第44話 改造人間

 




「ヒッ!? バ、バケモノ……く、来るな! 私はギルミア公爵家の……」


「ぷっ! そんなもんがなんの役に立つってんだ? 見てたろ? お前ら自慢の宇宙艦隊ですら俺たちの前じゃ無力だ。今からお前の実家を滅ぼすこともできんだぞ? 」


 俺は操縦室の中で左足以外の四肢を失い、震えているブランメルを鼻で笑いながらそう脅した。


 失った四肢からの出血は止まっているようだ。確かEアーマーにそういう応急処置機能があるとか言ってたから、それが起動したんだろう。高性能だよな。


「ダ、ダグルめ! ひ、人の姿をしたダグルめ! 貴様のようなバケモノはエルサリオンいや、このアガルタの全種族により必ず滅ぼされる! 貴様は死ぬのだ! その混ざり……ギャアアアア! 」


「テメェまだ分かってねえようだな」


 俺はあまりにも馬鹿過ぎる男の唯一残っている左足へ剣を突き刺した。


 そしてブランメルの髪を掴み、機体から外に投げ出した。


「あがっ! ぶべっ! 」


「カレンはルンミールたちの相手をしておいてくれ。邪魔されたくないからな」


「……わかった」


 俺はカレンにこちらに向かってくるルンミールたちの相手をするように言い、影空間から食料保存専用のマジックテントを取り出した。


 そして中に入り大型冷凍庫から目的の物を取り出し、マジックポーチへと放り込んでいった。


 マジックテントから出た俺は、ブランメルと同じくカレンを蔑んだ目で見ていた残りの男女の機体へと向かった。



 自らを侯爵家の令嬢とか言ってた女は、ブランメルと同じく操縦席で失った右腕を押さえ震えていた。俺は泣き叫ぶ女の残った腕を取り無理やり外へと連れ出し、そのまま引きずってもう一人の男の所へと向かった。


 男は両腕を失い救助待ちをしていたのか、俺の顔を見るなり必死にまた命乞いをしてきた。俺はそれに笑顔を返しつつ、Eスーツの襟を掴み外へと放り投げた。そして足を掴んで女と一緒にブランメルの隣へと放り投げた。


「さて、お前らはハーフエルフを侮辱した。それも俺の恋人をだ。俺は差別が嫌いなんだよ。あ、謝罪とか求めてないから。お前らエルフにそんなの求めても無駄だからな。どうせ口だけだし。だからお前らには差別されることがどういうことかを実感してもらう」


「うぐっ……な、嬲る気か……くっ……こ、殺せ! 」


「ううっ……もう許して……私は侯爵家の娘なのよ……お願いよ……ハーフエルフを二度と侮辱なんてしないから……」


「い、命だけは……どうか命だけは……」


「命は取らねえよ。俺は慈悲深いからな」


 俺はそう言ってマジックポーチから、凍った中鬼の太く茶色い腕と足。そして耳を取り出した。


「な、なんだ……その毛むくじゃらの足は…… 」


「これか? 人型の豚の魔物の四肢だ。美味いんだよこれ。特別にお前らにもやるよ『火遁』 」


 俺はファンタジーでいうところのオークのような姿をした魔物の四肢を、火遁の炎により溶かしていった。


 そしていい感じに溶けたところで中鬼の腕を手に取り、ナイフで長さを整えて地面にうつ伏せで寝転がるブランメルの腕へとあてがった。


「な、なにをする! そんな汚い物を私に近づけるな! 」


「大丈夫だ。そのうち愛おしくなるから『融合』 」


 俺は身をよじり抵抗するブランメルの背を踏みつけて固定し、背中にある錬金の魔結晶へとエーテルを流し融合をイメージしてブランメルの肩に、明らかにサイズの大きい豚の腕を無理やり融合した。


