第21話 親友


 パシーン パシーン パシーン


「ぎゃあああ! 死ぬ! 死ぬ! 航! 高い! 落ちる! 撃たれてる! ワタルウゥゥゥ!! 」


「おいっ! ヒラキヨ! 足にしがみつくな! バランスが! だあああ! もうっ! とりあえずカレン! イーグルと対空レールガンをやるぞ!ってもう撃ってるし! 」


 俺は目を瞑り足にしがみついている平沢にバランスを崩され、もうとっとと真下からレールガンを撃ちまくってくるパワードスーツ部隊と、自走対空レールガンを処理するようカレンに告げた。が、カレンは既に魔銃を構えており、イーグルと対空レールガンに向けて攻撃を開始していた。


「ん……イーグルは硬いだけ……対空砲はただの鉄」


「そうだな。インセクトイドの物理攻撃に対しての耐久性重視の装甲だなありゃ。魔力砲を放つインセクトイドが出てきたらどこまで耐えられるか……」


 俺はカレンの二丁の魔銃から放たれる炎弾と凍結弾により、次々と炎上と凍結をしていくイーグルを見てただ硬いだけの装甲だなと感じた。


 まあ操縦者はエーテルの使い方を知らないし、機体にエーテルをまとわせることもできないから当然か。


 UFOのエーテルを魔力に変換して撃ち出している魔砲も、魔結晶にエーテルを通して発動する俺たちの魔法も、攻撃された側がより強いエーテルをまとっていれば減衰またはレジストすることができる。けどサクもイーグルもエーテルを機体にまとわせていないから、俺とカレンの属性魔法攻撃をモロに受けてしまっている。


 まあ俺たちの魔法は強力だからイーグルがたとえエーテルをまとったとしていても、地上の人間が保有するエーテル量じゃ防げないだろうけどな。ただ、UFOならあのエーテルを魔力に変換増幅する装置を使い魔力シールドみたいなのを張って、魔法の威力を減衰しそうな気がしないでもない。


 イーグルからの攻撃も、この程度のレールガンの攻撃なら結界が無くとも、レールガンから撃ち出される弾がまとっている微量のエーテルなんて簡単にレジストできる。それに飛んでくる弾も身体強化で強化された身体に傷を付けることはできないだろう。


 しかし平沢はそうはいかないし、衝撃までは0にできないから足場のない空中だとバランスを崩される。なので結界を発動しているわけなんだが、これだけ集中攻撃を受けても結界にヒビがはいる気配すらない。俺とカレンの結界は1等級と特級だが、この程度なら3等級でも余裕だろうな。


 俺は眼下の対空レールガンが全てカレンにより破壊され、イーグルも残り200機ほどになったところで一気に処理することにした。


「カレン、もういいだろ。戦闘機が来るから一気にやる」


「わかった」


 俺は遠くで旋回してこっちに向かってくる、戦闘機パイロットのエーテル反応を感じながらカレンにそう言った。そして徐々に後退しながらレールガンを撃ちまくって弾幕を張っているイーグルと、俺たちに空を飛ばれて何もできず全く役に立っていない戦車へ向かって魔法を放った。


「ヒラキヨがいるのに好き放題撃ちやがって。銃を抜いたんだ、死ぬ覚悟はできてるよな? 『轟雷』 」


 ドンッ!


 俺が魔法を放つと雲ひとつない空から数百本にも及ぶ稲妻が、イーグルと戦車へ一斉に降り注いだ。


 雷撃よりも遥かに威力の高い稲妻をその身に受けた200機に及ぶイーグルは、一瞬で黒焦げとなったうえに、機体の中から白い煙を吐き出しその場に崩れ落ちていった。


 戦車に至っては50両全てが爆発炎上し、一発の砲弾も撃つ機会もなく搭乗員諸共火葬されることとなった。


 キイィィィィン


 するとそのタイミングで6機編成の戦闘機が、東西から俺たちへ向けてレールガンを放ちつつ接近をしてきた。


 パシーン パシーン パシーン


 しかしその攻撃も虚しく全て結界により弾かれ、戦闘機は再度アタックするために俺たちの目の前で旋回離脱しようとその腹を見せた。俺は距離を詰め雷撃を放とうとしたが、足にしがみついていた平沢が漏らしながら気を失っており、俺の右手に襟を掴まれてぶら下がっている状態であることに気付いて空中戦をするのを諦めた。


