第1章 勇者の帰還
第1話 帰還
……ワタル
ん? 俺の身体を揺らしてるのは誰だ?
……ワタル
ああカレンか……いつもは俺が起きるまで隣でジーって見つめてるだけなのにどうしたんだ?
「……カレンもう少し……寝かせてくれ……」
俺はそう言ってまた眠りにつこうとした。
「ワタル! 」
ぬおっ! く、苦しい……これはカレンの乳? ぐっ……苦しいけど離れられない!
え? 水? なんだ? 泣いてるのか?
「んぷっ……ど、どうしたんだよカレン……なにを泣いてんだよ」
眠るのをやめて目を開けるとやはりカレンの乳に埋もれていて、さらに頭をカレンに抱きかかえられていた。俺は頭をひねりカレンの乳から抜け出すと、大粒の涙を流すカレンの顔が目に映った。
「よかった……ワタル生きてた……」
「生きてたってなにを大袈裟な……俺がそう簡単に……あれ? 」
あれ? おかしい……あれ? 確か俺たちは3隻の宇宙船からとんでもない攻撃を受けて……
でも生きてるならあれは夢……だったのか?
俺は夢か現実かわからなくなり、そっと自分の腹部に視線を送った。
すると龍革の鎧がえぐれており、半分以上無くなっているのが目に映った。
龍の革鎧がえぐれてる……やはりあれは夢ではなかった?
まさか生き残ったのか? あの攻撃を受けて?
「生き残った? 」
「ん……そうみたい」
「マジか……カレン! カレン! 」
「ワタル! 」
俺はカレンを抱きしめた。
なんで生きてるのかわからないがカレンがいる。それだけで細かいことなんてどうでもよかった。カレンを失わなかった。世界は救えなかったけど、カレンは失わずに済んだ。
そして俺たちは強く抱きしめ合いながらキスをし、激しく舌を絡め合いお互いの存在を確かめた。
数分ほどお互いの舌を貪るように求め合った俺たちは、ゆっくりと唇を離しまた強く抱きしめ合った。
するとカレンの顔越しに俺たちを覆う木々が目に映った。
すぐ手前の木の何本かは焼け焦げ倒れており、足もとには炭のような物が散乱していた。まるで俺がここで轟雷の魔法を使った後のように、俺たちの周りだけ草木が生えていなかった。
それよりも……普通の木だ……細い枝に葉っぱ……日本で見慣れていた木だ。
葉の色が薄くなっている。肌寒いことから秋なのかもしれないが、あれは知っている木だ。
アルガルータにある馬鹿でかい木でも葉でもない。普通の大きさの……
まさか……まさかまさかまさか!
「カレン! 飛ぶぞ! 『飛翔』! 」
「??? ……あっ……」
俺は背中に埋め込んである飛翔の魔結晶にエーテルを流し魔法を発動した。そしてよくわかっていない様子のカレンを抱き、勢いよく真上へと飛び上がった。
そして木々から抜け出し、空へと飛び出た俺の目に映っていたものは……
「富士……山……」
「……ふじ? さん? 」
俺の目の前には、見間違えるなどあり得ない特徴的な形の山。富士山がそびえ立っていた。俺は朝日に照らされる富士山を、信じられないものを見るかのように見つめていた。
「そ、そうだよ! 富士山だよ! ここは日本だ! 俺のいた世界。いや地球という星の俺が生まれ育った国だ! 」
「!? ……ここがワタルの言っていたチキュウのニホン……ここが……」
カレンは珍しく目を見開いて驚いている。
アガルータにいた頃はカレンには何度も故郷の話をした。俺の母国語を覚えたいというから言葉も教えた。
漢字はやはり難しく、俺も得意じゃないから簡単なものしか書けないし読めないが、ひらがなとカタカナは完璧に覚えている。基本的にカレンは記憶力が良い。
日本の話をするたびに驚き興味を持つカレンに、俺も楽しくなり色んな話をした。
カレンはいつか俺の故郷に行きたいと言っていたが、まさかこんな形で実現するとはな。
「帰ってきた……7年ぶりに……日本に……この国に、爺ちゃんのもとに……」
爺ちゃん……俺が突然いなくなって心配してんだろうな。
神奈川に帰らなきゃ。爺ちゃんを安心させなきゃ……
「……ワタルの故郷……ここが……電車やひこーうきがあるニホン……」
「飛行機な。でも日本語かなり上達したな」
「ワタルの……くにのコトバで……はなし……たかた……ワタルのぜん……ぶを知り……たかた」
「そっか……日本語はアルガルータの言葉より何倍も難しいのにカレンはほんと凄いな」
俺というポンコツ教材のみでここまで話せるようになるとはな。
「……愛の力」
「お、おう……」
相変わらず人形のように無表情なのに言葉はストレートだな。
その言葉が冗談とかではないのは、俺を抱きしめ胸に顔を埋めていることでわかる。言葉や表情よりも、行動って相手に自分の気持ちを伝える最良な手段なんだな。
ほんとこんなエロくて女好きでだらしない俺のどこがいいんだか。
俺はこんなに綺麗で性格も良く一途な子に、これほどの好意を向けられるような男じゃない。カレンのような子がいるのに、たくさんの女の子の乳に囲まれて過ごしたいとかいつも思ってるようなただのスケベなんだよなぁ。