「うぐっ……ああああ! な、なんだこれは……なにをしている! な、何かが腕に……」


「こんなもんかな。よしっ! 次は反対側の腕だ。『融合』」


「ヒッ!? なによそれ! な、なぜそんな物がくっ付くのよ! 」


「なっ!? う、動いた? 」


 俺がブランメルの四肢に豚の腕を取り付けている姿を、横にいる二人は顔を青ざめさせながら見ていた。


 俺はそんな二人を無視し、次に同じく毛むくじゃらの太い足を取り付けていった。


「ほい、ラスト右足も終わりっと。もう少ししたら細胞が復活して神経も繋がって自由に動くから。すげーだろ? これが死体を融合して自分の地肉とする、キメラっていう魔物の特殊能力だ。今日からお前は豚とエルフのハーフだ。強く生きろよ? 」


 俺は上手いこと取り付けることがでたことに満足して、ブランメルに親指を立て満面の笑みでエールを送った。


「あ……ああ……なんだこれは……なぜ感覚があるのだ……こんな醜いものが私の身体に……と、取れ! 今すぐこれを外せ! 」


「さて、次はお前だな」


 俺は騒ぐブランメルを無視して侯爵令嬢へと身体を向けた。


「い、いやあぁぁぁ! やだやだやだ! やめて! 助けて! お父様! お母様! 」


「逃げるなって『プレッシャー』 」


 俺はブランメルの姿を見て発狂する女にプレッシャーを放ち、地面に押さえつけた。


「あぎゃっ! 」


「さすがに女の子にはもう少し優しくするって。それでだ。お前にはこのキュートなお耳さんを付けてあげよう」


 俺はそう言って毛抜き済みの、肌色の豚耳を両手に持ち女へと近づいた。


「うぐっ……やめ……いや……」


「ワタル……王都軍来た……」


 俺が女の頭に豚耳を添えていると、ルンミールたちの対応をしていたカレンがやってきた。そして俺に王都軍が来ることを伝えてきた。


「ん? 敵か? 」


「違うみたい」


「あっそ、なら早いとこ終わらすか」


 俺は仲裁とかされてもまた面倒だしなと、カレンにそう言って女の頭に豚耳を融合した。


「いや……いやーーーー! 取って! 取ってよ! 」


「エルフに豚耳はなかなか可愛いな。これじゃお仕置きになんねえか。まあいっか」


 俺は金髪の髪から生える豚耳が、なにげに可愛く見えて失敗したなと思っていた。トカゲにしておけばよかったかな?


 そして最後に男のところに近づくと、男は逃げる素振りも見せずじっとしていた。


「そ、そんなものを取り付けても無駄だ。エルサリオンの医療技術なら簡単に元に戻すことができる」


「だろうな。切って生やせばいいだけだもんな。でもよ? ここまで俺が暴れたのに、王都軍が敵じゃねえって言ってるみたいだぞ? これはどういう意味なんだろうな? 」


 ルンミールたちが敵対する気はないと言ってたからな。てことは招待した客を侮辱した責任を追及できるだろう。当然コイツらを元に戻させたりさせないし、家の中に引きこもらせたりもさせない。


「なっ!? 馬鹿な! 国が私たちよりも地上人を選ぶなど……」


「別にお前らを選んだって構わないさ。それならこの国は俺の敵だとハッキリするしな。まあ今はそんなことより、お前をハーフエルフの仲間入りにさせることが重要だ。蔑んでいたハーフエルフになって、差別されることがどういうものか勉強するんだな」


「や、やめっ! やめてくれ! 私はあんな姿になりたくない! やめっ! 」


「おいおい、仲間だろ? 差別はよくないぞ? 『プレッシャー』 『融合』 」


 俺は元に戻る可能性が低いと感じたのか、逃げようとする男をプレッシャーで地面に押しつけた。そして右腕、左腕と融合していった。


「あぐっ……ああああ! 」


「よしっ! これでミッションコンプリート! せいぜい見せしめになってくれ」


 俺は久々の改造人間手術を終え達成感を感じていた。


 周囲を見るとルンミールにフィロテス、ジオに騎士たちが青ざめた顔をしてこっちを見ていた。


 あーあ、フィロテスには嫌われちゃったかな。まあしょうがねえか。ここまでしなきゃ若いエルフはわかんねえからな。


「よく聞けお前ら。ここはエルフとダークエルフの国じゃねえのか? その象徴たるハーフエルフを差別するということは、国のあり方を否定しているということだ。つまりは国家への反逆だな。俺はそんな奴が高位貴族の子息にいたから教育してやっただけだ。いいか? 帰ったら周囲の者たちに伝えろ! 今後ハーフエルフに対し俺の前で眉ひとつでも顰めさせた奴は、皆この姿になって差別されることがどれほど辛いものかを経験してもらう! 」


