いい」


「さすがにすぐにまた火星から来ないだろうし、次からは魔結晶を兵器化したアガルタ軍だけで倒せるだろう。増幅装置もあるしな。俺たちの出番はクワガタ以上のやつが来た時だな」


 火星のダグルも結構減ったはずだ。いずれ本拠地を叩く必要があるが、さすがに大気のない星で、しかも敵の本拠地に乗り込むには色々不安だ。装備もそうだけど、敵の本拠地で戦えるのは俺とカレンくらいだしな。


 魔王級がいるかもしれない大気のない場所に、大騎士級や英雄級混じりの何十万といるダグルの群れの中に俺とカレンだけでで飛び込むのはさすがに怖い。せめて雑魚を狩る者が必要だし、フィロテスやトワがレベル7の大騎士級くらいと1対1で戦えるようになってからじゃないとな。そのためにはアガルタの者たちの底上げも必要だから、敵の本拠地に行くにはまだまだ時間が掛かる。


 できれば行きたくないのが本音だけど。ダグルが地球を諦めてくれることに期待してたりもする。全部迎撃していけばその可能性が無いとは限らないしな。そうであって欲しいな。


「ワタル様! ダグルの回収を終えました! 次はどこへ参りましょうか! 」


「お疲れさん。終わりだよ終わり。逃げた雑魚はこの土地の人間に任せる。アリエルももう帰っていいぞ。早く王城に戻って両親に怒られてこい」


 俺はEアーマーから降りてお椀型の胸をプルプル上下させ、笑顔で駆け寄って来たアリエルに手を振りながらそう答えた。


 もうアリエルの部隊は十分戦った。カブトムシとか三葉虫のトドメを差させたから、エーテル量もかなり増えたしな。魔結晶を手土産に国に帰れば、マグワイアもソルティスも許してもらえるだろう。結局アイツらの治療は俺がやることになったけどな。まあ豚耳が外れて喜んでたからいいか。結構可愛かったんだけど本人は嫌だったみたいだ。


「え……もう終わり……ですか……そうですか……はい……その……色々とありがとうございました。ワタル様にお仕えできてとても光栄でした」


「そんな顔すんな。まあ両親が良いといったら、親衛隊の子たちも一緒にそのうち日本を案内してやるよ。俺の故郷には温泉とか美味いもんとか山ほど楽しいことがあるからな」


 俺はニコニコしていた顔を急激に曇らせ、悲しい顔で礼を言うアリエルがかわいそうになってリップサービスのつもりで遊びに来いと伝えた。


 なんだかんだでここ数日間ずっと一緒にいたからな。普通にしていれば良い子たちばかりだったし、俺も情が湧いたというのもある。


 まあそうは言っても帰ったら二度と外には出してもらえないだろうな。それならそれで、そのままダークエルフと結婚して元気なハイエルフの子供を産んでくれればいいさ。


「ほ、本当ですか!? ニホンをワタル様と……か、必ず行きます! 」


「……勝手に来るなよ? 両親の許可を得てからだからな? 」


 また勝手に抜け出してくるつもりじゃないだろうな? 学習能力が皆無だから心配だ。


「はいっ! きっと喜んで送り出してくれると思います! では早速お父様とお母様の許可を取りに戻ります! ワタル様、待っててくださいね! 」


「あ、ああ……本当に大丈夫かなあの子」


 俺は満面の笑みを浮かべ、元気よくEアーマーに乗り込んで飛び立っていくアリエルの姿に一抹の不安が頭をよぎった。


「んふっ……アリエル可愛い」


「可愛いというか子供っぽいというか……そんなに日本で遊んでみたかったのかね? 」


「違いますよワタルさん。アリエル様はワタルさんとまだ一緒にいたかったんですよ」


「アリエルが? ああ、勇者オタクだったな。ずっと勇者様のパーティの一員としてとかうるさかったしな。やっぱまだまだ子供だな」


 あいつことある毎にアルガルータでの戦いのことを聞いてきたしな。特に俺と一緒にいたレオニールやニキやガンゾの強さはどれくらいだったとか、どうすれば勇者様と共にいられるほど強くなれるかだとかそんな話ばっかだったな。なんでも勇者にずっと憧れていたらしい。


「フィロテス……アリエルも気づいてなかったっぽい」


「まさか……いえ、でもアリエルさまならあり得るかもです」


「……ダジャレ? 」


「え? ち、違います! 」


「ん? どうしたんだ? まあアリエルのことはほっとけばいいさ。どうせもう外には出れないだろうし、そのまま結婚するだろ。そしたら少しは落ち着くだろうから、その時に案内してやればいいさ。さて、みんな撤収だ! お疲れさん! 」


 何か話しているカレンとフィロテスにアリエルのことは放っておくように言い、俺はエーテル通信でアガルタ連合軍に撤収するように告げた。


(ワタルはわかってない……アリエルはリーゼに似てる……彼女の行動力は驚異的だった)


(ふふっ、アリエル様の今後が楽しみですね)


「まだ何か言ってるのか? 俺たちも宇宙船に帰るぞ。今日は久々に温泉に入りたいから九州に行こうぜ」


 俺はそう言ってカレンたちを連れて宇宙船へと向かった。


 あ~疲れた。早く温泉に入ってゆっくりしよっと。

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