 そうこうしている内にカレンは魔銃を放ち、2機の戦闘機を撃ち落としていた。俺がもう面倒だから戦闘機も轟雷で落とすかと魔法を発動しようとしたその時。


 西からUFOが猛スピードで近付いてきた。


「カレン! UFOだ! 奴らはもう敵だ! 射程に入ったら撃ち落とせ! 」


「了解」


 俺は西の残り4機の戦闘機とUFOはカレンに任せ、東の戦闘機に改めて轟雷を放とうと視線を戻した。が、どういうわけかUFOから魔砲が連続で放たれ、戦闘機は次々と撃墜されていった。


「おいおいおい! どういうことだ? 米国に俺たちを捕まえるよう指示したんじゃねえのか? 」


 なんだ? なんで味方を撃つんだ? まさかハンニバンの言っていたことは、俺たちに恩を着せるためのブラフだったのか?


「ワタル撃つ? 」


 カレンも驚いたようで、戦闘機に魔銃を放ちながらどうするべきか指示を仰いできた。


「いや、ちょっと待て。なんかよくわかんなくなってきた。とりあえずUFOに攻撃するのはやめておこう。なんかやる気満々みたいだし、戦闘機はUFOに任せて俺たちは居住区以外の施設や司令部がありそうな建物を空爆するか」


「わかった」


 俺は滑走路の向こう側にある自衛隊基地から、次々と打ち上げられる照明弾とサーチライトに照らされてながらも、次々と戦闘機を追い掛けて撃ち落としていくUFOを見て戦闘機はUFOに任せることにした。


 それから俺とカレンは二手に分かれて米軍基地の施設を次々と破壊していった。

 カレンは3種類の魔結晶を装着できるシリンダーを回転させて魔結晶を切り替え、豪炎弾を放ちビルを炎で包み込み、俺は雷撃で格納庫などを破壊していった。


 当然反撃を受けたが、そのどれもが通常弾の対空砲だ。それらが結界を破れるはずもなく、俺とカレンの反撃を受けてことごとく破壊されていった。


 軍施設を破壊している途中、地上の歩兵からの反撃はなかった。どうやら居住区の防衛のためにトラックや装甲車に乗り向かっているようだ。


 俺は数十台の装甲車が居住区を囲むように展開していくのを見て、向かってこないなら別にいいやとカレンのところへ行って一緒に自衛隊基地内の滑走路へと向かった。


 別に虐殺をするつもりはない。基地とその軍を無力化できればいい。


 カレンと合流して滑走路の方へ行くと、上空にいた戦闘機は既に全機がUFOにより撃ち落とされていた。それを行ったUFOは、地上からのサーチライトを嫌ったのか高度を上げ少し離れた場所で滞空しているようだった。


 そして米軍基地の滑走路に隣接する自衛隊基地の滑走路脇に降り、俺は平沢を芝の上に置いてからマジックポーチから水筒を取り出し平沢の顔に掛けた。


「ヒラキヨ! 起きろ! おいっ! 終わったぞ、もう大丈夫だ」


「ぶはっ! わっぷ! 水!? ここは……ハッ! え? 生きてる……地面だ……わ、航! 怖かったぞ! なんで空を飛べんだよ! てかなんで生きてんだよ俺!? 」


「だからグレイ仮面は俺たちだって言ったろ。それにあそこで飛ばなかったら戦車の砲撃もあったし、近接戦闘もしなきゃなんなかったからな。まあそれでも余裕だけど」


「あ〜もう信じた。完璧に信じた。なんか知らないけど全部の攻撃防いでたみたいだしな。あっ! それより海兵隊のイーグルはどうなったんだ? 逃げたのか? 」


「まあそんなところだ。無人の基地を爆撃してきたよ。それより自衛隊基地に行って保護してもらってくれ。俺たちは政府機関には身バレしてるみたいだけど、SNSで広められたくないから一緒には行けない」


