第9章 休暇
ここに来てようやく私の出番だ。私は仕事の息抜きのため、古い知り合いに電話をかけていた。
「もう……出ないつもりね……あったまきた。出るまでかけてやるんだから」
鏡の前でポーチの奥底にはまったチークを探しながら、右肩と右耳の間にスマホを挟み続けること三分半。これ以上は首の筋がおかしな方向に固まってしまうと悲鳴を上げた時、ようやく相手が電話を取った。
〔はいはい、なんですかぁ〕
「あっ!やっと出たわね!」
閑散とした女子トイレに、私の声がこだまする。
〔なんで俺にかけてくるんだ。忙しいんですよこっちは〕
とても退屈そうな声で言う。十年前からずっとそうだ。腹立たしい。私はチークの蓋を開けながら毒づく。
「とてもお忙しいあなた様が、どーせ今年も夏休み消化できてないと思いまして、電話した次第でございます」
〔ほっといてくれ。当直明けで適当につぶす〕
「そんな人生で楽しいの?つまんない男になったのね、嫌だ嫌だ」
かくいう私も、肌つやが幾分か減ってきた。化粧で誤魔化せるのはあと何年だろうか。
〔だったらいい提案をしよう。ほっといてくれ。つまんない男に突っかかるなんて時間の無駄だし、昔の男に絡み続けるのはみっともない〕
「ご心配なく。私これから合コンなの」
チークを厳かに塗りながら、私は突きつけてやった。返事は沈黙だった。おあいにくさま、私は前進を試みている。少なくとも。
「まあいいわ、私明日から休みなの。三日空けといて」
〔……明日……?三日……?どこに〕
メイクはバッチリ決まった。チークの蓋をバチンと閉じて、鏡の中の自分にパチンとウインクした。
「名古屋でも行こうかと思って」
三日後、マンションを後にした二人は、新栄町から東山線に乗っていた。
「ふーん。じゃ、ミロクが助けてくれたんだ」
「あぁ、オレもビックリしたよ」
マンションにこもること三日、心音はすっかり回復していた。
「急にふらっと現れてよ、タクシーに乗せられて、あのマンションまで連れていかれて、食費までくれたぞ」
響が開いた財布の中には、数日前には無かった一万円札が入っていた。まさか二度も助けられるなんて、心音は思いもしなかった。
「でも大丈夫かなー、あいつも白崎組だろ?チクられたりしねえといいんだけど」
響の心配はもっともだ。同じ立場にいたら、百人が百人ともそう思うだろう。だが、心音には確信があった。
「大丈夫……だと、思う……」
「あん……?……なんでだよ」
「前にもね、助けてくれたの――」
『あっ!』
一週間前だ。ヤマダの息子と別れた直後、心音はミロクの前で立ちすくんでいた。
『お嬢――』
『ジャ、ジャマしないで!』
ミロクが眼鏡のブリッジを押し上げた瞬間、心音は叫んだ。
『私、もう決めたんだから!あの家も、この街も、みんな出て行くの!』
ただでさえ小さな瞳をきゅっと縮め、ほとんど点だけにして、ミロクは鼻からため息を漏らした。体の後ろで両手を組み、スラリとした佇まいで呆れていた。
『出て行って、どうされるおつもりですか』
『……わかるでしょう?』
心音はほとんど怒っていた。
『私が欲しいのは――』
『――一つだけ。えぇ、存じあげております』
心音の言葉はミロクに引き継がれた。お付きの者は、心音ではなく、オレンジに輝く街灯を見つめていた。
『ただ、今飛び出したところで、それが手に入るとは思えませんが』
『そんなことわかってる!でも、今しかないの!今しか……!』
肩が震え、声がかすれ、足には力が入らなかった。たまらない、たまったもんじゃない。心音はそれが欲しくて、ただそれだけが欲しくて、この脱出計画に片足を突っ込んだのだ。心はすでに、準備運動をほったらかしにして走り出している。あとはこの体だけなのに。不自由に縛られたこの世界から抜け出せれば、あとはもう――
ミロクが視線をおろした。街灯を見つめるのをやめ、心音を見るために。
