第115話

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 巨大な躰がまるで嵐の様に何かを巻き上げた。いや巻き上げたのは鎧をまとった戦士達。

 ロビーはあまりの強力な力を見て何と人間とは非力なのだと思った。

 空へと放り投げだされた騎士達もまた思ったに違いない。だが槍は誰も手放さない。もし地面にたたきつけられて頭が割られなければ、再び槍を手にして立ち上がり、立ち上がるのだ。

 だが、戦場は非情だ。 

 ぐしゃりという鈍い音が響く。

 ロビーは叫ぶ。

 声にならない叫び。

「……ってる!!」

 何を言おうとしたのか。

 狂っている、

 いや、

 それとも

 間違っているか。

 それならば何が間違っているのか。

 ロビーは再び矢を構えた。

 空から落ちて来る騎士達の隙間から巨大は口を開けて竜牙を見せながら咆哮する暴れ竜へ、矢を放った。

 落ちて来る人間達の隙間を縫うように放たれたその矢は、まるで多くの人たちの何かを運んで行く。

 そしてそれはゆっくりと暴れ竜の口へと吸い込まれ、やがてずぶりと鈍い音を立てた。

 頸動脈を貫き損ねた長剣の切っ先はだが、目標を失った訳では無かった。それは僅かだけの時間を暴れ竜に与えたかもしれないが口の中に突き刺さる矢が暴れ竜の動きを止め、それの瞬間をンベルドルは自分の手元に引き寄せるとしっかりと殺人の一撃を暴れ竜に見舞う為に暴れ竜の喉元に長剣を深く突き刺さしこんだ。

 その光景は矢を放ったまま立ちすくむロビーにも見え、ベルドルの放った一撃こそ、正しく竜の生命を奪った殺与の一撃だと感じた。

 ベルドルは長剣を手放しながら地面を転がり、周囲に目を遣る。

 見れば空から落ちて動けない戦士達の躰がいくつも見えた。

 胸を締め付けられるような感情が喉奥深くに去来し、唾まじりに苦く湧き上がる。

 言葉に出したい。

 だが、それを今は言わぬ。

 歯噛みする思いでベルドルは背後を振り返った。

 振り替えるとそこに大きく首をくねらせて崩れ落ち始めようとする暴れ竜が見えた。

 その姿を見て、ベルドルは言った。


「――終わりの時だ…」


 暴れ竜はベルドルの声を聞いていたのか、次の瞬間、大きな巨体をゆっくりと反転させるとやがて静かに躰を投げ出す様に峡谷へと岩を引きずりながら落ち行った。

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