 俺が気絶しているのであろう、ぐったりしている王女を囲んでいた騎士たちにそう言うと数人が目を逸らした。


 俺はそいつらの顔を覚えておき、目の前で自分の四肢を見て呆然としているブランメルたちに背を向け、カレンとともにルンミールのところへと向かった。


「セ、セカイさん……申し訳ございません。全ては私の不手際です。アリエル様の来襲も、隣領の子爵軍を止めれなかったことも全て招待した情報局長である私の責任です。エルサリオン王国は決してセカイさんと敵対するつもりはございません。つい先ほど王と六元老から、全ての貴族にセカイさんへ手出しをした者は貴族位を剥奪する旨の布告がなされました。もう二度とセカイさんを攻撃しようとする者はおりません。ですからどうかこれ以上のことは……」


 俺がルンミールたちのところへ着くと、ルンミールが青ざめた顔で全ては自分の責任だと言い出した。


 そういう問題じゃねえんだけどな。


「ルンミールの責任じゃねえよ。王女とその取り巻きが馬鹿なだけだろ。俺はカレンを侮辱した奴らと、降り掛かる火の粉を振り払っただけだ。手を出されなきゃ別にエルサリオンをどうこうしようって気はねえよ。ただこの国は嫌いだ。ハーフエルフを差別する奴がいるような国とは付き合いたくない。もう二度と来ねえよ」


「うっ……そ、それは……申し訳ございません」


「ワタルさん……申し訳ありません。ですがそういった者たちは極少数で……」


「ほんとにそうか? 上位貴族の子息にいるくらいだぞ? そいつの治める領地のエルフが影響を受けてないと言えるか? なら聞くがエルサリオンにハーフエルフは何人いるんだ? 何千年って共生してるんだ。0ってことはないだろ」


「……申し訳ございません。おりません。その……皆国を出て獣人と巨人の国に移住しておりまして……」


「やっぱりな。俺がいた世界のハーフエルフもそうだったよ。ハーフエルフを産んだ両親も国を出ざるを得なかった。なあ、そんな国とカレンと俺がまともに付き合うとか思うか? わざわざ嫌な思いをしてまで付き合うメリットがエルサリオンにはあんのか? ないよな? なら二度と関わりたくねえと思うのは普通だろ? 」


「…………はい」


 カレンの両親も巨人族のいる地域で生活していた。エルフとダークエルフのそのどちらの国でもカレンが虐められたからだ。


 何千年共生してもアルガルータのエルフたちと同じなら、わざわざエルサリオンと付き合う必要はない。近づかなきゃ嫌な思いをすることもないからな。


「フィロテスのような優しいダークエルフがいるのはわかってるが、こうして秘密裏に会っても向こうから来るんじゃな。俺たちはこの地に来ない方がいいってことだ」


「セカイさんのおっしゃることはごもっともです。長年種族問題を放置し見て見ぬ振りをしてきた私たちのせいで、セカイさんとカレンさんに不快な思いをさせてしまったことを心よりお詫び致します。今回のことは王も重要視し、今後これまでよりも差別に対し厳しく対処することになると思います。私も微力ながら差別の無い世の中を作るために尽力していくつもりです。ただ、差別をする者ばかりではないということも、セカイさんには知っていただきたく、どうかご縁だけは切らずお残しいただけるようお願いできませんでしょうか? 」


 そんなこと言われてもな。地上のどっかの国みたいに毎日のように国をあげて嫌がらせをしてきてるくせに、そんな国民ばかりじゃないとか言われてるのとどう違うってんだ? こっちは不快な思いをしたくないから離れたいだけなんだよ。まともなのがいるとかいないとかは関係ねえんだよなぁ。


