第7話

(その7)


「ベルドル殿」

 

 ミライの声が響く。


「二つ伺いたいことがあります。それを聞かねば僕の命は危ない。秘密を持った依頼主を信じて仕事をするというのは危険だからです。それは分かっていただけますか?」

 シリィのミライを握る手に力が入る。

「はい、無論です。伺います」

 若者が静かに頷く。

 月明かりは輝きを増して部屋を照らしだした。

 若者の物静かな顔に僅かに強い意志が見えるのは、質問の内容によっては答えぬという現れかもしれない。

(しかしながら、これほど月光の月明かりが似合う若者もいまい)

 ミライの思いが若者の睫毛を揺らし、ゆっくりと言葉にする。

「まず、一つ目は貴殿の国名を」

 若者は細めた瞼を僅かに動かした。

 そこに明らかに答えられぬ意思が動いたのが分かる。

「答えれらぬ・・ようですね?」

 ミライは(だろうな・・)と思った。

 若者がアイマールとシルファの文明圏外からの来訪者であることは分かっている。

 ひょっとすればその場所を知られればシルファの侵略の対象になるかもしれぬ。どこかの谷間の小国であればシルファの軍事力の前では簡単につぶされる恐れもある。何千もの空を飛ぶ軍船と軍隊に美しい故郷を奪われた国は沢山あるのだ。

 だが若者が放った言葉はミライの意に反していた。それは若者思惑の中で優しくも強烈な反駁の意思だろうか。

「シルファなどの後進国には後れを取らぬ国、という回答では不足でしょうか?」


(ほぅ・・)

 

 ミライは心で小さく感嘆した。

 若者の言葉にはシルファなど恐れに足りぬという気概が含まれている。それは見事な剣技のように鮮やかにミライの疑惑を切り裂き、喉元に一気に剣の切っ先を突き付けた。


(言葉の間の取り方、躱し方、その閃きはさすが一流の剣士と言うべきか)


 ミライは苦笑する。シリィの握る腕に力が籠るが、それを優しく撫でた。

「いいでしょう。貴殿の国名は聞きません」

 若者は頭を下げた。

「ありがとうございます」

「では二つ目」

 ミライが触れるシリィの掌が汗ばんでいる。

 何かに恐れているのかもしれない。

 しかし、それは彼女だけだろうか、ひょっとすれば若者もかもしれない。

 小さく息を吸うと、ミライは若者に尋ねた。

 

「何故、貴殿はシリィを見て『母上』と言ったのです?」

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