『……わかりました』
その瞳に自分が写っていないことに気が付き、心音は息を飲んだ。
「それで、行かせてくれたのか?」
心音はこっくり頷いた。
「ふーん。なぁんだあいつ、いいやつだったのか」
「うん。私も知らなかった……」
「だったら、もうちょっといてもよかったのか……?でもよ、どうせならずっと助けてくれたらよかったのに。このままじゃ、オレ達また金に困るぞ」
「しかたないんだと思うの。ずっと留守にしてたら、パパに気付かれちゃうから……」
「あー……ねぇ……」
心音の〝パパ〟はそこらへんにいる普通のパパとはわけが違う。響もそれを知っているはずだ。そうでなくては、不満そうに鼻を鳴らしたりなんてしない。
だが、心を入れ替えた響は一味違うようだった。すぐにニカッと笑顔になった。
「まっ、ないもん当てにしたって仕方ねえ。心配すんな!次の手は打ってある」
こんなにも気に入らない〝次の手〟があるなんて、心音は信じられなかった。名古屋駅近くのねじれたビル、その中にあるファミレスに入っているのだが、ボックス席にいるのは、響と心音だけではなかった。
「クス子、今一緒に家出してる心音」
「どもー」
心音の反対側に座っているのは、真っ白なカットソーにハンチング帽という出で立ちのクス子だった。どんぐりのような瞳をキラキラ輝かせている。
「響もやるようになったねぇ、こんなに可愛い女の子引っかけるなんて」
「「ち、違う
二人は見事なハモリを見せてしまい、ますますクス子をニヤつかせた。響がすかさずフォローに入る。
「心音はめちゃくちゃ歌が上手いんだ。心音が歌って稼いで、ここまで来た。ほら、お前が探してた謎の歌姫、あれも心音だよ」
「え!?そうなの!?ウッソマジで?」
クス子がぐぐぐっと顔を近づけてきたので、心音は露骨に嫌そうな顔をした。
「な、なあに?」
「いや、心音、学校でよく歌ってただろ。なんかすげえ歌うまいやつがいるって、都市伝説みたいになってたんだよ」
「いやー!夏休み明けの校内新聞、一大スクープだよ!」
「そ、そう……」
クス子がどこからともなくノートを取り出し、ゴリゴリ言わせながらメモを取り始めたので、心音は若干引いていた。
「クス子は新聞部に入ってるんだ。あと放送部にも。月一で校内新聞刷って、朝配ってる」
響が当たり前のように補足説明してくれる。
「こんなところで歌姫に会えるなんて思ってなかった!光栄だよ!よろしく!白崎さんだよね!知ってるよ!」
「心音。名字で呼ばないで。バレちゃうから」
心音はつっけんどんに返した。
響がクス子の側に座っているのが、ムカついてしょうがなかった。自分の隣には二人分のリュックサックが置かれているだけなのに。
「あぁ、なるほどね」
クス子はなぜか響の顔を見て、ははーんと笑った。
「じゃあ、心音ちゃんだね!私は
心音は責めるように響を見た。
「……は?」
響は心外そうな顔をするだけだ。
心音はドリンクバーで作ったアイスコーヒーを両手でがっちり固定し、そこに千切れるほど噛み締めたストローを浸し、ものの五秒で吸い上げた。コーヒーが無くなっても吸い続けた。ズゴゴゴゴ、と下品な音がテーブルを汚す。
「……なんだよう」
さすがの響も、マナー違反には突っ込んだ。
心音はなんだか鼻がむずむずして、プイ、とそっぽを向いた。
「別に」
クス子だけが、グフフと笑っていた。
「んんぅ……あー、オレお代わり」
響がコップの底を覗き、立ち上がった。
「心音、何にする」
テーブルを離れる間際、心音のグラスを取ってくれた。まだ腹の立っていた心音は、ぶっきらぼうに答えてしまう。
「こーひー」
「アイスとホット、どっちだよ」
「あいす」
「砂糖は」
「いる」
「ミルクは」
「いる」
「……ったく」
ちょっとやりすぎたかしら、でも、響が悪いんだからね。心音は自分にそう言い聞かせ、離れていく背中を見つめていた。
