ユーシェとセバス
「これはこれはジン様!ようこそおいで下さいました。何かご不都合でもありましたか?」
あれから数時間と経たずに戻ってきたジンにリンフは揉み手で応対する。
「いやちょっと追加でな」
「おお!どうぞどうぞ!今度はどのような奴隷をお探しでしょうか?」
「このリストにいる奴隷はみんないるか?」
「拝見いたします・・・少々お待ちを。また客室に案内致しますのでそちらでお待ちいただけますか?」
「わかった」
待つこと20分。リンフがリストを片手に戻ってきた。
「詳しく拝見した所どうやらイーリア王国からの奴隷のようで、そちらは全て揃っておりました」
「全員でいくらになる?」
「・・・まさか・・・全員お買い上げを?いえ、そうですね・・・Sランクが25人に残り55人が全てAランクですので・・・金貨4万枚としたいところですが先程のお買い上げもあります。3万枚でいかがでしょう?」
「ユーシェ達より随分安いんだな」
「はい。さすがに王国第2王女ともなりますといかにSランクと言え100倍200倍の価値はあるものでございます」
「・・・ちなみにリンフと言ったか・・・そちらの商会は手広くやっているんだろ?」
「ええ。ピークス本国だけでなく本国であるディラン大陸でも展開しております」
「ディラン大陸でも顔は利くのか?」
「奴隷商だけでなく様々な商会も手掛けております。それなりに利くと自負しております」
「・・・なら追加で金貨50万枚を置いていこう。これでSランク以上の冒険者や同等の傭兵・・・それとリンフの基準でいい。それに相当する人達が奴隷となっていたらそれを担保にひと月ほど取り置いてくれないか?月に1度か2度ここに人を寄越す」
「全ては不可能ですが・・・わかりました。お取り置きをいたしましょう」
これは勝機と思ったリンフはここぞとばかりに売り込む。
「それとは別にそれだけの人数が必要とあれば家や土地などもこちらでご用意させていただく準備があります。どうぞ、衣食住全て申し付けるつもりで声を掛けてください」
「それは助かるな」
「いえ、私としても金払いのいい方は大歓迎でございます。ではひとまず奴隷達の受け渡しを致しますのでお待ちください」
こうして総勢80名の奴隷契約は完了した。ユーシェとセバスの名前を出すと一瞬ざわついたが大人しく着いてきてくれるようだ。
「あ、マスターおかえりなさい!」
時間を見計らっていたのか外で待っていた3人。所々ユーシェ様とか教官もご無事でという声が上がっている。
「リア。ホームの中・・・そうだな。入口からすぐ階段で上がれるようにして個室を80作ってくれ。それと地下に300平米くらいの部屋を。それと衣類だな」
「はーい!」
ホームに消えていくリア。元騎士や元兵士達を一度座らせてユーシェとセバスを横にな並ばせる。
「よく聞け。これからお前たちはおれの手足となってもらう。その際には先程居たリアとここにいるユーシェ、セバスの指示に従ってもらう。何か質問は?」
見渡すと30代ほどで屈強な男が前に出る。
「私はユーシェ様にお仕えした騎士団長でマゼライと申します。ユーシェ様ご無事で・・・・・・ジン様にお聞きをしたいのですが・・・ユーシェ様とセバスさんの首輪がありません。私たちに何をさせたいのでしょうか?」
「さっきも言ったけどお前たちにはおれの手足となってもらう。その為に全員最低でもレベルを100に上げてもらいたい」
「100!?そ、それは」
「できなければここに居るセバスの首が飛ぶ。そういう約束でお前たちを買い上げた」
絶句する面々。
「・・・ジン様の仰る通りです。皆・・・昔からの知り合いだ。久しいな。私は・・・ユーシェ様も含めて皆の事を気にかけていた。ここでまた集まれた事は僥倖と言える。どうか頼む。かつてのように力を貸してもらいたい」
セバスが頭を下げた。
「私からもお願いします。昔のように・・・いえ。昔以上に力を貸してください」
そしてユーシェも頭を下げる。
「や、やめてください!ユーシェ様も!セバス教官も!またこうして仲間たちとも会えたんだ!おれは協力したいです!」
前の方に座っていた若い青年が声を上げる。
「おれも!」
「おれもです!この命はユーシェ様に捧げた命です!今度こそお守り致します!」
「いい仲間を持ってるな」
ふとユーシェとセバスを見ると2人とも泣いて頭を下げていた。
「はい・・・ジン様・・・どうか私達を・・・よろしくお願いします」
最後にユーシェとセバスはジンに頭を下げた。ふとホームを見るとリアもつられてうるうるしながらハンカチを噛み締めている。いつからいたんだよ。
「ならまずは中に入れ」
「中・・・この中ですか?」
「思ったより広いぞ?階段登ったらお前らの部屋がある。鍵差しっぱなしのはずだからそれ抜いて無くさないように持っとけよ?それと部屋のものは基本自由にしていい。着替えたら一度地下に来い」
そう告げて中に入るジン。わけもわからずといった表情で中に入っていく面々。
「お、おい。なんでこんなに広いんだ?」
「魔法か?アーティファクト?」
「いやこんなアーティファクト見たことねぇよ」
「おい!部屋見たか?めちゃくちゃ綺麗なんだけど!」
ジンも様子を見に2階に上がるとわいわいと盛り上がる声で溢れていた。下に戻りお茶を飲む。
