墓守魔女のバラッド

たおり

第1話 墓の魔女①

 セルマは墓守である。

 別に好きでなった訳ではない。彼女は故郷から、はるばる憧れの王都に出て、王立魔法学院に入学した。そこそこの成績を修め、卒業後は、お城のお抱え魔女として安定かつ薔薇色の人生を夢見ていたところに、あの日、学院の就職担当から思いもよらぬことを聞かされたのだった。


「募集がない?」 

 冷や水、いや青天の霹靂だった。

 これまで、卒業と同時に文字通りの宮仕えが約束されていたはずなのに、今年から、新規採用を見合わせると。

 しかも、城では増えすぎた魔法使いたちの削減に頭を悩ませていて、早期退職を奨励しているらしい。 考えてみれば、当然だが、魔女や、魔法使いは長命である。王宮には最年長八百歳を筆頭に、齡二百や三百を超えた先輩たちが、ごろごろ居座っているのだ。駆け出しの魔女など必要ない。


「募集が再開されるのは、早くて百年先かしら。まあ、途中欠員が出れば、中途採用の機会もあるから、その間、民間で経験を積んだらどう?」


 学院の就職担当は、にこやか、かつ無情に言い切った。民間で何をしろと?名前ばっかり有名で気難しい魔法使いの助手になって、こきつかわれるのも、派遣組合に入って、脳天気な冒険者どもと、危険な地の果てを目指すのも、健康魔法商品を売り歩くのも真っ平だった。後は薬屋と美容系くらいだが、資格を持っていない。配達業も論外だ。


「後は地元で探したら?」

 それはダメ、鳴り物入りで出て来たんだから。すごすご帰ったりしたら、どんなことを言われるか。考えただけでセルマは鳥肌がたった。


「何とかなりませんか?」

 目を血走らせて迫る彼女に、若干引きながら、担当者は言った 


「どうしてもというなら、まあ、一つ口がないこともないけれど……」

「やります。」

 セルマは、すかさず食らいついた。そして、すぐ後悔した。それは王立墓地の管理人だった。言ってしまった手前、後には退けない。

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