第8話

 働いても働いても一向に貯金ができない状況に焦りを感じていた私は、もう少し時給のいい仕事に変わってみようかと考えた。仕事はできれば今のまま、夜勤がいい。母親が家にいて、桃香が眠ってくれている時間帯にしっかりと稼ぎたかった。


 転職を本格的に考えだした私は駅前に置いてある薄い求人誌を週に一度もらってきては隅から隅まで目を通した。私が求人誌を見ている横で桃香はテレビを見て爆笑していた。母娘にとって危機的状況ではあるが、そんな桃香の笑顔を見ているとほんわか癒されて、この笑顔を絶やしたくないと心から思った。そのためにはもっと稼がなければならない。そう思いながら何週にも渡って求人誌を読み続けた。


 求人誌を見ながらいつも気になっていたことがあった。それは「ナイトワーク」という求人誌の最後に載っている求人欄だ。ナイトワークの各求人の時給や月給の欄には驚くような金額が提示されていた。もちろん税金などいろいろ引かれてそのままの時給額がもらえるわけではないのだろうが、今のスーパーの時給とは比べ物にならず、勤めるとすれば今よりはずっと多く賃金がもらえることは間違いない。


 私にできるだろうか・・・。テレビでしか見たことのない夜のギラギラとしたネオン街や薄暗い照明の中で男女が酒を間に挟んで繰り広げている所謂「大人の社交場」のイメージが頭に浮かんだ。しかしただ浮かんだだけで、そういう場にいる自分は想像できなかった。

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