そんな自分を見て、クス子がニマニマと笑っていた。脱皮中のセミを見つけた小学生のような、好奇心にあふれた笑顔だった。
「心音ちゃんてー……かわいいね」
予想外の方向から、想定外の爆弾が飛んで来た。かわすことができなかった心音は、鼻水が飛び出るくらい吹き出してしまった。机の反対側で、クス子がお腹を抱えているのが見える。
「アッハハ、もっととっつきにくい人かと思ってたよ。だいじょーぶ、心配しなくても、私と響はただの友達だよ」
「はっ――ほんとう!?」
心音の体を電撃が駆け抜けた。危うく机を砕く勢いで叩き、黒ひげ危機一髪も真っ青の速度で立ち上がった。それを見て、クス子は一段と楽しそうに笑った。
「そうそう、家が近くてさ、昔からよく遊んでたんだ。いわゆるー……幼馴染、ってやつだね」
「わぁ……!あっ、えっとぉ……」
喜んだのもつかの間、心音は恥ずかしさで顔を真っ赤にした。穴があったら入りたい。とりあえず、すごすごと座った。
「響、優しいね」
ドリンクバーの順番待ちをしている響の方へ振り向き、クス子がつぶやいた。
「私には、一度も注いでなんかくれなかったよ」
心音はハッとして顔をあげた。クス子の顔はまだ響の方へ向けられていた。心音からはその表情が見えなかった。
「つまりそれだけ、心音ちゃんのこと大事に思ってるんだよ」
クス子はようやくこちらを見た。その目は思慮深い、探るような眼差しに変わっていた。
心音はなんと言っていいかわからず、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「ほら心音、注いできたぞ」
心音が口を開いたその瞬間に、響が帰ってきた。
表情をゴロリと変え、クス子がダメ出しをする。
「ひびきー、タイミング悪いって」
「あ?なにが。オレが悪いのか?」
響はコーヒーのグラスを置いたところで一度固まった。もう片方の手にはオレンジジュースが握られている。
「そだよー」
なんでもない風に言いながら、クス子がこちらにウインクしてくる。心音はますます混乱して、両手でひったくるようにグラスを取り、ヒマワリの種を抱えるハムスターよろしく胸の前で構えた。ストローを噛み、ズルズルとコーヒーをすすった。二人のやり取りを、ドキドキしながら聞いていた。今すぐ答え合わせをしたい気分だった。
「で?私に相談って?」
「あぁ」
響はムッとした表情で、やっぱりクス子の隣に座る。
「稼ぎが少ない時があってさ。都会じゃなくても人を集める方法、なんかないか」
「ふうむ。それは、人さえ集めれば解決するのかい?」
「あぁ、歌は完璧なんだ。それは間違いない」
響は心音をイラつかせたいのだろうか、それとも喜ばせたいのだろうか、忙しくかなわない。
「ふーん。せっかくここまで成功した家出計画だもんね、諦めるにはもったいない……でもさー響、このまま逃げ続けて、どうするつもりなのさ」
「決めてねえ。決めてねえけど、大人になるまで逃げて。逃げて逃げて、それで大人になったら、一人で生きてく」
そう言い切る響の顔は、朝の太陽より堂々としていた。並々ならぬ決意の表情だった。彼にあんな顔をさせたのは、いったいなんなのだろうか。
「あはははは!無謀にもほどがあるよ、響!心音ちゃんがいなかったら、稼ぐこともできないのにさぁ!」
クス子がお腹を抱えて笑いだしたので、心音はビックリしてしまった。
「うっせ!」
響があまり腹を立てていないのも、心音の驚きを加速させた。さっきまでの顔は、笑い飛ばせるような重たさではなかった。
「まーでも、響は家出する元気があるだけ、まだマシだよ」
第一波の笑いを乗り切ったクス子が、しみじみと言った。
「世の中にはさ、追い詰められて、生きることから逃げちゃう――いや――逃げるしかなかった人だって、いっぱいいるわけだからさ。その点、響も心音ちゃんも、元気いっぱいだよ!いや、元気が有り余ってるね!こんなとこまで逃げちゃって!あはははは!だいじょーぶ!生きてりゃいいことあるよ!」