「ジン様リア様やはり普通ではないのですね」
「お前鑑定眼使ったろ」
「申し訳ございません・・・御二方とも隠蔽されているようで本来のステータスは分かりませんでしたが」
「いいよ。まぁ・・・それも含めてそのうち話すか。あ、2人の部屋作るの忘れてたな・・・リア」
「はいはーい!じゃあユーシェちゃんとセバスの部屋も作るからこっち来て着替えて!」
「リア様・・・貴方は偉大な魔法使い様なのですね。このような魔法私見た事がありません」
「照れるなー!ユーシェちゃんは口がうまいんだからー!」
「いえ、恐れながら私も同様です・・・」
「もーセバスも褒めてくれて嬉しいなー!マスターなんか全然褒めてくれないから!」
「やはり・・・リア様もジン様もお強いのでしょうか?セバスが鑑定できないとなると・・・」
「強いよー!とりあえず着替えて着替えて」
はいはい部屋はここだよとユーシェとセバスを部屋に押し込めるリア。
地下に行くと大きな部屋にチラホラと人が集まっていた。全員集まるまで待ち、座らせる。
「みんな揃ったかな?じゃあこれから部隊編成と役割を伝える。まぁ詳しく決めてないからおいおい追加もあると思ってくれ。まずはユーシェを筆頭に10人体制5チームをそれぞれが特化した部隊とする。4チームの1から順に剣、魔法、魔道具、盾に特化させるイメージだ。ユーシェいいか?お前は剣も魔法も使えるしレベルも高めだから問題ないな?」
「はい。任せてください。これでも幼少から武芸を嗜んでおりましたから」
「次にセバス直下の部隊だが、こちらは第5部隊。情報部隊として斥候や街の交渉役や全ての部隊の雑務等をメインとする。セバスいいな?」
「はっ。執事ゆえ教養から礼儀作法、その他雑務とレベル上げはお任せ下さい」
「部隊名は・・・ナンバーズでいく。ナンバーズの統括隊長にユーシェ。統括副隊長はセバス。振り分けはユーシェとセバスに任せる。武器や装備、魔道具類もこちらで用意しよう」
「はい」
こうしてなんとなーくで作ったナンバーズ部隊。何としても皆をレベル100にと必死に取り組もうとしていたセバスやユーシェだったが、見果てぬダンジョンの1階層からのダンジョンアタックや、ジンとリアの出す異次元の装備や魔道具類や薬類によりガンガンレベルを上げていく。100未満の低レベルということもあり、気づけば1ヶ月経つ頃には120~170までナンバーズのレベルは上がっていた。
1ヶ月後。
「ようやくしっかりとした形になりましたね」
多少口調の砕けたセバスがジンに声をかけた。
「よくやったよホント。あとでみんな集めて焼肉でもするか?」
「それは皆喜びます!いやー私もまたあのドラゴンの焼肉は食べたいですからな」
「こらセバス。あまり調子に乗らないの。それで・・・ジンはいつ私の旦那様になるの?」
こちらも口調が砕けて馴れ馴れしくなったユーシェがジンの腕を引く。ちなみにリアはユーシェちゃん!と、おこおこしている。
「じゃあみんなでドラゴン狩りでも行くか?それと嫁は募集してないって」
「いいですな。しかし・・・ジン様達には驚かされることばかりでしたな・・・」
「ホントですよ。うちの第1部隊なんてこれ以上どう強くなればいいんだ?とか思ってたのに・・・」
そう言って第1部隊長のハリーが第2部隊長のケリルを見る。
「うちもですよ・・・まさか最上級魔法を全員使えるようになるなんて夢かって感じでしたから」
「それを言うなら情報部隊なんて国宝級の魔道具のオンパレードですよ?姿を消したり変えたりする魔道具に映像を残す魔道具。ネズミとか鳥をかなりの数隷属させる魔道具に通信や転移の魔道具は全員ですからね」
第5部隊長のビルも勘弁してくれと高待遇を漏らす。何を要求されるか不安になるレベルなのだ。
「マジックバッグもだし装備や持ち物なんかもAランク以上の国宝級・・・全員状態異常耐性のリングに対物対魔法ダメージ75%カットの防具類。10歩程度なら空を歩ける靴に魔法の付与された剣や盾。魔道具使いの第3部隊なんて卑怯ですよ。10人くらい人を乗せて空を飛ぶ魔道具に最上級魔法を防げるほどの結界の魔道具、Aランクの魔物を一撃で仕留める魔力弾が飛び出る魔道具」
第3部隊長のカイトも指折り魔道具をあれもこれもと出していく。
「そうそう。うちの盾なんてドラゴンのブレスも防ぐからな・・・」
あれは怖かったなと第4部隊長のブランが訓練を思い出す。
「まぁみんな言いたいことはわかるわ。でもこれもジンに買ってもらったおかげだしね。感謝しているわ」
ユーシェが再びジンにくっつくとリアが引き剥がしにかかる。
「私もまさかレベルが170まで上がるとは思わなかったな・・・皆のレベルを上げなきゃ首が飛ぶと思っていたら自分自身がここまで強くなるとは」
そう言って拳を見つめるセバス。
「まぁいいことだろ?」
ジンがそう言うとセバスもそうですねと返した。
「でもマスター!これで基盤はできましたね!」
「ああ。リアもお疲れさん。後はもう少し時間をかければ」
「いよいよなのね?」
ユーシェがジンとリアを見る。
「リノス帝国にはピークス大陸から撤退してもらおうかな」
そう呟くジンであった。
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