 ここからだとイーグルの残骸は遠くて見えないしな。わざわざ言う必要もないだろ。人殺しなのは変わらないけどな。


「そう……か……航は俺を助けるために来てくれた。俺は感謝してる。何よりインセクトイドから日本を救ってくれたんだ。だからその……航は航だ……うまく言えないけど俺たちは親友だ! そういうことだ! 」


「なんだよそれ……ぷっ! 震えながら何言ってんだよ。まあありがとよ。巻き込んで悪かったな」


 本当は怖いくせに、俺のせいでこんな目に遭ったのに文句も言わず、震えながら変わらず親友だと言ってくれる平沢の言葉が嬉しかった。


「怖かったけど、終わってみりゃパツキンの美女といい思いできたしな。ちょっと高い授業料だったけど、会社に迷惑掛けてクビになるよりはマシかな。六菱グループで一番小さい会社だけど、3流大卒の俺がコネでなんとか雇ってもらえた会社だしな」


「ヒラキヨ……お前やっぱ変わってねえな。昔美人とヤれるなら銃で一発くらい撃たれてもいいって言ってたのを思い出したわ」


 あの言葉にはドン引きしたな。どんだけヤリてえんだよって、命かけないと美人とできねえのかってさ。


「女の尻追い掛けて遭難した航には言われたくねえって! 」


「ぐっ……」


「同類? 」


 違う! 俺は平沢みたいにえっちに命をかけたりしない!


「カレンちゃんにはそう見える? 昔から俺と航でナンパしてたしね。ツネはデカイ図体なのにチキンでさ。でも俺たちが失敗して帰ると残念そうな顔してたんだよ。アイツむっつりだからね」


「意外……」


「今は自衛隊でやたら勇ましくなってたからな。まあムッツリなのは変わらないだろうけど……ん? おっと、お迎えが来たみたいだ。俺たちはまだちょっと寄るところがあるからここでお別れだ。巻き込んで悪かったな。もう二度と手を出させないようにしておくからさ」


 平沢と昔話をしていると、滑走路の上をこっちへ向かって走ってくる高機動車が見えた。

 俺はこのあと横須賀に行って海兵隊の拠点を潰すつもりだっので、平沢に別れを告げた。


「寄るところって……おいおいまさか……」


「やるなら徹底的にだ。でないと次は婆ちゃんが攫われるからな。それじゃあまたな! 」


 俺は平沢にそう言ってカレンと共に上空へ飛び立とうとしたが、こちらに向かって来る高機動車から半身を出して叫んでいる人間を見て動きを止めた。


 はあ!? マジかよ! なんでここにいるんだよ!


《 おーい! 航〜! 航だろ!? 航とカレンさん! 》


「小長谷……」


「え? この声はツネ!? 」


 俺と平沢はここでこのタイミングで会うはずのないもう1人の親友の姿に、ただ驚くことしかできないでいた。



 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


 補足


 ▪️エーテル……宇宙に漂うエネルギー。霊体、オーラ。一定の知能を持つ生物の魂に存在する。同じエーテルを保有する者を殺すと、霧散する魂の一部(エーテル付き)を取り込める。結果、自身のエーテル保有量の上限が増える。経験値的な物。


 ▪️レールガンの弾……レールガンを撃ち出すときに発生するプラズマにはエーテルが含まれる。撃ち出される弾は短時間だが、そのエーテルを微量だがまとっている。インセクトイドなどエーテルをまとっている個体には、エーテルをまとった攻撃が有効なためダメージを与えることができる。威力:小


 ▪️魔力砲……体外に出るとすぐに霧散するエーテルを、なんらかの方法で魔力と呼ばれるエネルギーに変換し撃ち出したもの。インセクトイドなどエーテル体がまとっているエーテルを打ち消し、強力なダメージを与えることができる。威力:中


 ▪️魔法……航とカレンがいたアルガルータの世界を襲った魔物が使っていた特殊能力を航が魔法と名付けた。その根源は魔物の体内にある魔結晶と呼ばれる物。魔結晶にエーテルを流すと魔法が発動する。魔力砲よりも威力が強く、また炎など属性攻撃による追加ダメージを与えることができる。威力:特大

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