笑いの第二波はわりとあっさりやってきて、クス子を包み込んだ。心音はもう驚かなかった。彼女が笑うのには、きちんと理由があったからだ。
「あっはっはっ……はー、で、なんだっけ、」
「稼ぎの話だっつの、歌」
「あーそうだね、心音ちゃんの歌がすごいのは、実は私も知ってるとこでさ。というか、Twitterとかインスタではちょっとしたブームになってるんだよ。ほら」
心音の見ている前で、クス子がおもむろにスマホを取り出し、パパパッと手短に操作した。机の上に差し出してくれたので、心音はコーヒーを脇に置き、覗き込んだ。
「「え」」
スマホの画面を見て、心音と響が見事なハモリを見せた。
「「ええぇぇぇぇ!?」」
机の両側で叫び声があがった。クス子だけが、グフフと笑っていた。
「ね、ほら、これ、すごくない?」
「なにが」
私はTwitterの検索欄に〝歌姫〟と入れた場合、どのような結果が出てくるか、眠たい目をこするジンに見せつけていた。ジンの濁った瞳に、Twitterでつぶやかれた興奮と感動の体験の数々が映っている。
ヤバ 待って 歌姫見た マジで可愛い あと歌ヤバい!/人だかりできてると思ったら女の子が歌歌ってた/見たことない子だったけど、すごいうまかった。あれ話題の歌姫かな/すごすぎて動画撮るの忘れた!歌姫ちゃん天使だった!/大阪に住んでる友達が聞いたらすぐにわかるって言うから半信半疑だったけどいざ聞いた瞬間マジで歌姫ってわかったから歌姫はマジ歌姫
つい先日まで、歌姫というハッシュタグは神出鬼没的に現れ、神隠し的に消えていった。現れる場所、時間ともに一切の法則性がないため、誰も予測できず、慌てて撮ったようなブレブレの写真が数枚あるのみ。現時点で判明していることは、可愛いおさげの女の子が一人で歌っていること、始まりは大阪だったこと、その二つだけだ。
「はあ」
ジンは眠気覚ましのタバコを指でつまみ、ホテルの名前が入った灰皿にグリグリと押し当てた。
「ゲリラ的に現れる、謎の歌姫……?シンガーソングライターみたいなもんか?そんなに騒ぎ立てるようなことですかね」
「騒ぎ立てるようなことよ!その辺で歌ってる人なんて、言っちゃ悪いけど腐るほどいるじゃない。そのうち何人がプロの歌手としてデビューすると思ってんの?あ、もういいの?出ましょ、ぱっぱと」
「知るか、あと一本」
ジンは枕元に置いてあるタバコをまさぐり、害悪の塊を一本取り出す。ニコチンとタールを追い求め、百円ライターをカチカチ言わせる。
「それが、ここまで騒がれるなんて!間違いなく逸材だわ!音楽業界だって放っておかないはずだし、情報は先にとった者が勝つの!」
「そんなネットゴシップ追ってるようじゃ、いつまでたっても三流だ」
チクリと言われた嫌味により、私の描く華麗なマスカラ軌道がそれた。地球を失ったお月さまのように、見当違いの方向へ飛んでいった。
「万年窓口業務の男に言われたくないわよ。あ、いいあだ名を上げる」
私がマスカラで指さしてやると、ジンは呆れたように口をガパリと開けた。加湿器のように白い煙が吐き出される。
「行政の神」
『まー、学校であれだけ有名だったんだし、当然と言えば当然かもね。この際だし、利用しない手はないよ』
クス子の提案を頭の中で反復しながら、響は悩んでいた。ちなみに、ファミレスを出て、栄町まで戻っている。今は大きな公園のベンチの上だ。
「大丈夫だと思うよ。私のパパ、ついったーとか、いんすた?そういうのしてないから」
心音はというと、膝を折ってしゃがみこみ、ちょんちょんと歩く鳩を眺めている。その後姿を、響はこっそり見つめている。
「父親はそれでいいとして、これだけ騒がれたら他のやつが気付くだろ」
「ほかのやつって?」