 まあここまでルンミールが食い下がるのも俺が魔結晶とか色々持ってるし、宇宙艦隊を壊滅させるほどの力を見せたからだろうな。万が一にも俺が地上の国に味方して、敵対されたくないんだろう。俺が地上の国のために戦うとかあり得ないけどな。


 でもフィロテスと会えなくなるのは惜しい。あのパンチラがもう見れなくなるのもなぁ。


「とりあえず客を侮辱したあの三人は、あの姿のまま外で生活させろ。それと王女は戦士に向いてないから、もう戦わせるのはやめさせろ。いきなり攻撃してきた子爵も責任を取らせろ。話はそれからだ」


「……承知しました。王に直接伝えます」


「あの三人を元に戻したら、二度とあんたらには関わらないからそう思ってくれ。俺も鬼じゃないから、十分反省したと判断すれば元に戻してやるし」


 まあほとんどは自殺しちゃうんだけどな。特にブランメルとかいう奴は耐えられないだろうな。


「そ、それも本人たちに伝えます。あのような姿になったのです。二度と他者を侮辱することは無いでしょう」


「どうだかな。馬鹿は死ななきゃ治らないとも言うしな。それより王都軍だったか? その後ろからも随分な数が来てるな。あれも王都軍なのか? 」


 俺は遠くの空に何百という宇宙艦隊らしきエーテル反応を見つけ、ルンミールになんの軍なのか尋ねた。


「いえ、周辺の貴族を押さえるため、六元老全てが急遽軍を出したようですのでその艦隊かと。当然敵対の意思はございません」


「あっそ、なら俺たちはおいとまするわ。ああ、これは約束の魔結晶な」


 俺はもうここには用はないと言わんばかりに、フィロテスに袋詰めにしておいた約束の『火球』の魔結晶20個を手渡した。


「ワタルさん……」


「大丈夫だ。またエーテル通信をするからさ。さて、カレン帰るか 」


「ん……」


「え? ワ、ワタルさん何を……」


 俺がカレンの腰を抱き寄せ、宙に浮いたところでフィロテスが少し慌てたように声を掛けてきた。


「いや、ちょっと警告も兼ねてな。俺たちだけでも亜空間ホールを抜けれるところを見せようと思ってね」


 もしも地上にいる俺たちに報復しようと考える奴がいたら、いつでも乗り込んでこれるんだぞってね。


「は? え? な、生身で……ですか? 」


「……よゆー」


「ええーー!? 」


「セ、セカイさん本気ですか!? 確かにセカイさんたちほどのエーテル保有量があれば、亜空間ホールを抜けることはできるでしょう。しかし呼吸はどうするのですか? せめて宇宙用ヘルムを用意するまでお待ちください」


「フラーラの装甲より遥かに強力な結界を張れるから、酸素はそこに閉じ込めるさ」


「そ、そんなことまで……」


「できるさ。だから俺たちには毒ガスも通用しない。まあそういうことだから帰るわ」


「ワタル……あの子欲しい」


 俺が今度こそ飛び立とうとすると、隣でカレンが観測所の外で立っているトワを指差しそう言った。


「……連れて帰るのか? 」


「ん……家事が楽になる……ワタルの世話も」


「そうか……わかった。俺たちがいなくなったからって処分されたらかわいそうだしな」


 俺はやたらと俺だけに冷たい感じのトワを連れ帰るというカレンの言葉に一瞬迷ったが、家事などカレンの負担が減るなら連れて帰ろうと決断した。


 家のことを何にもやらない俺が駄目なんて言えないしな。


「あの子はツンデレナイ性格がインプットされてると言ってた」


「デレないツンデレとか誰得だよ! なんの資料をもとにそんな性格作ったんだよ! 」


「大丈夫……本当はデレてもわかりにくいだけらしい……あとはワタル次第」


「そんな子なんて恋愛ゲームでも攻略対象にしたくねーよ。もういいよ、とっとと迎えに行くぞ」


 俺はなんつう特殊な性格設定にしたんだと、内心で製作者に文句を言いつつトワの所へと飛んで行った。


 そしてまったく無抵抗のトワを左腕に抱き抱え、遠くの空に見える亜空間ホールへと向けてグラウンドから飛び立ったのだった。



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