まあとにかく帰ってきた。まずはこの物騒な鎧姿から着替えないとな。
平和な日本でこんな黒の革鎧姿とか、コスプレ会場以外じゃ浮きまくりだ。
俺はカレンと共に森の中に降り、背中に融合してある影空間の魔結晶にエーテルを流し自分の影に手を突っ込んだ。そして脳内に目的の物を思い浮かべ、微量のエーテルを影に流しそれを呼び寄せた。
すると手に目的の物の感触があり、影から引き出した。
この影空間の魔結晶は俺が名付けた。というか、等級の高い魔物はほとんどが俺とカレンで倒したから、そいつらの能力から俺が名付けて勝手にそう呼んでたら広まったって感じだ。
影空間の魔結晶の持ち主はめちゃくちゃ戦いずらかった。
人型のまさに吸血鬼ってやつの親玉でさ、言うなればヴァンパイアの始祖みたいなやつだった。殺しても殺しても復活して、一撃で始祖を消滅させるほどの攻撃は影の中に入って躱される。
カレンと二人掛かりで長期戦の後にやっと動きを止めて、完全に消滅させることができた時は2人とももうクタクタだったよ。まあ目的の物はドロップしたんだけどな。
実は吸血鬼は、身体強化と再生に老化停滞の魔結晶を持っているレアな魔物なんだ。
この老化停滞は、老化速度を3等級で3分1、2等級で5分1、1等級で10分1にするものだ。
つまり寿命が3倍と5倍と10倍になるわけだ。
んで、ヴァンパイアロードみたいなのが2等級、始祖の野郎はこの老化停滞の魔結晶の1等級を持っていた。等級の見分け方は魔結晶の色の濃さだな。この辺はどの魔物もだいたい同じだ。
老化が遅くなるのがどうしてわかったかというと、エルフに身体を調べまくられたからだ。
なんかエーテルの流れである程度わかるらしい。
その研究結果を聞いてカレンが2等級で5倍寿命が延びるなら、その上ならもっと延びるはずということでこの始祖を探し回り倒したわけだ。俺も必死に探したし戦ったよ。
まあなんだ。ハーフエルフは長寿だからさ。まあそういうことだ。
ついでに吸血鬼の始祖は身体強化1等級と再生の1等級に、この影空間の魔結晶を置いていってくれた。そしてその魔結晶を俺は背中に融合して使っている。
この影空間の魔法は自分の影であれば、中にいくらでも物が入る。ただ、入れるのは放り込むだけで楽だけど、取り出すのはちょっとコツがいる。戦闘中は使いにくいから、戦闘であまり使わない物を俺は入れている。
普段は俺とカレンはマジックポーチを腰に付けているから、ここに戦闘に必要な物は入れてある。このマジックポーチは空間拡張の魔結晶を取り付けてあり、見た目より中が広くなっている。
魔結晶のもとの持ち主は暴食の砂竜といい、なんでも食うデカイトカゲというか、腕や足が退化していてほとんどワームだな。そいつの胃袋にこの魔結晶はあった。
この砂竜は大きさ違いで3種類いて、一番小さい10mほどの悪食の砂竜で3等級の空間拡張の魔結晶。これは最大でポーチの中が10m四方の空間になる。次に体長20mの暴食の砂竜の2等級。こっちは20m四方の空間になる。そして最後に世界喰いという30m以上はある巨大なワームが1等級。これはなんと50m四方の空間を作る魔結晶だ。
あまりに便利なのであっちの世界では砂竜はみんな率先して狩ってたな。まあ暴食の砂竜あたりから返り討ちにあうやつも多かったけど。
俺とカレンはこの魔結晶を結構持っていた。それで龍革のポーチに俺が融合の魔法で取り付けて、20m四方の空間のマジックポーチを作ったわけだ。中身は武器や魔結晶やエーテル結晶石や食糧がほとんどだけどな。
というわけで魔物の魔結晶とエルフのエーテル回路、まあ電子基板みたいなもんだ。それを使ってできた色んな魔道具を俺は活用してるわけだ。今取り出した物もその一つだ。
閑話休題
俺は影空間から取り出した物を目の前に置いた。
それは30cm四方の四角錐のミスリル製の箱で、見た目はまんまピラミッドの形をしている。これには10cmほどに圧縮した1等級の空間拡張の魔結晶を取り付けてある。エルフのエーテル回路の技術で作ってもらったんだ。
実はアルガルータにはピラミッド型の建物がやたら多かった。なんでもこの形はエーテルを効率よく集めることができるそうだ。
初めて見た時はそりゃびっくりしたよ。宇宙共通なのか異世界共通なのかわからないけどさ、見覚えのあるピラミッドがあちこちにあるんだぜ? 妙に親近感が湧いたのを覚えている。
「マジックテント……ワタルとの愛の巣」
「ははは、そうだな。ここは日本だから武器とかは持っているとまずい。一旦着替えてから街に行こう」
「わかった……ワタルの生まれた土地……楽しみ」
俺はなんとなく嬉しそうな表情のカレンを見ながら、ピラミッドの側面にある黒い魔結晶へエーテルを流したのだった。
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