心音が顔だけで振り向くので、響は慌てて視線を逸らした。どうも最近、ガラス玉のような瞳を直視できないでいた。
「例えばほら……警察とか」
「大丈夫だよ」
「は?」
「だって、何かあっても、君が守ってくれるもの」
いつの間にか心音が目の前に立っていた。はちきれんばかりの笑顔で、こちらを見ていた。
「でしょっ?」
響は面食らった。いつの間にか、山より高く、海より深い信頼を預けられている。
「え……オレ……?」
ファミレスではやたらと機嫌が悪かったのに、心音は情緒不安定なのだろうか?高校生男子の悩みは尽きない。
ジンと並んで歩きながら、私はスマホをつついていた。なにせ、歩いている間、ジンは一言もしゃべらない。そもそも、私といる間、ほとんどしゃべらない。だからスマホをつついていた。そして、ジンがバカにしたネットゴシップの新たな展望が、インスタのタイムラインに濁流のように押し寄せてきたことに気が付いた。
「……どうした」
ジンに話しかけられて、私は初めて自分が立ち止まっていたことを知った。久々の衝撃で、脳と体がいっぺんにマヒしてしまったのだ。こうしてはいられない。急ぎ、確認しなくては。
「きて!」
「はぁ?ちょっ……と、待てって!」
私はひったくりのようにジンの腕をひっかけ、風のように走った。こんなに速く走ったのは、大学で陸上をやっていた時以来かもしれない。つまり四捨五入すると十年以上も前になってしまうというのが、あぁいやだ、恐ろしいことだ。
走っている間、私の頭の中はインスタとTwitterで得た情報でいっぱいになっていた。かいつまんで、要約して、わかりやすくまとめるとこんな感じだ。
歌姫本人がTwitterでライブの告知してるって!/本物?これ/ホントにいた!マジだった!/ウソ!マジ?どこどこ?――
――Twitter見たら、名古屋の光の広場って書いてあったよ
後ろの方でジンがブツクサ文句を言っているのが聞こえたけど、私の耳には一つも入ってこなかった。お昼に食べる予定だった矢場とんの前を駆け抜け、一途光の広場を目指した。
そして、飛び込んできた歌声に度肝を抜かれた。
光の広場というのは、道路と道路に挟まれ、南北にまっすぐ伸びた細長い公園の一角だ。広場の正面、頭上には、金属でできた、まばゆい光沢を放つ船の骨組みのようなオブジェがドカンと鎮座しており、その骨組みの隙間から、小さく名古屋テレビ塔が見える。
彼女が歌っていたのは、その船の真ん前だった。
私は車道を挟んで反対側から見ていたのだが――なにせ、観客が多すぎて、広場はすでにアリの入る隙さえなかった――まるで彼女が、天空の塔から船に乗ってやってきて、人類に初めて〝歌〟を授けた天使に思えた。
車の多い名古屋にあって、その声は何者にも邪魔されることなく響き渡り、人々の間を縫って愛と生きる活力を与えていた。
今まで、ハッキリした写真や動画の類が出てこない理由がわかった。これを聞いて、普通ではいられない。
一人きり、歩いていた道
結果だけ、求めてた毎日
こけた時
沈んだ時
目の前に現れたのが君
嫌って言ったって
やめてって言ったって
君はいつも、歩き続けていたね
大きな間違いや
小さな勘違い
繰り返すよ、僕らは、生きている間に
でも
めぐりめぐる、毎日
とめどない、過ち
こころごと、からだごと
私を、包む〝闇〟
君が見せてくれた
〝歌え〟って叫んでた
こころごと、からだごと
私を、包む〝光〟
もしも、君が、忘れたら
今度は、私が教えてあげる
今こそ!立ち上がり!進む時!
力強いフレーズが、私の心を揺さぶった。広場全体が、祝福に包まれたかのようだった。
万雷の拍手を一手に浴び、少女はぺこりとお辞儀をした。
ジンがひっそりと涙を流していたのを、私は見た、気がした。
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